何するにせよ、必要なのは時間と力 これまでの行動に謝意を表してくれるってんなら、有り難く受け取っとくか
仲間達はそれぞれ慌てて集団戦に出かけた。
「あんたは、たまにはシアン達を見送ってきなさいよ。どうせすることないんでしょ?」
心外だ。
新人どもを監視するという、大切な仕事が。
「せめて村の入り口までお見送りしなさいよ」
だから、俺にもいろいろ仕事が。
「見送ってくれるのか。うれしいな」
おいこら、シアン。
「いつも冷たくあしらわれながら立ち去る私の気持ちも察してくれ。なぁ、みんな」
同意を求められた親衛隊も頷いている。
何なんだよ、今日は。
まぁあの面倒な新人どもから離れられるメリットがあるからいいけどさ。
「とか言われたけどよ」
「ん? どうした? アラタ」
「話すことも特にねぇよなぁ」
子守じゃあるめぇし。
とは思うが、まぁ見送りが礼儀ってんなら、村の出入り口まで付き添うのは、なんつーか、大げさな事でもないか?
とはいっても、無言のままそこまで歩くってのも、なんか間抜けな格好だ。
つってもなぁ。
この防具の説明は、事細かくとまではいかないが、それなりに詳しく聞くことができたし。
「……せっかくの機会だ。アラタに話しておこうかな」
「何をだ?」
こいつはほとんど冗談を言わない。
ユーモアを解する嗜み、っつーのか?
それくらいは心得て入るっぽいが、ダジャレとかはほとんど口にしない。
そんな真面目が、更に真剣さを増してる。
こいつがもし学校の先生なら、面談室に呼び出しそうな感じか。
久しぶりに対面したから、俺に何か落ち度があった、なんて指摘なんかできるはずもない。
そんな風に思わせた心当たりなんてあるわけがないが。
「うむ……その防具をアラタに作ろうとした理由だ」
「散々聞かされた。魔力ゼロの奴に、魔法攻撃を防御するためとか何とか」
「それは、魔力のない者のために作った理由だ。しかも軍の、な。それだけなら、アラタに作る理由はない」
それだ。
なんか引っかかってたんだよな。
「……常々思っているし、事あるごとにこの者達……親衛隊にも話をしているが、アラタ……君は私の、唯一無二の友人だ。親友、と呼ぶには、そっちが遠ざかりたがってるから当てはまりづらいが、そうであってほしいと思ってる」
いきなり何寝言言い出してんだこいつ。
前にも同じようなこと聞いた気がしたが。
「アラタ。おそらく君は、自分の価値を理解していない。君を必要としている者達はたくさんいるのを知ってるか?」
「ま、あいつらはそうは思っているようだが、あいつらだけだろ。ほかのやつらは、俺を必要としてるんじゃなくて、俺が作る何か、俺の店、あのあたり一帯を必要としてるんだ」
自分の関連したものを必要としてるのか、それとも自分を必要としてるのか。
そこんとこを勘違いして浮かれてたら、間違いなくいい笑いものになる。
「……まぁそういう者も中に入るだろう。だが、君がいつまでもこの世界にいてくれるというなら、寿命が尽きるまで元気でいてほしいと願う者がいる」
「……そいつがどんな行動を起こすか。そいつに対する思いはそれ次第だな」
何かの玩具のように扱い、そいつの思う通りに俺が動かなかったら、何されるか分からん。
そんな奴に、有り難うなどと言えるはずもない。
あいつらだってそうだった。
仕事が終わった後の飲み会で強引に連れていかれ、支払いは全部俺。
で、挙句
「お前がいてくれて助かったよ。支払い、ありがとな。俺らの分、出さなくてもいいんだもんな。ありがとな、ホント」
だとよ。
そんな有り難うなんて、聞かずに済むなら耳が腐っても構わんわ。
けどまあ、そんな連中とはもう二度と会わずに済む。
それも、この世界に居続けるメリットの一つ。
「そう。君がここにいてくれてうれしい。けれど、居続けるには不安な要素もある」
「不安? 俺は別に、今のままでも十分……何かと用は足りてるが?」
「いや、我々から見たら、危うさが常に付きまとっていた。それを、こうして今、その弱点を補強できた、というわけだ」
……この防具か。
思いを行動の原動力にして、こうして物が生み出される。
その物体、物品は、手渡された側も、何となく心強さは感じられる。
この能力で危険から遠ざかることができる。
が、そういうわけにはいかないことも……。
「……まぁ、有り難く受け取っておく。……いや、使わせてもらおうか」
「あぁ、そうしてくれ。アラタを間違いなく守ってくれる物だ」
「守ってくれる、って……何か騒動が起こること前提みたいな物言いだな。お前がトラブルメーカーなんじゃねぇの?」
「トラブルメーカーというのなら、それはむしろアラタの方だと思うぞ? いや、よく考えると、問題を起こしたことはないな。巻き込まれる方だから……収集家?」
誰が好き好んで人のトラブル集めたがるかっての!
親衛隊共も、何したり顔で頷いてやがる!
「お前らな……」
「はは。まぁそれは置いといて……そんな道具の開発を命じ、作り、完成させた集団の一人としてアラタにお願いする」
「何だよ改まって」
「……さっきも言った通り、自分のことを、私達のために、もう少し大切にしてくれないか?」
……大切に思ったからこそ、俺の世界からこの世界に移住することを決めたんだろうが。
……ま、いいけどよ。
「……少しはお前の言うことにも、素直に耳を傾けようかね」
金を無理やり支払わせ、給料日一日目で、必要経費を除いた額の半分近く無理やり支払わせて有り難うという奴らとは違う。
この防具の機能と品質を感じとっただけでも、俺とヨウミのために作られた物ってのは分かるからな。
「できれば言うことを聞いて、その通りに動いてほしいのだが……聞き入れてくれるだけでも十分としておこうか」
お願いする立場のはずなんだが、なんだその上から目線は。
……国王だから、上から目線になるのは普通か。
「もうドーセンの宿屋の前だし、ここらで見送り終わりでいいか?」
「冷たいな、アラタ。出入り口まで見送ってくれてもいいんじゃないか?」
何だこの寂しん坊国王は。
しょーがねぇな。
「陛下、アラタ。もう少し避けて。馬車が来ますよ」
「お? おう」
馬車だの竜車だのはあまり通らない村道だから、お喋りに集中するあまり道いっぱいに広がって歩いてた。
普通の馬車よりもスピードが出てるようだが、何かのサスペンスドラマのように俺らに衝突しようってんじゃねぇな。
まぁ俺の世界でもこの世界でも、交通安全には気を付けないと……。
「まぁ何にせよ、立場の違いとか考えない限り、お前らだっていつでも歓迎だぜ?」
「アラタ……俺らにもそんな心遣いしてくれるとは」
「うれしい限りですね」
「用がなくても遠慮なく立ち寄らせてもらいます」
あれ?
「いや、客として来るならいつでも大歓迎だってぐれぇなんだが」
「アラタ……」
「もう少しこう……歓迎してくれても良いのでは?」
「そのブレなさは尊敬に値しますが……」
何だよその軽い失望感は。
歓迎するっつってんのに。
「ま、来るなら営業時間内ならいつでも気軽に……」
「新? 新君? 三波新君?!」
「へ?」
女性の声が後ろから。
君付けで呼ばれるなんて滅多にないが……誰?
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