第4話

『ぐぅっ・・・』

まともにヒットした攻撃に苦悶の表情を浮かべているオッサン。


「子供の攻撃で、やけに痛そうにしてるね。」

少し距離を取って、軽口を叩いてみる。


『痛いフリでもしてやらないと、またイジけるだろ?』

安い挑発を返してきた。


「ふっ。」

息を吐くのと同時に地面を滑る様に身体を低くして駆ける。

それに合わせる様に蹴りを繰り出すオッサン。

でも蹴りはバランスが崩れやすいのとモーションが大きい。

つまり

蹴り脚を避けながら、今度は軸足の内側から外側へ打撃を加える。


『ぐぁっ。』

まだ小さい僕だからこその戦法で、地面スレスレを滑る様に駆ければ、相手が女性であっても拳での攻撃は届きにくい。

ならばと蹴りでの打撃は、攻撃の幅を狭めているので予想しやすく避けやすいと言う訳。

オッサンは、いいカモって事だね。


『くそっ、ちょこまかと。』

蹴りが当たらないからって、打ち下ろしのパンチも当たらないって。

しかも無理な姿勢で攻撃するから隙だらけ。


「らぁぁぁ!」

押し潰す様な体制になったオッサンの腹を繰り上げる。


『ぐふっ。』

顔を歪めたオッサンは、それでも押し潰しからのグラウンドで僕を仕留められると思ったんだろう。

でも・・・


「ゼロ・グラビティ」

呟く程の声で発する。

オッサンの体が不意に軽くなり、吹き飛んだ。


『ぎっ・・・ぐぅ・・そっ。』

壁に逆さまになりながら、カエルの潰れた様な声を出している。


『おぉっ、見事だ。』

そこで試合は止められた。

格闘術の教師は小柄なお爺さん。

みんなからは老師と呼ばれている。

生徒では、まず勝てない。

現役バリバリで強いのです。

外見は、小さくて温厚そうなじぃちゃんなのに。


『くそっ、最近、やけに強くなりやがって。』

オッサンは、首をコキコキ鳴らしながら近付いてきた。


「いつまでもヤラれっぱなしってのは、悔しいからね。」

軽口には軽口で返すが


『能力使って、やっとだがな。』

とニヤニヤと余裕の表情のオッサン。

確かにね。

僕の全力で、やっと届いたって感じだし。

オッサンは自分で言った後で、ばつの悪そうな顔をしている。

子供の僕に対して大人げないとでも思ったんだろう。


「お年寄りには、もっと優しくした方がよかった?」

とニヤニヤ返しで答えてやる。

もう歳の事で色々考えるのは止めた。

その辺は折り合いを付けよう。


『さぁ、もう一本いっとくか?』

老師の声で、オッサンと顔を見合わせる。


「お願いします。」

体力的には、お互いに余力ありそうだし、付き合ってもらう事にした。


『じゃあ、いくぜ!

オーガ。』

駆け寄るオッサンのスピードがギアを上げた様に加速。

実際にギアを上げたんだ。

僕のゼロ・グラビティは、物の重さを軽くする程度の力しか持たないけど、オッサンのオーガは身体能力の向上と使い勝手がいい。

オッサンの素の力との相乗効果シナジーも高く汎用性が高い。


あっという間に距離を詰めてきたオッサンは、躊躇なく拳を突き出す。

それを何とか両腕でガード。それと同時に数センチ程飛び上がり、尚且つゼロ・グラビティを自分に発動。


「ぐぅぅぅぅ。」

普通の時でさえ、吹き飛ばされるパンチの威力。

それが能力を使えば、かなり強力になる。

そんなものマトモに喰らえば、僕の体なんて簡単にバラバラになっちゃうし。

だから、身体を軽くして威力を受け流す事にしたけど・・・止まらない。

10数メートル飛ばされて、やっと停止。


「ゴリラめ。」

いつもの如く、呟く。

クスクスと周りが笑っているが、僕は集中を切らさない。

だって、10数メートルの距離をオッサンは、もう詰めてきていたから。


『ウルサイぞ。小猿が!』

オッサンの下からの蹴り上げ。

パワーだけでなく、スピードまで向上しているオッサンの蹴りは、避けさせてくれる程にノロマではない。

さっきと同じ様に両腕でガードして、自分にゼロ・グラビティを発動した。


『詰んだぞ!』

簡単に真上に撥ね飛ばされ、数メートルの高さまで到達。

僕の能力は、するだけ。

最高到達点からは、自由落下は免れない。

落下点で待ち構えていたオッサンにあっさりと捕獲され、絞め落とされて意識を手放した。



『気が付いたか?

参った。すれば、そこまでされないだろう?』

保健室の主の声で自分が居る場所を認識。

何があったのかを思い出した。

また、負けたんだ。


「闘いになったら、降参しても終わらないヤツだっているんだ。

だから、僕は手合わせだって命を懸けてるつもりで闘ってる。降参なんて、あり得ないから。」

そこだけは、折れない。曲がらない。


『・・・まぁ、戦士としては満点だが、子供らしくはないな。』

子供だと言う事は抗いようがないから受け入れたけど、子供らしく生きたいのなら、こんな学校には入ってないから。


『ふんっ。少しは素直になったと思ったが、存外、頑固だな。』

説教臭い保健室の主。

僕は何も返さずに、もう一度布団に潜り込んだ。

どうせ出ていこうとしても拘束されるんだし、少しだけ・・・少しだけ、誰にも見られずに殻に籠ろう。


『今日の夕食は、餃子でお願いします。』

少しは殻に籠らせてくれ。

そう思いながら、布団から少し顔を出して肉食なナース?を見る。


『ビールは、持参いたします。

グラスを冷やしておいて下さい。』

コイツら、また僕の部屋で呑んだくれるつもりらしい。

いつも片付けるのは、誰だと思ってるんだ。


でも寂しくなくて、ウルサイのもいいか。

と思う自分がいる。

やっぱり、まだまだ僕は大人には、なりきれてないのかも。





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グラディエーター~傭兵の闘い方~ @koooum

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