閑話休題:増える新人冒険者達 その2
久々にのんびりできる。
見も知らぬ、名前も知らぬ新人どもに妨げられぬ休息を得られる。
うれしいことではないか。
有り難いことではないか。
おやすみなさい……。
「あの……アラタさん……ですよね」
……が。
寝入りっぱなに声をかけられ、起きなきゃという意識が芽生えると、妙なめまいを起こしちまう。
これから眠れるってときにだ。
安眠妨害にもほどがある!
「……あの……アラタ、さん……」
「……」
「あのぅ……」
「うるせえええぇぇっ!」
「ひぃっ!」
ベンチのすぐ前で尻もちをついてる緑の塊が目に入った。
よく見りゃ、その色は帽子と全身を纏うマントの色。
身につけている人物は女の子。
だが、だからどうした!
人の眠りを邪魔する奴は!
馬に蹴られてどっかいけ!
「あ……あのっ」
……転寝したくなる時の睡魔ってのは……どうしてこうも薄情なんだろうな。
眠気がすっ飛んじまった。
こいつのせいで!
「……んだよ」
「あたし、グリンっていいます。鑑定を、お願いしたいんですが……」
……来る店を間違えた挙句、人の睡魔を吹っ飛ばしやがってこの野郎!
「……鑑定なら、ずっと向こうにある宿屋あんだろ? 主のドーセンって人が、それなりに鑑定もできるからそっちに持ってけ」
「あ、いえ、あの……あたしを鑑定してほしいんですけど……」
……ちょっと待て。
何で俺にそんな依頼が来るんだ?
俺の力ってのは、使った時、誰からもそれに気付かれることがねぇんだよな。
だから俺が黙ってその力を使ってれば、周りにバレるこたぁねぇんだよ。
米の選別とか誰かが来ることを感じ取った時とかなんかはそうだ。
俺も好き好んで、この力を宣伝してるわけでもないし、言いふらしてもいない。
おにぎりの評価をする奴だって、俺が贖罪の米粒を選んでる、くらいの事しか言わねぇだろ。
「旗手の能力を使って、米を選んでおにぎりを作ってる」
なんて話が流れてたら、買い物どころか大騒ぎな毎日になるはずだ。
シアンと知り合いだから顔つなぎしてくれって頼みに来た奴も、一人や二人じゃなかったもんな。
「……何で俺んとこに来た? つか、何でこんな田舎に来てんだ。都会の方が、いろんな職人いるだろうし、おまえの望みをかなえてくれる人もいるだろうによ」
「えっと……ラッカルって人が、ここに来てから人生が変わった、って……」
……口止めすべきだったか?
いや。口止めしなきゃならない事態になる、だなんて、あの時点で予想できるわけがない。
できるわけがない、おきるはずがない。
そんな「ない」ところから、何らかのアクションが起こせるわけがない。
そのアクションは無駄で無意味なことだから。
……こんなことになるなんて、一体だれが悪いのやら。
「あ、あの……鑑定をお願いしたいんですけど……」
「そういう鑑定をする役職って、あるって聞いたことがあるぞ? そっちに行きな。そんなのは俺の仕事じゃねぇ」
「ですが、その……」
一々言い淀むのがうっとおしい。
「お金がないのも理由なんですけど、どんな能力を持ってるかっていう鑑定しかしてくれないんです」
は?
いや、それで十分だろ。
どんな職人でも、仕事がかぶって相手の仕事の妨害になる行為はしたくはない。
これはこの世界で仕事を始めてから心掛けてきた一つだ。
俺だって、そんな鑑定しかできねぇし。
「でも、ラッカルって人の場合は違いましたよね」
「え?」
違うか?
同じだろ?
「能力を伸ばせるかどうかって鑑定をしてもらったような話を聞きました。能力の鑑定士は、そんなことまでは見ないみたいです」
……マジか。
要すれば、人のできないことをするってのが俺の主義ってことになるか。
鑑定士ができない鑑定ができるんなら、その職人とは被らない仕事になるんだろうが……。
「あの……していただけないでしょうか……」
さぁどうするか。
仕事して、それに見合った収入が入るなら……。
でもゴロゴロしたい。
つか……収入になるくらいの料金を取れるのか?
依頼人は、その料金を払えるくらいの経済力があるのか?
「あ、あの……お金なら……」
金の問題じゃない。
料金を払ってもらえる仕事として継続できるかどうか、だ。
無一文の新人冒険者が殺到して、一人一人鑑定する……無理だろ。
「あ、あの、お疲れなら、別に構いません。突然押し掛けてしまって……失礼しました……」
オドオドしてるっつーより……分を弁えてるって感じだな。
押しかけてきたあいつらと比べて、礼儀正しいっつーか。
養成所を卒業した、という同じ人生のルートを通ったもんでも、こうも違うもんかねぇ。
……いや、待てよ?
俺の能力の使用ってのは、ただそのつもりで物を見るかどうかってことだけだ。
殆ど労力を必要としねぇんだよな。
そこに、料金が発生させなきゃならんものかどうか。
ラッカルの場合は、ああいう鑑定をした。
けど、その鑑定の結果を見て、俺も頭をそれなりに捻ってアイデアを出した。
ここに労力は発生した。
ただ見るだけなら、金をとらなきゃならんもんか? と。
けど無料の設定をしてだぞ?
大勢で押し掛けられたら、取られる時間も半端ねぇよな。
まぁ何事にも時間の拘束は発生する。
一人くらいなら気にならない時間だが、そんなに時間を取られたら、金を取りたくなる気持ちにもなる。
だが、鑑定する人間を選別できたら?
かなりふるいにかけられるよな。
その基準は……うん、これならいいかもしれん。
押しかけてくる連中全員が鑑定に値したとしたら……?
……いや、問題ない、と思う。
ま、試行期間ということでいいか。
「ちょい待った」
「……はい?」
ここから離れかけた彼女は俯きながら振り返る。
なんつーか……断られたと思ったんだろうが、涙目になるほどのことか?
まぁいいけどさ。
「来いよ。見てやるよ」
「え? あの、いいんですか?」
いいんです。
ま、見てもらった後どうなるかって問題はあるが、それは些細なもんかな?
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