放浪中にて そしてミナミ・アラタ達と共に

 賞金首になってしまった、らしい。

 まぁあたしの命を狙うやつらがいるとは思えないんだけど。

 でも、行商人の中にも、あたしに襲われて荷物奪われた、なんて狂言言い出して、それを真に受けた冒険者達が襲ってくるってことも考えられるよね。


 ということで、依頼の目的地と思われるところに拘らないことにした。

 のはいいんだけど……。


 考えてみれば、行商人の身の安全を考えてやってあげてたことなんだけどな。

 なのに、どうして賞金を懸けられるのか分からない。

 理不尽極まりなくない?


 まぁそれを、理不尽じゃなくする方法が一つあるんだけど。

 命に別状はない程度で、行商人の体を標的にする、ということをやってみた。

 まぁ遊び半分だから、人体を狙うつもりは全くない。

 ミスって当たったらごめんね程度なもん。

 って言うか、どう頑張っても当たらない場所を狙うんだけど。


 それをして得することがあるかどうか。

 ある。


 あたしの耳にも届くようになったんだけど、依頼や何とか現象の現場付近に現われる黒いエルフっていう噂。

 つまり逆を言えば、賞金首の黒いエルフは、その現場付近に現われることが多い、ってこと。

 ということは、そこを狙えばあたしは囚われの身になってしまうかもしれない。


 けれど、その場所に拘らなければ、あたしは捕まらずに済む。

 だってあたしがいる場所ってば、林や森の中の高木の枝の影とか、あたしの肌の色のこともあって目立たない場所。

 だから、その人達がいる場所から遠ざかってるし、そんな場所はあちこちにあるから探そうにも場所を絞り切れないってわけ。


 となるとどうなるか。

 行商人が襲われる場所は不特定だし、あたしの姿を誰も見ることはない。

 だから犯人の手掛かりは、賞金がかかる原因となったあたしの特徴どころか何も得られない。

 その結果、意外と自由に身動きがとれるようになった。

 けれど行商人を狙う時は、周りに目撃者がいないことが絶対条件。

 そんな機会に巡り合うのは、なかなか難しい。


 けど、そんなタイミングを見計らうのも退屈しのぎの一つとも言える。


 それにしても……。


「村を出てから五年くらいかな。四回雪が積もるのを見たから、そうなるよね……」


 あたしも、いろいろ随分変わったなあ。

 長老達から受け取ったお金はすでに使いきった。

 村の外に出て、冒険者業のようなことをして小金稼いでたもんだから、貯金なんかできるはずもない。

 その日暮らしな生活で、お金が全くないときは、野宿で日々をやり過ごす。


 そして、噂を聞いてからそんな悪戯を始めてもうじき一年。

 魔物から遠ざけるための威嚇をしてた頃は、行商人の安全を図るため、という大義名分があった。

 それが今では……。


「誰かのために何かをする、なんてことから、すっかり遠のいたわよねえ……」


 だからといって、誰かの役に立とうとするようなことも、今更なあ。

 仲間の全滅の危機。

 みんなの命を救うために光の弓矢を使ったら、そのみんなから切り捨てられた。

 行商人達の安全のため、良かれと思ってしたことは逆手にとられ、冤罪をでっち上げられた。

 村では、恐らくそうなりそうなことになる前に出ることができたから、面倒ごとにならずにすんだけど、やることなすこと、すべて裏目に出るのって……。

 前世から続いてるんだよね。


「はぁ……。こんな一生を過ごしたいってこと、もう少し具体的にお願いすべきだったよね……。……ん?」


 何本か高い樹木の中の一本のてっぺんから見える、どこかの町からどこかの町に繋がる道で、珍しい荷車が移動している。

 何が珍しいって、二人の人間が引っ張っている。

 普通、荷車を引くときって動物とか魔獣に引かせるものなのよね。

 人間が荷車を引っ張ってるって、どんだけお金がないのよ。

 って、あたしも人のこと言えないけどさ。

 けど、一人は女性みたいね。

 女性に力仕事をさせるって、男の方はどんだけ甲斐性ないのよ。


「周りに誰もいないし、ちょいとからかってみようかな」


 女の方にかすり傷一つでも負わせたら、男の方は労わって休ませるんじゃないかな?


 ということで放った矢が、まさかこんな長い付き合いの始まりになるなんて、この時は夢にも思わなかった。


 ※※※※※ ※※※※※


 行商人としては普通じゃない、と思ってたのよね。

 まさか商品がおにぎりだけだったとは。

 けど、美味しかったし、お金で高給取りになったりしたら、それを狙う輩が出てこないとも限らない。

 それにお金の価値はよく分からない。

 それよりも、このおにぎりの方がよほど貴重だし、人間達にはこの価値をよく分からなそうだし。

 それに……。


 気配を消す道具を使ってから矢を放ったけど、それでもあたしがどこにいたかも分かってたってところがね。

 それに……キシュ? とかやってたとか言うし。

 そのせいなのかしらね、普通の人間の考え方とはちょっと違うところがあるのよ。

 助けを求めるなら助けに行くけど、助けを求めない奴には助けに行くどころか見向きもしない、みたいなことを言うし。

 他には、あたしを用心棒として雇うって言った割には、あたしを頼ろうってつもりがあまり見られないし、そういうところって、今まで言い寄ってきた冒険者達とはちょっと違うのよね。

 都合のいいように振り回そうとか、危険な目に遭いそうになったら切り捨てようとか、そんなつもりもなさそうだし。


 ……こいつが、あたしが探している縁の相手、とは言い切れないけど……。

 ミナミ・アラタって言ったっけ?

 こいつの傍にいるのって……居心地は悪くないって感じよね……。


 縁を切らなきゃならないってことにならない限りは、しばらくこいつと一緒に生活するのも悪くないかな、うん。

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