第4話

「この神剣の名前ってなんだっけ。」


 僕は神剣のことを説明しようとしても、そもそもどんな名前だったかを憶えていないありさまだった。


「贄殿遮那でいいんじゃないか。」

「だからそれはダメだって。」

 と言うわけで座敷に三人であつまって「あー、」でもない、「こう、」でもないと意見を交わすことになった。


「第一候補、エクスカリバー。」

「もっとひねれや。」

「どう見ても日本刀やないかーい。」

 実際はご覧の通りである。

 旭がボケて僕と満月がツッコム。

 くわえて、茶をしばきながらせんべいを咥えてである。

 完全に茶飲み話である。

 あと、プロローグでも言ったが、アーサー王が岩から引き剝いたのはカリバーンですから。

 ちなみに件の神剣は僕らの真ん中に、…置かれることもなく隅にほっとかれている。


 余談であるが、さっきでてきた僕の父親なる者は使用人に捕まった後は、アレな人たちに引き渡されて、尋問かなんかのアレなことが行われて、人生アレになっていると思う。

 知ったこっちゃない、とニヒルに決めたいが本心は「いい気味だ。」である。

 まったく、「出てこなければやられなかったのに。」だ。

 いや、ここは「雉も鳴かずんば討たれまいに―――」だろうか。


 ともあれ、神剣の名前に関してだが、三人でボケを回しながらバカ騒ぎするだけになってしまった。


「ちゅんちゅん〇。」

「「アウトー。」」


「ひねれと言われたのでひねってみたぜ、カラドボルグ。」

「ひねり方が違う。」

「それもアウトー。」


「フォース的なもので光るジェダイのなんちゃらが持つアレ。」

「「アウトー。」」


祭りフェスでオタクが振ってる光るアレ。」

「「保留ぅ~。」」


 とてもいい気分で盛り上がる僕たちだが、別にお茶の代わりにアル的なアレを飲んでいるわけでは無いアルよ。


「ここは少し見方を変えてみるべきではないか。」

「具体的にはどうゆうのだよ。」

 神剣の名前についての話が脱線している気がする僕が何気なく言った言葉に、湯飲みでお茶をすすりながら旭が訪ねてくる。

「例えば、『エクスカリバー!』みたいに必殺技を叫ぶみたいに語呂のいい奴にするとか。」

「それもいいね。」

 僕のアイディアに旭も満月も賛同してくれた。


 ちなみにこの時も神剣は部屋の片隅にほったらかしである。


「はいはーい、私思いついた。」

「どうぞ。」

 手をあげて宣言したのは満月で、「どうぞどうぞ。」と勧める僕と旭の前で胸を張って叫んだ。

「泣け、叫べ、命乞いをしろぉ!」

「それじゃぁ、悪役じゃないか。」

「完全に剣の名前じゃねぇしぃ。」

「「「はっはっはっはっはっはっはぁ。」」」


「で、もともとは何を決めようとしてたんだっけ。」

「この剣の名前を決めるんじゃなかったけ。」

「そういえばそうだった。―――てきとうに決めちゃおっか。」


 僕たちが座敷でくつろいでいると、ドタドタといつもならさせないような、慌てた感じの足音が近づいてきた。


「旭、お前なんかやらかしたりしたか。」

「心当たりが無いな。」

「私も壺を割ったりしてないよ。」

「ならば僕たちには関係なさそうだな。」

「仁君、それフラグだよ。」


「草薙様、天堂様、大変態が大変で御座います。

 勢いよくふすまを開けて飛び込んできた使用人に僕たちは顔を見合わせるしかなかった。

「お嬢さん、落ち着いて。ゆっくり深呼吸をしてごらん。」


「流石は旭、流れるように女性を手玉に取っているぞ。」

「仁君もアレくらいできたら、女の子にモテモテになれるよ。」

「僕はモテたいわけじゃないんだよ。…ただ振り向いてほしいだけだよ。」

 満月にニヤニヤされながらだと落ち着かないものだが、そう待たずに旭は事情を聴きだしてきてくれた。

「二人とも、私がいない間にコイバナとかずるいぞ。」

「そんなんじゃないよ。むしろ旭がモテモテですなぁって話してたんだよ。」

「そうだよ。旭ちゃんは学校では女の子にモテモテなんだから。」

「デスヨネェー。」

「そんなことよりも大変だぞ。鬼が出たらしい。」

「え?ここら辺は結界が張ってあって鬼が出ることはないんじゃ。」

「仁のオヤジがやらかした。」

「ガッデム。おとなしく死に晒せ。」

「お望み通りやられたらしいぞ、真っ先にな。」

 僕たちはそんなことを言いながらも戦う準備を進める。

「ほかに被害は。」

「詳しくは分からないが、ここの者達は前線に出れるほどの者がいないらしいから今にも犠牲者が出るかもしれない。」

将義隊しょうぎたいの到着は。」

「結界をあてにしていたので近くに配属されたものが出払っており。」

 俺たちの準備を手伝うものや情報を集めてくれる使用人さん達はてんぱり出している。

 一応僕が神剣を抜くことでここでは特別扱いされてきた。

 ならばこそ、やってやれるんだからここは僕が指揮を執ることになるのだろう。

「二人ともいいか。」

「あぁ、まかせたぜ。」

「お休みのキスから、朝の下世話お世話まで何でも言って。」

「よぉし、満月のバカはほっといていくぞ。」

「応よ。」

「わぁーん、冗談だよ。置いていかないでぇ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る