そいつのケアと彼女らのこれから その配慮は俺達の方にも

 夢枕に立った師匠から、完治薬の調合の仕方を伝授された。

 ケーナは薬の製造に成功。

 しばらくして、難病を克服した母親は、ケーナと一緒に俺の店に来てくれた。

 クリマーの提案にのったケーナの目論見通り、母親が俺の店の支店の契約を結んでくれた。

 まぁ俺が採集する米でおにぎりを作って、それだけを売れって言う話だ。

 飲み物は自由で。

 自分で作るもよし、どこかから仕入れるもよし。

 おにぎりだけじゃ喉に詰まるだろうしな。

 これを機に、薬療所は畳んで住まいも引っ越し。

 冒険者が頻繁に活動する地域で住居兼店舗を開くらしい。

 ちなみにケリーはというと。


「私も、父のようなことをしていこうと思ってたので、新しい住所はいい環境です」


 とのこと。

 体力は父親とは比べ物にならないほどないようで、希少種の植物鉱物の採集は控えるようにする、とのこと。

 身の程を弁えた活動をするんだそうだ。


 これをもって、今回の件は落着。


 とするのは、まだ早い。

 世話になったシアンに、事の顛末を伝えなきゃなるまい。

 国家転覆という妄想まで起こした俺が、シアン達を少なからず不安にさせた。

 まあ不安に感じたかどうかは本人次第だろうが、この報告をしなけりゃ筋が通らないってもんだ。

 で、連絡をしたら……。


『ちょうど現象を抑えきったところだ。すぐ行くよ』


 と、一方的に通話を切られた。


「早えぇよ。通話終わらせて十分もかかってねぇじゃねぇか」

「細かいことを機にすると、頭髪全部、ケマムシに食われるぞ?」


 んなわきゃあるか。

 で、一部始終をシアンに報告。


「所長には気の毒だったが、母親の命が助かったどころか、健康を取り戻したってことだろう? まぁ最悪の事態を回避できて、その結果は上々とも言えるんじゃないか? で……そのダックルなる人物は幽霊だったということか。それだと報酬はもらえなかったんじゃないか? 足がないから、とか」


 幽霊だけに?

 残念ながら、足はあったぜ?


「まぁ、なかなか上手いことを言うじゃないか。ただ報酬も押し付けられてな。この大きな石なんだが……」

「ほう?」


 何か、奇妙な気配はある。

 だがその正体は俺には分からない。

 それでもシアンは、何となく興味深げに見つめている。

 見た目は何の変哲のない石なんだが。


「……これ、ちょっと預からせてもらっていいかな?」

「あぁ。……って、思い出した」

「何を?」


 お仲間に加工してもらうといい。

 というようなことを言っていた。

 加工できる仲間と言えば……。


 コーティは、電撃を加えるイメージしか湧かない。

 モーナーにかかれば、ただ破壊するだけ、か?

 ライムはただ溶かすのみだし、ミアーノにしてもンーゴにしてもそう。土に変えるくらいか。

 マッキーは弓矢の扱いが上手い分器用さはあるだろうが、物を加工することとは別物だ。

 テンちゃんもクリマーも、そういうことにはあまり縁がない。

 サミーは言わずもがな。

 体は大きくなってるけども、無邪気さは相変わらずなところがちょっとな。


 となれば……シアン、ってことだよな……。


「……あぁ、ちょっと調べてみてくれ。っていうか、こないだから頼み事ばかりして済まないな」


 何気なく口から出てきた言葉だったんだが……。


「何を言うんだ、アラタ! 君に頼られるのが、本当にうれしいよ。任せてくれ。隅から隅まで調査、検査して、全てをあからさまに……」


 おい、お前。

 何いきなり目を輝かせてんだよ。

 ちょっとヒくわ。


 ※※※※※ ※※※※※


 そんなこんなで、またいつもの毎日が続いた。

 いや、いつもの、じゃなかった。

 雪が本格的に降り始めて、雪かきが欠かせない毎日になった。


「アラタあ、ダンジョンなら問題ないと思うけどお」


 ある朝、モーナーがおはようの挨拶の後で話しかけてきた。


「どうした?」

「フィールドのお、奥の方お、結構雪が積もっててえ」


 あぁ……。

 そりゃ奥に進むのは難しくなってきたか。


「なるほど。遭難の可能性があるか」

「うん。ミアーノもお、ンーゴもお、同じ意見だったあ」


 すると雪解けの頃までは、そっちの方の探索禁止、だな。


「あれ? 二人は大丈夫なのか?」

「何があ?」


 あの二人の寝床は地中のはずだ。

 ミアーノの部屋は洞窟の中にはあるが、地中の方が居心地がいいらしい。

 部屋は使うことはあるが、夜は地中にいる方が多いようだ。

 そこに雪が積もったら……。


「地中から出られるのかな、と思ってな」

「問題ないみたいだよお。雪はあ、上に向かって進めばあ、どうってことないって言ってたあ」


 まぁ本人らが平気ってんなら、問題ないか。


「んじゃとりあえず、探索の件は了承……」

「アラタ、おはよう。モーナーもおはよう」


 モーナーとの会話に気をとられて、シアンが近づいてきたことが分からなかった。

 というか……ここに来るの、早くね?

 つか、国王だろうが。

 公務はどうした。


「例の、八個の石の件なんだが……とんでもない力を持っていることが分かってな」


 来ていきなりだな。

 やや興奮気味だな。


「その力が判明して、その結果を見た時に、数もあうって分かってな」

「数?」

「あぁ。アラタとヨウミの防具、ちょっと借りれないか?」


 防具?


「それと何か関係があるのか?」

「大ありだ。何、借りるのは昼までだ。大急ぎで改良する」

「改良?」


 そう言えば、普段のシアンと比べたらただならぬ様子。

 それにしても、改良の余地があるのか?

 防具の増強を図る、か?


「お、おぉ、そういうことなら」


 腕と足から防具を外す。

 その下着は関係がないようだ。


「早速ヨウミにも」

「あ、おい。ヨウミは……」


 シアンはダッシュで洞窟の中に入っていった。

 彼の無事を祈ろう。


 ……と、思ったんだが、洞窟の中から「スパーン!」という綺麗な乾いた音が聞こえてきた。

 しばらくして洞窟から、右の頬を抑えながらシアンがとぼとぼと歩きながら出てきた。


「……誰でも着替えという作業は必要なはずなんだが。知ってたか?」

「う……うむ……」


 抑えてる手を外して、その跡を見てみたいとシアンに告げるのは……酷というものか。


 ※※※※※ ※※※※※


 そして昼休み。

 予告通り、シアンは防具を持ってやって来た。


「やはり調査の結果通りだったよ」


 満足げな笑みを浮かべながら、そんなことを言ってきた。


「期待通りの結果だ。改良は成功だよ。とりあえずこの防具、付けてくれ」


 言われた通りに、ヨウミと俺は防具を身に着ける。

 外見は特に変化はない。

 発光色のグラデーションはない。

 ただ、質に何か変化があるようだが……。


「魔球を持ってきた。魔力を補充してみてくれ。防具の魔力は、ご覧の通りほぼ空だ。魔球の魔力はすべて注入できる」

「お、おう」


 魔球四個を、両腕両脛の防具にはめ込んだ。


「え? えーと……」


 はめたすべての魔球は防具から外れて地面に落ちた。


「……やり直し? じゃないな。グラデーションの色の数が増えてるな」


 補充はできた、ということだ。

 ということは、防具から外れた魔球に込められた魔力は、全て防具に注入された、ということだ。

 という事は……。


「チャージ……補充にかかる時間が……ほとんどかかってないってことか?」

「うむ。そうなんだよ。ヨウミ、君もやってみたまえ」

「え? あ、うん」


 ヨウミの防具も、あっという間に魔球の魔力をすべて吸い込んだようだ。


 ケマムシ退治からの泉現象の魔物退治の時は……俺の防具の魔力補充している間、ヨウミにフォローしてもらった。

 フォローが必要なくらい時間がかかっていた。


「……じゃあ……あの時の再現を……」


 右腕の防具を外して地面に突き刺した。


「嘘……だろ……」

「は、やい……ね……」


 一瞬で、防具に魔力を充填させることができた。

 満タンになるまでやきもきすることもなくなるはずだ。


「……シアン……」


 と声をかけてシアンを見ると、見事なまでのドヤ顔だ。

 が、今回は、流石に許せる。

 まぁ俺が自ら進んで、修羅場、鉄火場に出ることはまずない……はずだが、そんなことになったとしても、焦る事態になる前に事態を打開することができそうだ。


「アラタ。その所長とやらが押し付けてきた報酬、と言ってたな。アラタとしては、どうだ?」


 言うまでもない。

 お釣りを渡したくなるほどの価値がある。

 遠慮しようにも、その相手はもう二度と姿を見せることはない。

 となれば……。


「有り難く使わせてもらおうか、所長さんよ」


 だがここで不思議なことが一つ発生した。

 ヨウミの防具の分も用意してくれたことだ。

 いつそのことを知ったのか。

 それもまぁ、幽霊だからこそ為せたこと、といったところかね。


 それにしても……。


 魔物と幽霊って、別物と見なすべきだろうか。

 ゴースト、スピリット、スペクター……。

 そう言えば、魔物退治で幽霊を相手にしたって話、あまり聞いたことがないな……。

 うーむ……。

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