第3話
夕方には学園でのプログラムは終わる。
その辺りは普通の学校と同じだし、長時間を拘束しても非効率的だと、特段に拘束時間が長い訳ではない。
僕は授業が全て終わると、すぐさま帰る。
有難い事に学生でも給料が出るのでバイトなどは、する必要はなく、この高級マンションも学校指定と言う事から格安で借りている。
ここを選んだ理由は、学園内の寮に家を持ちたくなかった僕が学校から適度な距離がある場所でと探したのと、もう1つあった。
「ぷはぁ~。はぁはぁはぁ。」
最上階のプールで毎日泳いでいる。
しかも数時間。
このマンションのプールは年中使える上に広くて綺麗だ。それなのに人が少ない。
忙しいんだろうね。
あと聞いた所によるとジムに通っている人が多いみたい。パーソナルトレーナーを付けて計画的に運動するんだと。
お金は、ある所にはあるんですね。
こんな場所で泳いでる僕が言う事ではないと思うけど。
「さぁ、もうひと泳ぎするかな。」
誰にともなく、そう言って泳ぎだす。
『無理は、よくないと進言します。』
誰も居なかったはずのプールサイドから声がした。
そちらを見ると場違いなピンクのミニスカナース。
「何で居るの??」
当然の疑問を口にしたつもりだったけど
『適度な運動、適度な食事、適度な休息が身体を造ります。
今は休むべきだと進言しに来ました。』
ズレた答えが返ってきた。
貴女は、ここの住人ではないでしょう?
どうやって入ったんだ?
でも今さら、驚く様な事でもないかもしれない。
彼女も元傭兵なんだから。
「ありがとう。でも自分の事は自分で決めるから。」
言葉だけは感謝を返して、泳ぎを再開する。
が・・・
『先輩の言葉は、素直に聞くものです。』
いつの間にやら、かなり鋭角な攻めた競泳水着を着た元ナース?に水中で僕は制圧された。
僕って、弱いのか?
誰にも勝ててない気がする。。。
あっ、今朝、一般的なオッサンには勝ったわ。
でも、自慢出来ない。口に出す気にもなれないよ。
あのオッサンが現役のストリートファイターとして、名前が売れていて賞金を稼ぎまくっていたらしいけど。
「無理はしない。だから、見逃してぇ。」
バタバタと脚を動かし、拘束から逃れようとするが、力を殆ど感じないのに逃げ出す事が出来ない。
このナース?が自分の体も相手の体も扱うのが巧いと言う事だろう。
『まぁ、泳ぎも傭兵には必要ですからね。
泳げる様になりたいのですか?』
そう、このナース?が言う様に傭兵としては必須であろう水泳が僕には出来ない。
なので夜な夜な、このプールでビート板を使って秘密特訓をしていたのだ。
後日談として、あれだけ練習していたにも関わらず泳げなかったのに、それから数日間のナース?の指導と言う名の特訓で僕は見事に泳げる様にはなった。
暫くは、トラウマからサメを見ると震えが止まらなかったが・・・
『遅かったじゃないか?んんっ?
今日は、白身魚のムニエルとトマトの冷製スープと・・・』
「って、おいっ!
どうして、アンタまで?」
保健室の主が、僕の部屋にいた。
能面の様な顔で、お玉を持ってエプロンしてても可愛くないぞ。首をコテンと傾げてアザとい仕草してもだよ。
『流石です。』
ピンクのミニスカナースは、もう席に着いてるし。
食べる気マンマンだな。おい。
『子供は子供らしくしろ。
たまには覗きにきてやる。もう少し力を抜く事を覚えないと終わるぞ?』
ただの保健室の主のクセに余計な事を。
「子供だと言われたくないんだ。
学園に入れば、みな同じだろ?」
不本意ではあるが、ミニスカナースの横に座る。
と言うか、食器は一揃えしかなかったはずだけど、どこから3人ぶんの食器類を用意したんだ?
『歳を気にしすぎている所が子供だと言う事です。
モグモグ。。。。
うん。白身魚が口に入れるとバラバラになって、美味しい。
甘える所は、甘えたらいいのです。大人でも、それは同じ事です。
モグモグ・・・
トマトは、フルーツの様な甘味があって、まるでイチゴみたい。だからトマトのスープじゃなく、イチゴのスープです。』
意味の分からない独特の食レポしながら諭されても、有り難みはゼロだからな。
このナース・・・残念だな。
『まぁ、そう言う事だな。
わずか12歳で学園に入学出来るセンスを皆が認めている。
だから慌てて大人になろうとするな。』
優雅に食べ進める保健室の主は、自分だけ肉を喰っていた。
コイツらは見倣うべき大人ではないと言い切れる。
こんなポンコツには、なりたくない。
目指すべきは、ランキング1位。
王者と呼ばれる男だ。
そこまで駆け上がってやる。
でも、少しは言う事を聞いてもいいのかもしれない。
頼るべき大人だと認めるべきだ。
そう考えた僕だったけど、すぐに反省した。
大人になんて、ならなくてもいいし、頼れるのは自分だけなのかもしれない。
どこからともなく取り出したワインやらウイスキーを飲み始め、僕にツマミを作らせた挙げ句、数本の空ビンを辺りに散らかし、だらしなく床で寝ている大人2人。
コイツらは、一体何をしに来たのだろう?
偉そうに説教したかと思ったら、今度はだらしなく寝ている。
僕は、コンシェルジュに電話してゲストルームを借りて、そこに二人を放り込んだ。
コイツらは兄妹だって言うのも有名だからね。
同じ部屋で寝かせても問題ないでしょ?
未成年の生徒の家で呑んだくれて、寝落ちする方が、よっぽど問題かもしれないと分かってるんだろうか?
自分の部屋に戻ると窓から街を観る。
子供の僕には過ぎた景色だ。
田舎であるココでも遠くに見える夜景が綺麗だ。
いつも思う。
この景色を観てる自分は夢を見ているのではないかって。
ほんの1年ほど前とは何もかもが違い過ぎる。
将来、命を賭ける闘いに身を置くとしても、今の方が幸せだと思う。
あの二人の様にまだ12歳だと僕の事を周りは言うだろう。
でも、僕には理由がある。目的もある。
こう成らざるを得ないのだと理解している。
戻れない所まで来てしまったんだ。
1日でも早く、アイツを殺してやる・・・
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