来世はエルフと言われたが、ダークエルフなんて聞いてねぇ! あの力は、きっとあたしから離れることはない
周りが騒がしい。
そのおかげで目が覚めた。
その前に、柔らかい何かに包まれているような感触があった。
確か土がむき出しの地面の上で倒れていたはず、とぼんやり思った。
瞼が開いて真っ先に目に入ったのは、お父さんの顔だった。
怒ってるような、安心したような、そして泣きそうになってる複雑な表情をしていたのは覚えてる。
あたしは、地面に片膝をついているお父さんに抱きかかえられていた。
「え……っと……、おとう……さん?」
「お前は……この……。いや……無事で何よりだった」
そのまま抱きしめられた。
あたしは、そこでようやく安心することができた。
ちょっと息苦しかったけど。
そのおかげで気持ちがようやく落ち着いた。
落ち着いたと思ったら、血の匂いがそこらに漂っていることに気が付いた。
「おとうさん……。あの……、えっと……」
「お前はっ……! 立ち入っちゃダメだと何度も言っただろう! お前だけじゃない! 一緒にここに来た子供達も、みんなの家族に叱られてたぞ! ホントに……みんな、心配かけさせてっ……!」
「……ごめんなさい……。リーモちゃんは……?」
「あぁ、あの子も、みんな無事だ。ところで、一体何があった?」
ちょっと苦しい父さんの抱擁からようやく解放された。
まともに見れた父さんの顔からは、現状を見て戸惑っているようだった。
あたしも、その様子をようやく見ることができた。
ドラゴンの体は遥か上の崖の上。
そこから、未だに血が流れ、その辺りの地面一帯を覆っていた。
実に、おびただしい、という言葉がふさわしい。
そして、崖のそばにはドラゴンの首がごろんと転がっていた。
「みんなが無事なら何の問題もないんだが……。リーモちゃんはほとんど何も覚えてないらしくてな。何かの光がこの辺りから崖の上に向かって飛んで行った、みたいなことを言ってて、それ以外は覚えてなかったらしい。お前と一緒で気を失ってたんだ」
「え……えっと……」
どこまで説明したらいいか分からない。
自分も、何も覚えてないフリをしようか、とも考えた。
気を失う前までなら、何があったのかはしっかり覚えている。
でも、誰が、あたしがあのドラゴンにトドメを刺したって話を信じてもらえるだろう?
「ちょっと、マッキーちゃんのお父さん。その子も子供なんだから、落ち着いてきちんと説明なんかできないんじゃないか? それにほら、この首の断面見てみなよ」
「断面?」
「あぁ。鋭利な刃物で一刀両断だ。弓矢じゃこんな風には切断できない。刃物ならできるだろうが、淀みのない一振りでなきゃこんな風にならない。……通りすがりの誰かが仕留めてくれたとしか……」
「刃物で断ち切って、そのまま立ち去った、と? 立ち去ったと思われる足跡はどこにある?」
「む……んー……」
大人達が何やら議論している。
そんな話になったら、もうこっちの話を聞く耳は持たないだろう。
知らないふりをするのが正解だ。
「風魔法で、刃物のように、ってのは……」
「ドラゴンの首だけを?」
「あぁ……それだと、周りの木々も切断、あるいは傷がついてなきゃおかしい。あ、マッキーちゃんのお父さん、無事だと思うが、マッキーちゃんを連れて帰って、今日一日、様子を見てやったらどうだ?」
「あ……あぁ……済まない。じゃあここはみんなに任せていいか?」
「平気平気。今ここにいるのは……大体三十人か。これだけいりゃ、ドラゴンの解体も運搬もできるだろ。他の子の親御さんも、子供らに付き添ってるし、一緒にゆっくり休みな」
この会話の流れだと、あたしはこの件の部外者として見てくれるだろう。
あたしがこの件で何を言っても、子供の言うことだからなぁ、と聞き流してもらえるはずだ。
と、思ってた。
父さんがあたしをおんぶしながらその場を立ち去ろうとした時だった。
誰かの声が聞こえた。
父さんには、その声はおそらく聞こえてなかったと思う。
「ダークエルフ、か……。特異な力を持ってる、って言われちゃいるが……」
何人かからの視線が、あたしに向けられてる気がした。
それと同時に、その場の空気が変わったのを、あたしは背中越しでも感じとれた。
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