村を出てから とりあえず、第三の都市に入ってみる

 馬車は再び走り始めた。

 でもまだ夜中。

 目が覚めると、朝日が昇り始めている。

 二度寝できたような感じがして、何となく得した気分。

 朝ご飯と昼ご飯は、その道路沿いにぽつぽつと見える弁当屋さんでそれぞれ二人分を買い、御者さんには食休みもしてもらってから馬車を走らせてもらった。


 今日のお昼辺りが到着予定時間。

 それから時間は大幅に遅れて夕方に到着した。


「着きましたよ。シーナ市です。日本大王国の第三の都市、と言われてますよ」


 御者からそう言われて、窓から顔を出す。

 おそらく都市を囲ってると思われる壁の、何と雄大な事か。

 壁の内側沿いに立っている家は、こっちからの日光を浴びることは難しそう。


 第三の都市なんて言われたけど、どれくらいの規模か分からない。

 それに……前世の記憶にもその都市の名前は聞いたことがない。

 とは言っても、覚えてるのはせいぜい首都のミルダ市くらい。


「中に入りますか? 入るなら門番がいる門を通らなきゃなりませんが」


 ここで降りてもなぁ……。

 こっち側は見渡す限りの田畑と草原。

 田畑の方では、農作業を終えたと思しき人達の影が見える。

 おそらく自分の家に帰るんだろう。

 ……決して切れることのない縁。

 その縁を結んでいる相手って……どうやって見分けるんだろ?

 ……転生前に付け加えればよかった。

 何でそういうとこ抜けてたんだろ、あたし。


「あの、お客さん?」

「あ、あぁ、ごめんなさい。町の中に入ってもらっていいかしら?」


 考え事をしてる場合じゃない。

 とりあえず町に入って、宿とらなきゃ。

 野宿でも構わないけど、誰かとの縁ってのを見つけないと……。


「今のうちに言っておきますが、私は別に気にしませんが、エルフ……特にダークエルフの種族って、相当毛嫌いされがちなんですよね。見聞が広い冒険者達のほとんどは、縁起が悪いなんて迷信だって笑い飛ばす人が多いんですよ。私は、お客さんを降ろしたら私の仕事は終わりなので、何か助けになるようなこともできませんので……」


 と言うことは、あたしはずいぶん親切な御者と巡り会ったってことよね。

 ……まさかこの御者さんが、あたしが望む縁の人ってことなのかな……。


「とりあえず、町の中に入って、お客さんを止める宿に到着するまで、ということでよろしいですね?」

「え? あ……」


 もしそうなら、そこまでっていうのは、何となく寂しい気がする。

 でも、宿に着いたら改めて、この馬車の使用の延長を申し込んでみようかな?


「あ、そうね。とりあえず、ね」


 ※※※※※ ※※※※※


 小さな町を三つほど通り過ぎて、大きな町に辿り着いた。

 けど、忘れていた。

 世の中、自分の思う通りに動いてくれないことを。


「来訪料金? そんなの初めて聞いた……」

「あんた、身寄りがない、しかもダークエルフだろ? 身元を保証してくれる者もいない。そんな者に治安を乱されちゃ、この町のみんなが困るんだよ」


 門番兵の言うことは、確かに理に適っている。

 あくまでも、客観的に見れば、の話だが。


「それで、その料金はいくらです?」

「二十万円」

「え?」

「二十万でも足りないくらいだ。が、それくらいの金なら簡単に手に入る、という商人も冒険者も多い。身元がしっかりしていなきゃわけないことらしい」


 けど、あたしは何か悪いことをするために来たんじゃないし、人間にとっては身元不明の存在なんだろう。

 二十万をほいと出せば何の問題もないんだけど、長老達が用意してくれた二百万円の十分の一。

 今のところ増える目度もないあたしにはお金は減る一方だから、どんなにお金があっても足りるわけがない。

 それに加えて、宿泊費も食費も必要だし、何よりあたしの目的がここでは空回りするってこともある。


「どうするの? 入るの? 入らないの? 入らないなら、他の通行人の邪魔になるからどいてくれないか?」


 御者は、ただじっと閉じられた門を見ている。

 こればっかりは自分で決断しないといけない。

 御者の人に意見を聞いてみようと思ったけど、この人が責任を感じるような事態になっても気分は良くないし。


「分かりました。二十万円ですね? 支払います」


 残り百八十万円。

 御者さんに支払う分もあるから、百七十五万くらいと見なしていいかな。

 あたしの村自体裕福じゃない。

 長老のエルフ達だって、収入が大きい仕事をしてるわけじゃない。

 心血注いで貯めたお金。貯めてくれたお金。

 一気にこんなに費やしていいとは思えない。

 けれど、しなきゃいけないことがある。

 他にも理由はあったけど、それも目的の一つだったから、村を出た。

 お金を使わないまま、魔物に襲われて、追剥に会って野垂れ死ぬのは……それこそ長老達の気持ちを踏みにじる行為。

 ……と思いたい。


「よし、これが許可証だ。入るがいい」


 門番兵は壁の小窓から何やら受け取った。

 それがこの許可証とやらだった。


「あの」

「何だ?」

「もし、あたしが何の問題も起こさずここを出る時には、そのお金は……」

「人間でも通行手形ってもんが必要だ。その御者も携えている。いわば通行料だな。ここを出る時には、それを差し引いた額を壁の内側で受け取って町を出ることになる。大体……」

「十万円ほどだな」


 もう一人の門番兵が、おおよその金額を教えてくれた。

 でも、十万は減る。

 馬車とかの御者の手形っていくらで手に入るんだろう?


「で、いつまでここにいるつもりだ?」

「え?」

「許可が下りたんだ。騒ぎを起こさない限りはいつまででも滞在して構わんが、ここは滞在する場所じゃない」

「あ、し、失礼しましたっ」


 門は既に開いていた。

 こんな何もないところでボーっとしていても、ほとんど収穫はないもんね。


「す、すいません、御者さん。お待たせしましたっ」


 門を通り、壁の間を進む。

 第三の都市って言ってたっけ?

 シーナ市……って言ってたわよね。

 流石、第三なんて言うだけのことはある。

 その壁の厚さが、ちょっとしたトンネルみたいな感じだもん。

 治安はしっかり守られてるって感じがした。

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