ダンジョン入り口での奮闘 その1
方針は決まった。
つか、腹は決まった。
さて。
「火はダメ。……いや、ダンジョン内で、しかも床、壁、天井が土でできた場所じゃ火はまずい」
土に加熱して食器にしたり花瓶にしたり、中には美術品になるものがある。
要するに固くなる。
固くなったら、天井や壁から落ちたり床から湧いて出る高価な素材が現れなくなる。
これは貧乏暮らしの初級冒険者にとっては致命的だ。
それに、火は上へ上へと燃え広がる。
酸欠起こして鎮火してくれりゃいいが、地表に出たら一気に燃え広がる。
こっちの方が被害甚大になるな。
村に大損害を与えてしまう。
「火を引き起こすかもしれない雷撃もダメ。ダンジョンの耐久力に変化をきたすかもしれない土系とか植物系もダメ。水系も……いや、待てよ? 氷結なら……」
そうだ。
ラッカルが巨体のモーナーに尻もち突かせたあの手があるか。
だが待て。
出入り口は俺から見て縦方向に二つある。
その距離は……一キロはあるか?
「向こうの入り口まで、地表なら水流で届くかもしれんが……」
空気の流れもある。
水が水流になる力を直に与えることができる。
が、その力を与えたい場所が俺から遠ざかれば、その力も弱まってしまう。
「いくらトンデモない魔力が球に込められてるとしても……地下全てを氷漬けには……いや、待てよ? 確かモーナーのやつ……」
袋小路で逃げ場が失われたら大変だから、ということで地表の出入り口を二か所にした。
同じように、各階でもそんな地形になったら困るから,全階層の上下階に通じるルートを二つにしたと言っていた。
そして、その二か所の位置が縦方向の階層の下は横方向と、互い違いにしてるって話をしてた。
つまり。
「地下一階の下への通路は、俺の位置からここほどの距離の差はない。同じように地下三階も。偶数階の二つの通路はスルーしていいか。それに……」
冷却して氷漬けにすれば、ただの水のまま最下層から順に水没させる水量までは必要ない。
出現か所より下へは、水あるいは氷結の必要はないだろうから。
ただ……。
「ただ水を流しながら冷却するだけじゃ時間はかかる。それに前後の配置よりも左右の配置の方がロスは少ないとは言え、距離が離れすぎてる。……風を起こす力も必要だよな」
必要な作業は三つ。
放水、冷却、強風。
四つの防具にそれぞれ役割をあてがえば……
「利き手の右が龍の頭ってのは失敗したな。ま、頭を抱え込むほどじゃないからいいけどよ。とりあえず、片手は自由に動けるようにしないとな」
放水は龍の口から。
風と冷気は両脛の、龍の足を象った防具から。
魔力が切れそうになったら空いてる左手で、魔球を防具にはめ込んでチャージ。
その前に、左手の防具の魔力を使用するかもな。
※※※※※ ※※※※※
防具の魔力で、そして魔球すべての力で、どれだけの水量、どれだけの範囲の氷結と風が出せるか分からない。
下に向かう二か所の通路を、固い氷で塞げたら。
しかしその階層数が一つや二つじゃ意味がない。
そこを突破されたらもう終わり。
ならば、つかみどころのない氷の壁と、踏ん張りどころのない郡の床の範囲を広げた方が、足止めの役には立つはずだ。
とりあえず、発動。
そして、放水と冷却と風の出具合と気配を感知しながら、それぞれを調節。
だが問題が一つ。
足止めに成功した場合、誰に助けを求めるべきか。
仲間達だって、一体や二体くらいなら討伐できるはず。
だが十体を越えたら、まず無理だ。
「普通に考えれば、助けを求める相手はシアンしかいないんだが……。通話機があったとしても、即座に通話できるかどうか。そしてこっちに駆け付けてくれるかどうか」
現象が起きる条件やタイミングは不定。
故に予測不可能。
そして旗手がいなくなった現在、シアンが先頭に立って現象の魔物討伐に動いている。
「……そう言えば、あいつの活動内容とか報告とか聞いたことないな」
逐一聞かされるのも面倒だが、俺の仲間になりたいとか言いながら、自分のことを何一つ言わないってのはどうなんだ?
まぁいい。
とりあえず、魔物の数、そして足止めになる氷結トラップの範囲さえ分かれば……。
「時間稼ぎにはなるか……」
時間を稼ぐ。
何のために?
状況を打開できるか?
「……通話機を取りに行くことができる」
通話機を取りに行って、ここに戻ってきて……。
「ヨウミ達に連絡をする、か。だが……何のため?」
避難?
それはない。
援軍?
太刀打ちできないだろ。
村民たちに触れ回る?
……現実的な対策は、それだな。
命あっての物種だ。
現象の魔物共が湧いてきて人的被害はゼロって、そりゃ快挙ってもんじゃねぇか?
……でも、魔物を討伐できなきゃ……。
「だめじゃねぇか」
いや待て。
よーく考えたら……。
通話機を取りに行った時にみんなを起こせば、そこでみんなに通知できるじゃねぇか。
落ち着いてるつもりだが、結構俺も焦ってんな。
※※※※※ ※※※※※
「……地下……五十階辺りから発生してるな? 数は十七体くらい。魔球の残りは……でかい奴が三個分ってとこか」
魔球には、シアンら王家の者達が魔力を込めた、いわば真・魔球と、それを真似た廉価版の魔球の二種類ある。
俺だからどれがどっちかは区別がつくが、どっちが何個あるかまでは覚えちゃいない。
防具に込められた魔力は既に使い果たした。
使用しながら魔球の魔力をチャージしてたから、魔力が尽きることはなかったが、残りの魔球の魔力自体、文字通り球切れを起こしかけてる。
つまり残りは、でかい奴、つまりその真・魔球って奴の三個分の魔力しかなくなった。
一つの防具にチャージできる量しかない、ということだ。
計算は間違っちゃいないはずだ。
大切なのは、氷結を長時間維持できる冷気が、どれだけ長く、どこまで広く維持できるか。
その補助となるのが風。
メインは水。
しかし、この冷気こそが命綱。
地表よりも温度が低かったとしても、この冷気が切れたら氷結は終わる。
溶けだして水になれば、地表に出てくるまで時間はかからないはずだ。
幸い冷気は下へ下へといくものだ。
風の魔法なしでも、その通りに流れて行くに違いない。
気配によれば、地下三十階くらいまでは、左右の通路となっている階層はすべて凍結。
前後の通路の階層は、手前の方だけが凍結。奥の方は凍結されている階層もあれば、凍結は一つだけの階層もある。
いずれフロアはすべて、ほぼ凍結している。
その階層は、およそ地下三十階。
「地下二階で滑ったら振出しに戻る、じゃねぇだろうからなあ……。その階層に辿り着いたら、そこから下に落ちないように気を付ければ、いずれはここに辿り着く。対面したら……」
あれ?
防具があっても魔力がないから……俺、詰んでないか?
しかも……魔力が間もなく尽きるとその数が減っていく、防具のグラテーションの光色の数。
変化する色が、次第にメインの赤のみになっていく。
左腕の防具は既に魔力切れ。発光色の部分は赤のみ。
他の三つも同じ状態に近づいている。
魔物共は……氷結状態の最下層、三十階で足止めを食らってる。
……魔力があるうちに通話機取りに行けばよかったかなぁ……。
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