謎の脱毛症 その2
「とまぁそんなことでな」
「はぁん……。あー……そりゃ病気かなんかやないわい。虫に食われたな?」
「虫?」
それでも今日も毎日と同じな朝ご飯。
フィールドで全員揃ったところで、ミアーノとンーゴにも事情を説明。
すると、ミアーノはこの現象に心当たりがあるらしい。
「虫……んー……まぁ魔物の類かのお?」
「マモノダナ、ミアーノ」
ンーゴも知ってるのか。
って、虫? 魔物?
だが、魔物っておかしくないか?
「けど待て。もし魔物なら、真っ先に俺が気付いてるはずだろ?」
「魔力はあるが、魔法とか魔術とかは使えねぇんだわ、そいつら」
「ソンナマモノハ、タクサンイルゾ。オレモマホウナラツカエナイシナ」
言われてみれば、ンーゴは確かにそうだ。
ミアーノもそうかもしれない。
ただ、地中の土を泥に変えたりするのも魔法と言えば、それは魔法かもしれないが、ちょっとニュアンスが違うかもな。
「だが魔力の存在は分かると思うんだが……」
「その魔力よりゃたくさん持ってるやつぁは、毎日店の前に並んでるろ? その虫、確かに集団でいるがよ、蟻んこの方が圧倒的に数ぁ多い」
「確かに、夜は星は見えないけど、空には星は消えないままのはずだもんね」
「お日様が明るいから、他の星の光は見えないのと一緒ってことですか」
そういうことなら、俺が損な存在に気が付かないのも納得だ。
「でも、毛を食う虫って……気付かないうちに」
「あたしも聞いたことないな……」
同じ人間のヨウミも分からないってことは、人間社会ではあまり知られてないかもしれないな。
それどころか、テンちゃん本人ばかりじゃなく、モーナー、コーティ、クリマー、マッキー、ライムまでも知らないんだから、かなりマイナーな種族かもしれない。
「でもまぁ、そいつが病気流行らすわけでなし。怪我の元になるわけでもなし。ほったらかしてもええんちゃうかなぁ」
「モンダイナイ」
だが、ところどころ地肌が見えるテンちゃんの体を見て、それを気味悪く感じられても困る。
店に来る客は集団戦の申し込みばかりじゃない。
おにぎりを買う客、温泉に行く客、素材集めに来る人達。
様々な人がいる。
無視すればいいものを、わざわざ気味が悪いと思える対象に近づいて石を投げるマネをするような奴らも中にはいる、と思う。
テンちゃんは集団戦に参加したがってるが、部外者が水を差すような真似は受けさせたくはない。
「……それでも、テンちゃん、今日の集団戦、休みにするから。その代わり、米の運搬手伝ってくれ」
「ぶーっ」
テンちゃんの膨れっ面は、正直可愛くはない。
同属から見たら可愛いかもしれんが。
※※※※※ ※※※※※
テンちゃんの脱毛の箇所すべて隠せるように、シーツを上からかぶせる。
幸いシーツからあふれる頭部、全手足、尻尾に異常はない。
おかげで今日一日、何事もなく無事に過ごすことができた。
細かいことを言えば、テンちゃんが担当するチームからは、こっちは三人から二人になったことで不満は出たが、結果はこちらの圧倒だったらしい。
テンちゃんの抜けた穴を埋めるつもりで、クリマーとモーナーがいつもよりちょっと本気を出したんだそうだ。
もちろん思いはそれだけじゃなく、少し憤慨したそうだ。
不満を言うなら自分たち二人を倒してみろ、みたいな感情が出たらしい。
この日はそんな一日だったが、テンちゃん絡み以外は特に何の変哲もない一日だったのだが、問題は次の日に起こった。
「アラタさあん。いますかあ?」
武器屋……もとい、棍棒専門店店長が板についてきたメイスだ。
こんな朝っぱらから何の用なのか。
「おーう、おはよう、メイ……ス? だよな?」
「他に相談する人いなくて……。これ……何なんでしょう?」
それ程長くないメイスの頭髪が、ところどころ抜けている。
テンちゃんと同じ現象だ。
「メイス……お前もか……」
「お……俺も……って……何なんすか?」
メイスは俺達と同じグループでもないし、食事時は一緒でなきゃならないわけじゃない。
ただ、初心冒険者にも向いている地下のダンジョンがある、という理由だけで、この崖伝いのずっと向こうにそんな冒険者専用の店を開いた。
意外と商売繁盛してるらしい。
が、いわゆる一人暮らし状態だから飯の時は、ここよりちょっと遠いがドーセンの酒場で食ってるようだ。
ちなみにクリマーの弟のゴーアとも馬が合うとか。
それはさておき。
つまり、昨日大騒ぎになったテンちゃんの脱毛症の話は、当然メイスの耳には届いておらず、俺らとメイスでの温度差がそこで起きた。
が、俺達はその説明を受けただけで、実際、その魔物だか虫だかは、まだ見ていない。
「こりゃもう少し詳しい話聞かないとな」
「詳しい話? 何のです?」
「ミアーノとンーゴが知ってる。朝飯は俺らと一緒に食うか。お前もその話、聞くべきだと思うしな」
「あ、ありがとうございます。……でも……」
何か言い淀んでいる。
何か引っかかることでもあるのか?
「どうした? 何か問題でもあるのか?」
「い、いえ……その……」
「言いたいことがあるならはっきり言えよ。ドーセンに朝飯の注文しに行かなきゃなんねぇしよ」
「じゃ、じゃあ言いますっ! あの……」
そこでメイスは一呼吸置く。
そして飛び出た言葉は。
「アラタさんが、すぐに困った人に手を伸ばすっての、珍しいですよね」
てめぇ!
言うに事欠いて!
「まったくよね」
「ホントダヨ」
「日頃の言動があ、大事だよお」
「メイス君がそう言うのも、無理はないことだと思います」
お前らぁ……。
※※※※※ ※※※※※
「そらぁ……多分巣をどっかに作ってんな」
「巣?」
「巣って、どこにあるんですか? 実は私、集団戦の訓練が終わった後探してみたんですけど……それらしい生き物はいませんでしたよ?」
クリマーも気を回してくれてありがたい。
が、見たことがないなら見つけられないんじゃないか?
ましてや時間帯は夕方だし。
「見たことがないので、何これ? って思えるような生き物を見つけられたら、その虫とやらかと……」
なるほど。
それは一理ある。
と、感心してる場合じゃない。
どんな姿をしてるか分からなければ、被害はテンちゃんやメイスだけに留まらないはずだ。
「その虫とやらの……名前も聞いてないな。姿形、特徴とか……何か情報他にないのか?」
「慌てなさんなや、アラタの兄ちゃん。まず、巣は岩盤の表面に作られる。地中でも地表でも」
岩盤に?
ミアーノやンーゴも掘削を諦めるくらい硬くてどでかい岩の塊だろ?
「元々存在してる窪みを住み家にしとる。一つの穴に一匹。蟻より小さいで?」
「そう簡単に見つけられないってことか。でもそれだけ集団でいたら」
「マテマテ。ヒトツノシュウダンデ、カズハニジュウクライ。ソノシュウダンモ、ヨッツモアツマラナイゾ?」
へ?
つまり、最大、二十匹を三倍して……六十匹くらいか。
「繁殖しても、それ以上の集団になりそうなら分裂するしよ。そもそも、なんでそんな習性なのに、ずっと生き延びられんだ? ってなもんよな」
「そんな習性って、どんなの?」
「でかい奴ら……まぁ俺らみたいな存在に踏みつぶされたら簡単に死ぬ」
へ?
「睡眠中に毛を食われるとする。そいつが寝返りを打って、それに巻き込まれて潰されたら死ぬ」
おいおい。
「簡単に死ぬのに、卵はたくさん産まねぇ。産んでもその集団から分裂するから繁殖力は、絶滅は免れる程度」
……そいつら、何のために生きてんだろうな?
「そんな小さい体の割に……ええか? 体の割に、やぞ? 体の割に魔力は高めだから、魔力を補充したい魔物や魔獣の餌になりやしぃ」
なんか……ちょっとかわいそうな気がしてきた。
「コーティが子供だまし程度の魔法攻撃しても、その集団を全滅させるにゃ、お釣りがくるほどの攻撃力やで」
オーバーキルか。
もうやめてあげてっ。その虫の生命力はとっくにゼロよっ!
「移動距離も推して知るべし、やしなぁ」
「ホウチシテモ、キョウイデモナンデモナイシ、オレラクライダト、マリョクホジュウニモナリャシナイ」
だろうな。
「ところでミアーノ、ンーゴ。その生き物の名前は何なんだ? まだ聞いてないし、名前を言うにも名無しじゃ意外と不便だぞ?」
ミアーノとンーゴは顔を向き合わせた。
「……何やろ?」
「ケヲクウムシダカラ……ケムシ?」
いや、それは、ちょっと認められない。
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