魔力の低さ 技術の高さ その4

「あの、アラタさん、一体どうしたんですか?」


 見てて分からんか。

 考え事だよ。

 つか黙れ。

 まとまるもんもまとまらねぇじゃねぇか。


「あーうるせぇ。……ってもう昼か?」

「え? あ、言われてみればそうですね。もうそんな時間……」

「とりあえず、さっきのドーセンとこで飯でも食ってこい。ほれ、千円」

「え? アラタさん、あたし……」

「いいから食ってこい。俺は店んとこにいるからよ」

「あ……はい……。ありがとうございます」


 ※※※※※ ※※※※※


「あ、お帰り。お昼注文しといたよ。アラタは何でもいいでしょ? ドーセンさんのとこにいるっつっても、あたし達の注文までは頭回らなかったでしょうからあたしとコーティで行ってきたから」

「ん? あ、あぁ」


 すれ違ったか?

 まぁどうでもいいか。

 何をどこからどう考えていいか。

 魔術……魔法攻撃から、だよな。

 けどな。

 アークスの腕の振りを見て、別のとこに注目する必要があるような気がしたんだが……。


「ぶわっ!」

「きゃっ!」


 考え事をしながら歩く、というのは、この世界でも危険な行為だな。

 せいぜい、通話機で通話しつつ周囲を見ながら歩くくらいなら……って、そうじゃない。

 フィールドに向かって歩いてる途中で、同じくフィールドに向かってるテンちゃんのケツにぶつかった。


「って、アラタじゃない。乙女のお尻にぶつかって失礼なっ」

「んー? アラタあ?」


 モーナーも一緒か。

 なんか、聞き慣れない言葉が飛んできたが、そんなこともどうでもいい。

 何かが気になって……あ。


「……どしたの? アラタ」

「そういえば……テンちゃんは火を吐くっつってたな」

「ん? うん。何? 見たいの?」


 そうだ。

 テンちゃんに限らず、魔物が魔法と物理攻撃以外の攻撃をする所は見たことがない。

 ……どうせなら、仲間達の攻撃するところを見てみるか?

 考えがまとまるかも分からんし。


「なんかあ、難しい事をお、考えさせてえ、申し訳ないなあ」

「あー、気にするな……じゃなくて、気になるなら俺にちょっと協力してくれ」

「協力う?」

「ああ。フィールドで全員揃ってからでいいや」

「多分ん、みんなもう揃ってると思うからあ、そこでえ何かするんだなあ?」

「あぁ。よろしく頼む」


 テンちゃんが不思議そうな目で俺を見てるようだが、俺だってどう説明していいか分からん。

 とりあえずフィールドに到着してからだ。

 っつっても、もう目と鼻の先なんだが……。


「あー、やっぱりみんないるぞお。でえ、何をすればいいんだあ?」


 まずはモーナーとテンちゃんか。

 モーナーはやはり体力自慢だろうから、パンチとキックを見せてもらって……。

 テンちゃんには火を吐くところと……何度か見たことがあるが、後ろ向きになって、後ろ足で蹴り飛ばす動きだな。

 ライムは……体に取り込んだ物を溶かしたり、体を変形したりするから、それはちょっと違うからとくに見るところはないな。

 同じ理由でクリマーも。

 マッキーは弓攻撃と、一応魔法も見せてもらおう。

 サミーは小柄だから飛行からの突進だろうな。

 あとハサミの両腕でのパンチか。それも見せてもらおう。

 ミアーノとンーゴは……いつも地中にいるしなー。二人のも見る必要はないか。

 コーティも小柄で飛行からの魔法攻撃をよく見るから……いや、一度しっかり見といたほうがいいな。


「それくらいならいいわよ? こっちも今朝、面倒なお願いしたことだし」

「珍しいですね。私達の動きを観察したいなんて」

「仲間のことを知りてぇってんだら、そりゃ悪くねぇこっちゃねぇの?」

「デモ、オレノウゴキミテモ、ナンノシュウカクモナイ、カ。ナニヲシリタインダ?」


 何を知りたいと言われても。

 雲を掴むような話、つか、何とも言いようがねぇわ。


「ま、その程度の事なら朝飯前よね。ちゃっちゃとリクエストに応えてご飯にしましょ」


 コーティ。

 これから食う飯は昼飯であって朝飯じゃねぇ。


「でもお、アラタが見たいのはあ、単なる動きじゃないだろうからあ、それなりにい、真剣にやった方があ、いいよねえ?」

「あぁ。実戦さながらで頼む」

「んじゃあ、こんな感じかあ?」


 モーナーは腰を落とし下半身に力を入れる。

 気配は感じ取れるが、見たいのは力の動きだけじゃない。

 体も……お?


「地面がちょっと凹むな」

「モーナーさんが真剣に力を入れると、それくらいになりますよ? もっとも集団戦の訓練でも、あそこまでは力は入れませんけど」


 手足の筋肉がさらに盛り上がる。

 モーナーのこんな体、今まで見たことねぇな。

 けどそんな姿を見せたのも一瞬。

 後ろ足を前に踏み込んで、地響きと同時に同じ側の腕を前に突き出した。


「だあっ!」


 モーナーの気合いの一喝が俺の体を縛ったように感じたのは気のせいか。

 しばらくして、そのモーナーの気も緩む。


「こんな感じだあ。蹴りも見たいんだっけえ?」

「あ、ああ。頼む」


 驚いたが、驚いてばかりもいられん。

 見ただけで何も収穫がありませんでした、じゃ、面倒事をさせた俺に立場はなくなっちまう。

 パンチの時よりも、後ろ足の地面がえぐられる。

 そしてパンチの時と同様に、気合いの一喝。

 後ろ足が前方に、そして顔面の高さにまで上がっている。

 当然膝は伸びている。

 体の後ろの位置からその位置までの動きは、目では捉えられなかった。


「こんなんでいいのかあ?」


 気が緩んだモーナーが、いつもの口調で話しかけてくる。

 何となく、何となく何かが見えたような気がしたが、それでもまだ……。


「んじゃ次、あたしー」


 テンちゃんが暢気な声を出して俺の前に出てきた。


「まず火を吐くねー」


 と言いながら、首を後ろにやや反らす。

 いや、体全体が……重心が後ろ足にかかる感じだ。

 そして、深呼吸で息を吐く要領で、首が体よりもやや前に勢いよく出す。

 と同時に火が口から吐き出された。

 が、モーナーとは違い、体から気合いを出すようなことのない動き。


「で、あたしも蹴りだっけか。あたしは後ろに蹴るから……」


 さっきとは逆方向を向く。

 そして前足を曲げて、胸、首などの体の前の方は完全に沈み、中の足はやや曲げて重心を落とす。

 自ずと上がった後ろ足。


「ていっ!」


 土くれが舞い上がり、後ろ足二本が同時に蹴り上がる。


「こんなんでいいの?」

「あ、うん。……うん、それでいい。次は……」


 ひょっとして……俺は正解に近づいてるのかもしれない。

 が、確信を得たい。

 そのためには、次は……。


「サミー。お前は体当たりとか突進とかしたことあるか?」

「ミ? ミッ」


 両腕を同時に叩く。

 攻撃をしたことがあるようだ。

 こいつだって集団戦に参加してるメンバーの一人だしな。


「攻撃力を見たいなら、サミーなら……そうねぇ……あの樹木にならいいわよ? 目標が岩壁だったら、あまり効果がよく分からないだろうし」


 マッキーから許可が出た。

 こっちで好き勝手にいろいろやらせたら、自然破壊だのと喚いてうるさそうだしな。


「ミッ」


 サミーは亀のような甲羅をしばらく震わせて、その樹木に向かって飛びついた。

 まぁ飛行しながら突進したかたちだが、両腕を前に突き出しながら飛んで行ったから、何となく抱きつきに行ったような気がしないでもない。

 やはり地面がやや凹んでた。そして樹木は、それでも突進力に負け、前後に揺らいで数えきれないくらいの葉っぱをまき散らす。


「……食いたい果樹取ってもらうのに便利かもしれん」

「でも幹が痛むから、直接もぎ取ってくれる方がいいわよ?」


 そうだった。

 こいつは空を普通に飛べるんだった。

 しかも両腕の先はハサミだし。

 それはともかく、俺が分かりたかったことは……いや、まだ結論は早い。


「あたしの弓も見たいんだったわよね? んじゃこういうのは?」


 背を伸ばした綺麗な姿勢。

 足は肩幅よりもやや広め。

 弓は垂直。矢は水平に。

 そしてその矢の後方に、羽根を掴んだ手がスライドしていく。

 矢はその手から離れ、サミーがぶつかった樹木に向かって飛んで行く。

 舞い落ちる葉っぱの一枚を貫き、樹木の幹へと刺さる。


「……姿勢、ぶれねぇな」

「? そこまで気にしたことはなかったけど、褒め言葉として受け取っていいのかしら?」

「凛とした感じがかっこいいな」

「……アラタにしちゃまともな褒め言葉ね……。何か悪いもの食べた?」


 素直じゃねぇな、こいつ。


「日頃の行いが捻くれてるからねー。素直な感想言っても、まともに受け取ってもらえないってもんよ。で、あたしの魔法攻撃も見る?」


 これまた痛いとこ突きやがる。

 まぁそんなコーティの皮肉も、今は問題じゃない。


「あぁ。頼む」

「はいはいっと。とりあえず目標物はないから放電で」


 放電?

 電撃じゃねぇのか?

 コーティを見ると、いつも通り空中で羽ばたきながら、両手の平を前に見せ、そのまま肘を曲げつつ体の後ろに下げていく。

 パチパチという音を手の平の周りで立たせ、勢いよくその両手を前に突き出す。


「う……」


 その手の平の先の空間でそのパチパチという音が発生する。

 何となく、冬場によく発生する静電気を連想してしまう。

 あれは苦手だ。

 突然ビリッとやってくる感覚は、小さな力でも意外と衝撃波でかく感じる。


「どうよ? 役に立てた?」

「ん……。まぁ、うん」


 攻撃するための力の放出される様子は、大体見えた。つか、把握した。

 その放出される力を、ラッカルにはどう増幅させるか……。

 力の踏ん張りどころがどいつにもあった。

 コーティには明らかに力を込めて踏ん張るうあっ!


「ほらほら、見たんならさっさとお昼ご飯の準備しようよっ」


 テンちゃんが横っ腹を俺の横にぶつけてきた。

 ドンって衝撃が結構きつい。

 向こうはちょっとしたちょっかいのつもりだったかもしれんが、こっちは尻もちつくくらいの力だぞ?

 ケツに当たった仕返しかよ。


「ったくお前は……」


 あれ?

 待て。

 ……ひょっとして、これ、打開策にならねぇか?

 だって……あのときのあいつは……。


「どうしたんですか? 何か、顔、青いですよ?」

「ナニカ、アッタノ?」


 いけるはず。

 できるはず。

 いや、今は失敗したって気にする必要はない段階だ。


「悪ぃ! 俺、飯、パス!」

「え? ちょっと、アラタ!」

「ドコイクンダ、アラタ!」


 思い立ったが吉日だ。

 ラッカルも今日は昼飯抜きだ!

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