フレイミーの素性 その5

 フレイミーは何か反論しようとしてるようだが、根本にある問題を解消しないことには話は進まない。

 その問題に、おそらくこいつは目を向けるつもりはないんだろうな。

 だから、俺の拒否に即座に反応したんだ。


「みんなが俺にまとわりついてる理由の一つは、俺が選別した米で作るおにぎり目当てだ。お前は、こいつらを手元に置いておきたいがそれができない。その理由がお前にはないから。だから俺……この店ごと手元に置きたい。そしてお前は、こいつらがそばにいることでご満悦ってわけだ」

「ご満悦って、アラタもなかなか毒を吐くじゃない」


 コーティが口を挟んできたが。


「あれ? アラタも結構毒吐くよ? コーティ、気付かなかった?」


 ヨウミ……余計なお世話っ!


「……続けるぞ? 自分は安全なところにいて、面倒な問題が起きても俺に任せるから平気。そしてこいつらの生活は保障しつつ、やらせることは国民との交流のみ……。それってまるで……」


 そう、その実態って、まさに……。


「まるで、猫カフェじゃねぇか」


 ……みんなが無言。

 何を言ってるの? こいつ と言いたげな目を向けている。


「えっと……何? その、猫かふぇ、って」


 ……カフェ、って言葉はないのか。

 いや、猫カフェという店自体もないのか。


 動物と触れ合える施設……あぁ、あれがあったか。


「コホン。……サファリパークのようなもんじゃねぇか」

「えーと……さふぁりぱーく、って何?」


 ……英語、通用しねぇんだっけか。

 めんどくせー!


「あー……動物と触れ合える動物園、ならどうよ?」


 こっちの仲間達では、ヨウミだけが反応してくれた。

 フレイミーの護衛兵は、俺への反応を期待するようにフレイミーの方を向いている。

 それフレイミーは、何かを言い返したくても言い返せないもどかしそうな顔。


「どうぶつえん?」


 テンちゃんが首をかしげる。

 他の仲間達も、何だそりゃ? と言いたげ。

 だがクリマーは、やや不快そうな顔。

 見たこと、あるのかもな。


「来場者にいろんな動物の生態を見せる場所。いろんな種類があるから、その動物の生態に応じた環境を、檻の中に作って、営業時間内はそこで生活。閉園になると、どっかに連れてくのかな? そこら辺はよく分からんが、動物はそこでずっと生活をするって感じ……」


 言い終えた直後の仲間達からの殺気ときたらもうね。


 で、フレイミーはそれに気圧されてるっぽい。


「誤解よ! そんなことするわけないでしょう? 私はみんなに」

「ジャ、ライムタチ、ナニヲシテレバイイノ?」

「それは……ここでの生活していた通りの……」

「無理だなあ」

「無理よね」

「むーりー。冒険者達の仕事のお手伝いとか、集団戦の相手してたりするからね。その話はこないだフレイミーにしたと思うけど?」


 そういう話までしてたのか。

 仲良くなる技術は大したもんだ。


「もちろん、そう言うことも……」

「それって、ここでないとできないことだよね?」


 狼狽えるフレイミー。

 そこに突っ込んだのはまさかのテンちゃん。

 それに続くマッキー。


「それにあたし達、時々アラタに意地悪な事したりするけど、足引っ張ったりとかはしないもの。商売のついでってこともあるんだろうけど、あたし達に必要な要求に応えてくれてるからね」

「足を引っ張ってる? なら、私が足を引っ張ってることを言ってると?」


 まぁマッキーの言い方だと、そう受け止められるわな。


「引っ張ってるよお。フレイミーのそばにみんなを呼び寄せてえ、アラタはこれまで通り働かせるんだろお? おにぎりの運搬んー、どうするんだあ?」

「そうよね。支店? はたくさんあるけど、大都市のど真ん中とかにないもんね」


 客層は、活動直前の冒険者達。

 そんな連中が街の中にいるはずがない。

 だからそんな場所に支店を置いても無駄な事。

 そんな現状を考えれば、首都ミルダのど真ん中にあると思われるフレイミーの屋敷に運び込むのは、確かに面倒だ。


「それに……私達の仕事は特になくて、……来場客の会話の相手をする役割をする、というのなら、それってまるで酒場の給仕とほとんど変わらないですよね」


 酒場で給仕する人、か。

 それはそれで、仕事の一つではあるのだが……。


「交流することは、みんなにとって大切な」

「ここでも交流してましたよ? 集団戦の訓練なんて、その最たるものじゃないですか」

「でもそれって、一般人との交流の手段にはなりません」

「一般人から白い目で見られて、居場所がなくて放浪し続けた先がここなんだけど?」


 なんかよく分からが、マッキーの目が怖い。

 しかし…‥なんだろう?

 フレイミーの言葉も、まだ上っ面な気がしないでもない。


「あー、もう店、始まってんのか?」

「あ、いらっしゃいませー」


 いつの間にか開店時間になっていた。


「……フレイミーさん。悪いが話を聞くのはここまでだ。おにぎりを欲しがる客の邪魔になる」

「……また来るわ。とりあえず、あなた達を見世物にするようなことはしない。それだけは知っておいて。アーズ、みんな、帰るわよ」


 また来るぅ?!

 勘弁してくれよ……。

 何しに来るんだよ……。

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