閑話休題:増える新人冒険者達 俺の新事業は、改革になるのだろうか

 グリン、と名乗った少女……うん、見た目少女だった。

 でもやっぱり彼女も十八才だった。

 育成不十分なのか?

 いや、十分なら、養成所卒業してすぐに、先輩たちのパーティからお呼びがかかるっつってたな。

 ここに来る連中は売れ残りってわけだ。


「売れ残りばかりじゃないんですよね。勧誘してもらってしばらく一緒に活動して、見込み違いって言われる人も……」


 社会の厳しさは競争ばかりじゃねぇんだな。

 己の必死な努力が成長に繋げられなきゃそれでお終い。

 そんな厳しさはいずれ知らなきゃならんことだろうが、ちょっと年齢的に早すぎなんじゃねぇの?

 まぁ俺が疑問に思ったところで、世の中の何かが変わるわけじゃねぇ。

 で、鑑定の結果、比較的回復系の魔術と魔力が高い。

 服の色と言い、自分の名前と言い、そんな系統に強いのかね。

 成長度は……ここに買い物に来る客らの平均値くらいにまでは伸びるか。

 冒険者という職業を選んだのは、失敗とは言えん。

 大成功とも言えんけどな。


「ま、素質はラッカルよりは高い。技能は……ありゃ別格だ。新人の誰もがあいつに敵わん。より儲けをでかくしたけりゃ、技術を磨くこったな」


 だがラッカルにだってその技量に短所はある。

 確実性が高めになる範囲が限定されてるってことだ。

 それを越えりゃあいつよりは上になる。

 が、狙った位置にピンポイントで魔法を出せる奴っているんかな。

 ゴミ箱にゴミを放り投げて入る、その距離がどこまでも離れてても問題なければ将来安泰。


「技術って……どんな」

「そこんとこは自分で考えな。俺に嵌力を高めたり器をでかくする方法なんざ知らんしよ」


 それと、こうすれば術師のレベルが上がる などと教えても、そんなの無理です、と言われちゃ何も言いようがない。

 無理なことを無理と思わず達成させられることこそが、いわゆる一皮むけるって奴だろうからな。

 冒険者業を詳しく知らないくせに などと言われるのも同様だ。

 けどこいつらにとっちゃ、壁というには分厚すぎる壁を越えなきゃ成長できねぇだろ。

 俺は……俺は壁を乗り越える努力なんかしたこたぁねぇが。

 努力しなくても、こんな力が身についてたからな。


「……いえ、それだけでも、教わっただけでも十分です。ありがとうございますっ!」


 何という腰から上が直角なお辞儀か。

 定規式とでも言おうか。


「んー……まぁそんなもんだな。もちろん身体的、精神的成長することで、その能力……」

「あ、何かやってる」

「あー、ほんとだ」

「何してんだよ」


 ダンジョンの方からやってきた大衆は……昼前までここでたむろしてた新人どもじゃねぇか。


「アラタさん、何してんですか?」

「その子一人だけ? 何話してたんです?」

「アラタさぁん、俺にも、俺にもぉ。何してたか知らないけどぉ」


 ここに来るなり首を突っ込んでくるひよっこども。

 うぜぇ。


「あ、あの、じゃあ私、この辺で失礼します」

「お、おう」


 重要なことは大体伝えた。

 あとはあいつの今後の活動次第。

 それはあいつも自覚してるようで、随分と晴れ晴れした表情だった。


「え? ちょっと待って。あなた、どんな話してたのー?」

「あ、俺にも聞かせろよ。何話してたんだよ」


 何人がグリンの後を追う。

 そいつらを抑えるまでもなかろ。

 こっから先のことは、あいつの考え次第だ。

 で、だ。


「イールって人からいろいろ言われて、それで俺達でパーティ組んでダンジョンに行ってきたんだけどよぉ。俺らがいない間何してんだよ、アラタ」

「あたし、ホント面倒なこいつらの世話をしながらダンジョンに潜ってたんだけど、あんな目に遭うって分かってたなら、アラタさんが戻るの待ってりゃ良かった」


 口々から出る俺への文句。

 だが、うん。

 やはり俺の見立ては、多分問題はない。


「あいつには親し気に話ししといて、何で俺らにはそんなつっけんどんなんだよ」


 本音を言えば、うぜぇから。


「それは俺が決めることだ。こいつには話をして、あいつには話はしない、ってのはな」

「何だよそれ。差別じゃねぇか。自分が話したくない相手だから、ってんだろ? みんな、養成所卒業したてなんだぜ? 不公平なことすんなよ」


 差別。

 それこそ俺が大いに嫌う物の一つだ。

 だが、これは、断じて、差別じゃない。


「問題ねぇんだよ。ある法則を決めた。その法則通りに行ったことだ。だから差別でも何でもない」

「何だよそれっ。つか、その法則って何だよ」


 綺麗に掲示板の文字を消してからダンジョンに向かったようだが……使った後は綺麗にして片づける、なんて心掛けは、こいつらの場合はメッキだったってこった。

 そんなんじゃ、俺の鑑定は受けられない。

 ……そう。

 鑑定料は金じゃない。

 金じゃなくて、心根だ。

 他者を敬えるか、他者を大切にできるかどうか。

 これをその法則とするなら、俺なら一発で見分けられる。

 感情にも通じるところがあるからな。

 相手を大切にする気持ちが備わってれば、俺だってここに安住の地を求めたりしなかったよ。

 願わくばこの世界も、俺の世界のように誰かから居場所を奪うようなことが起きないように。

 差別と見なすなら見なせばいいさ。

 このやり方で、俺なりの冒険者の鑑定士をやってみる。

 若い連中の物の見方、少しはましになってくれたら、と思う。

 こいつらは果たしてそれに気付いてくれるだろうか。

 俺の期待を外さねぇでもらいたいもんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る