何するにせよ、必要なのは時間と力 その5
「試し打ちってお前、地面に向かってぶっ放しても……なぁ、マッキー」
「当たり前よ。意味のない自然の破壊行為は止してほしいわね。さっきの話の蒸し返しじゃないけど、はるか向こうにあるとんでもない魔物の巣窟から、この村に一斉に襲い掛かってくることだってあり得るわよ?」
「オレニムカッテウツナラモンダイネェヨ?」
……ンーゴがいたか。
って、いくら巨大な体だからって、大きさと耐久力は比例するとは言い切れねぇんだが……。
「仲間に向かって魔法ぶっぱなすってのもどうかと思うんだが?」
「モンダイナシ。イツモツチノナカニイルガ、トキドキソコカラ、ヌマトカミズウミトカニハイリコムトキガアルカラ」
沼とか湖に入り込むって……。
いや、土の中から水や液体の中に入り込むっつったら……。
水圧、高くねぇか?
「俺はともかく、こいつは結構長ぇ間、水ん中にいられっからよ」
肺活量もでかいってことか。
いや、そうじゃなく。
「ンジャ、チョットハナレルカ。ソッチムイタライツデモイイカラ」
もうすっかり的になる気だよ、ンーゴ。
いいのか?
「アラタ、その防具は使用してない時は自然に魔力を補充できる。ここのように、自然に囲まれてる場所であれば、その時間もそんなに長くはかからなくなる。で、今はその防具には魔力の残量は半分……三分の一以下かな」
で?
「ンーゴの体なら、どんなに力を込めてもあまり効かないと思うよ?」
無責任に決め付けんな。
まぁ本人が構わないってんならいいけどよ。
とりあえずやってみますかね。
右腕をンーゴに向けてまっすぐ伸ばす。左腕を右肘の下に添えて……。
……あれ?
この格好……サイコガ
「アラタ、流石にそこからじゃ近すぎない?」
「あ、流石の私も見落としてたな。周りに被害が出るかもしれないね。ンーゴももう少し下がってもらった方がいいかな?」
「ワカッタ。……コレクライハナレテレバイイカ?」
「お、おう……。温泉にも被害出そうにないし、行くぞ?」
「イツデモイイゾ」
あ、属性は何がいいんだろ?
効かないなら何でもいいんだろうけど、火はまずいよな。
……ロックバス
「込められてるのは魔力、ただそれだけだ。強さも属性も装備者のイメージでどうにでもできる。さ、撃ってみてくれ」
お……おう。
んじゃ。
「いくぞ、ンーゴ。ほいっ」
音が抜けるような炸裂音。
ヘロヘロな感じな空気弾。
ンーゴの胴体に的中。
当たった部分がやや凹んだようだがすぐ戻る。
「……コレダケカ?」
「いや、初めて撃つから加減がな。思った通りに射撃ができて、狙ったところに当てることができたってだけでも収穫だろ」
「フム、ソレモソウダナ」
そうだよな。
俺もいろいろ浮かれてたのかもしれん。
手足だけ見れば、ゲームキャラか何かのコスプレみたいな感じだしな。
……こんなのに憧れてた時期もあったっけな。
……なんつーか……こう……。
「問題なさそうだね、アラタ。まだ昼休みの時間の真っ最中だが、私の用事も済んだことだし、そろそろ帰るとするか」
「あ、待て、シアン」
「ん? 何かまだあるのかい?」
そうだ。
肝心ってわけじゃねぇが、これは聞いとかにゃならんだろ。
「いや、このタイミングでこんなものを作ったのは意味があるのかってな。魔力が込められた道具なんて、ざらにあるだろ。普通の魔力がある道具って、確かに珍しい方だが……」
「いや、これはホントに珍しい素材を見つけたから、軍でも長らく課題の一つにあげられてた問題の解決にもつながってな」
そういえば、店んとこでもそんなこと言ってたような。
「こないだ、親衛隊と一緒にダンジョンに潜りに行ったのは覚えてるか?」
「あ? あーっと……あ、ああ。調査も兼ねて、とか言ってたかな? 珍しい何かが見つかったとか何とか?」
「そうそう。噂があって、その確認に行ったんだ。結構大量に見つかってね」
「へぇ? 何を見つけた?」
「種類で言えば鉱物と粘土。まぁそれだけなら珍しくも何ともない。聞き逃せなかったのは、素材自体に魔力が籠ってたことだ」
「へえ?」
ススキモドキにだって、微量な魔力が籠ってたりするが?
けど確か、魔力を持つ生き物が死んで、それが土と同化して、それを養分として育つ物ってミアーノとンーゴが解説してくれたっけ。
人が耕した田畑には、当然そんな物はない。
死体の魔物がそこに存在するはずがないから。
てことは……。
「そういえばあの時もアラタ、暴走してたんじゃなかったか?」
「何の話だよ、唐突に」
「ダンジョンで、泉現象が起きたことがあっただろう? それと、自然に魔物が発生してる」
「あぁ。あ、まさかそれが?」
けど泉現象が起きたのはかなり前だぞ?
魔力が残留してるとか言うのか?
「あぁ。と言っても推測でしかない。が、それが事実かどうかは問題じゃなく、そんな素材が割とダンジョンの中に大量にあるというのは見逃せない事態だ。活用しないのはもったいないしな」
「でもそれだけで、お前さんらがわざわざ駆けつけるようなことか?」
「大量に、というところが重要でね。魔力が籠った道具を開発できる。ということは、魔力が出入りする通路を作ってやれば、魔力を溜め込む器があるんだから、魔力が尽きたらそれで終わり、じゃない」
そういえばさっき、魔力を補給、とか言ってたような。
「防具の、両腕の肘の方、それと両ひざの上の方。全体的に凹んでるだろう?」
「あ? あぁ。でもそういうデザインにしたんだろ?」
「カッコよさは必要だとは思う。が、それ以上に、役に立つ機能を持たせることが重要だと思う」
「機能?」
「魔力放出をさせずに長時間休まれば、自然の生命力をゆっくり吸い取って中に溜め込む。それを魔力に変化させる。だが緊急の時に魔力が切れてしまっては使いものにならない」
そりゃそうだ。
まぁ防具としては役に立つだろうが……立つのか?
例えばこの状態でンーゴが俺に突進して来たら……この防具でガードはできるが……吹っ飛びはするよな。
吹っ飛ばされた先に壁とかあったら、そこでダメージが……ダメダメじゃん。この防具だけじゃ。
「そこで、急速に魔力を補給できる仕組みもつけておいた。それがその凹みだ。魔力を有する物体をそこに押し込めば、その物体から魔力のみを吸収する」
スマホの充電器でそんなのがあったような気がする。
「完全に吸い取ったら、防具から物体が自然に離れる。もちろん途中で補給を止めたいときは、任意で付け外しできる」
なんつーか……至れり尽くせりじゃねぇの?
「じゃ、じゃああたしらがそこに触れたら……」
「もちろん魔力の補給はされると思うよ? けど、その場合は本人の意思でも離れたりできるから、そこまで心配することはないよ、マッキー」
一同安堵。
そりゃそうだ。
魔力を吸い取り切るまで離さない、となったら、食虫植物さながらだ。
危険極まりないってもんだ。
けど話によれば、身体が負傷するようなことはなさそうだから……そんな大事にはなりゃしなさそうだ。
「あれ? 魔力が籠った物から魔力吸い取るって言ったわよね? ……じゃあ、おにぎりからも?」
「トレルンジャナイ? アレデカナリ、マリョクカイフクデキルシ」
巨体のンーゴですら、その体に見合った魔力を補給できるもんだもんな。
まあそれなりに数は食うけど。
「じゃああたし達も装備できるのー?」
「それは無理だね。まず装備するためには下地の防具が必要だし、それはアラタとヨウミが身に付けてる以外には存在しない。それ自体にも使用者の個別認識機能があって、既に登録済み。だからその防具も、盗まれることがあったとしても魔道具としては扱えない。大体下地の防具がなければ装着自体無理だ。確かにテンちゃん達にもこんな道具つけて使わせたら、見栄えはいいだろうね」
「作ってー」
せがむテンちゃんがうっとおしい。
作って作ってって、子供みたいに駄々こねんじゃねぇよ。
「はは、それは勘弁してほしいな。魔力を持ってない者達のための道具なんだから」
「ちぇー」
子供かよ、お前はっ!
「でもさ、緊急時にはあたしらの魔力を分けたりもできるってことよね? あたしは電撃が得意だけど、あたしから供給されたら電撃系が強くなったりするの?」
「いや、魔力として吸い取るから、貯まった魔力は使用者の意思によって、魔法、魔術の系統がそれに対応するようになってる」
何で使用者の俺やヨウミよりも、使えねぇお前らの方が興味津々なんだよ。
「毒の霧とかも出せたりするのかあ?」
「多分対応できると思うよ? けど利用者がその発想を出せるかどうかにかかるってとこだね」
待てよ?
すると、この発射口から、放出じゃなくて物体めいた物も出せる?
例えば……刃物とか鈍器とか。
「んじゃ、こんなんはどうだ? ……おぉ、これって、ビームサーベ」
「すごい! すごいです、アラタさん! そんなこともできるんですね! ……剣……みたいですねー」
お、おう……。クリマー、なんだその興奮ぶりは。
目、輝きすぎだろ。
「鉄球みたいなのも作れるのかな……。あ、あたしにもできた」
モーニングスターってやつだな。
ガンダ
「ブキッポイノモツクレルノカ。スゴイナー」
「……ライムはそれこそ体でいろんな物になれるんだろうが」
「マァ、ソウナンダケド」
なんかみんな興奮してるな。
少しは落ち着け。
「ツチノナカ、ホレルモノモダセルノカ?」
ンーゴまで。
しかも何その具体的なリクエスト。
……土を掘るっつったら……男のロマンとも呼べる、ドリルだよな。
「こんなのとか……」
「すげえじゃねぇかよ、あんちゃん! 何これ! すげぇ!」
……ゲッター2
「あ、でも魔力切れかかってるみたいだな。……防具の虹色も薄くなってきた」
「補給しないとダメだね」
シアンが苦笑いしてる。
そりゃこいつらが、これだけでこんなに興奮するたぁ思わなかっただろうからな。
とその時、遠くから俺らを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ぅおーい、アラター、ヨウミちゃーん。いるかーい」
その気配は……誰か分からんが冒険者数人だな。
「あ、はーい、いますよー」
「集団戦の受け付けの時間、過ぎてない―?」
……ほんと、俺らも含めてはしゃぎすぎてた……。
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