俺と新人冒険者 へっぽこってのは、見た目の事じゃなくてだな

「で、その冒険者とやらはどんな奴だよ。つか、そいつが直接俺に相談に来るのが筋じゃね? 何でそいつが自分の悩みを人任せにしてんだよ」

「だってえ、その相手があ、アラタだもん」


 ぅおい。


「そうだよ。あたし達には普通に接してくれるけど、見知らぬ他人相手だと、心底困った人でも平気で見捨てるときあるもんね」

「マッキーさん、ちょっと言い方が……。間違っちゃいないですけどね」


 お前らなぁ……。


「ひでぇ言われようだな。で、当の相談者が現れねぇと話になんねぇんじゃねぇの?」

「思ったよりい、時間が早かったからあ。もうそろそろお……」

「とか言ってるうちに来たみたいね」

「お早うございます、ラッカルさん」


 確かに誰かが近づいてきたようだ。

 三人は外にいたが、俺は中にいたから気配は感じてはいたが……。


「あ、あれ? 早めに来たつもりなんですが……ごめんなさい、遅れちゃいましたか? お早うございます、みなさん」


 女の子の声。

 一体何者よ?

 待ち合わせしてたのか?

 遅れてきたことに謝罪の言葉が出たのは、まぁ感心だな。

 子供がそこまで気が回る、なんて話はあまり聞かないからな。


「遅れたのは確かだが、別に待たされたわけじゃねぇから……あ?」


 声を聞いた限りで想像した姿と、そこにいた少女の様子は一致。

 見た目十五才に届くかどうか。

 その女の子は痩せ気味の体型なのが、薄汚れてる上に所々破けている魔術師用のロープ越しでもすぐ分かる。

 頭にかぶっている帽子も、その衣装に見合った魔術師用の物っぽい。

 手にしている杖も、すぐに折れそうな……はっきり言ってポロい杖。

 こんな子供でも冒険者してるのか?

 でも言われてみれば、冒険者がどうのって聞かされてたな。


「挨拶くらいしなさいよ、アラタ」


 マッキー。お前、何か物の言い方がコーティに似てねぇか?


「お、おう。……お早うさん。……ラッカルっつったか?」

「はい。ラッカル=ヒールです。あ、もちろん冒険者名です」


 ヒール?

 回復師とかか?


「氷結魔法術師ですって。それ以外の属性魔法は使えないそうです」


 なんじゃそりゃ。


「なのにヒールって……。モーナー、仕事が見つからねぇとか言ってなかったか?」

「うん。そうみたいだあ」


 名前がよくねぇからじゃねぇの?

 名前負け、というのとは違うか。


「けど、何でまた俺に相談を持ち掛けた? つか、掲示板で自己紹介書いたらいいじゃねぇか」

「何度か書いたんですけど……」

「何度かってお前……。何度も書いてるけど、誰からも誘いが来ないって嘆いてる新人どもは何人もいるぜ? なのに特定の奴にだけ助けに力を入れるのは問題だろ」


 掲示板の前に集まる奴らは、誰だって仕事を欲しがってる。

 こいつもみんなと同じなんだよ。

 他の奴らがしないことをする、てのは、それだけ物事に真剣に打ち込んでる証しだとは思う。

 人よりも多く、結果が伴いそうな努力をしてる奴なら応援したくはなる。

 だが、応援しなきゃならない理由じゃあない。

 応援したくなったから応援するっつー行動は……あいつらと同じだ。

 忘れ去りたい、この世界に来る前の、俺の……。


「アラタあ。マッキーとお、クリマーからあ、この子のことお、相談されたんだけどお、二人もお、コーティからあ、丸投げされてえ」


 は?

 そうだ。

 何だかんだ考える前に、俺はどっちかってぇと一般人だぞ?

 なんで冒険者や魔物達から相談持ち掛けられるんだ?

 別に相談しに来るのは禁止ってんじゃねぇ。

 相談するってことは、解決や答えを求めてるってことだろ。

 俺のところにそれを持ってきて、解決できると思ってんのか?


「なんでもお、コーティ、匙投げてえ」

「匙投げた? つか、そのコーティはどこいるんだよ。さっきまで一緒に飯食ってたじゃねぇか」

「面倒見れないってえ」


 ……なんだか、モーナーも気の毒に思えてきた。


「あ、あの……」

「ん?」

「あ、あたし、最初、メイスさんの所に相談に行ったんです」


 メイスに?

 そういえば、メイスの奴、コーティに相談があるっつってたな。

 もしや、こいつの件か?


「仕事がなかなか来ないので、もっと鍛えなきゃダメかなって思って、魔力とか高められる訓練してくれそうな人いませんかって」

「ほう?」


 仕事が欲しいからください、っていう相談じゃねぇのか。

 力が付けば、依頼も増える。

 そういう発想は感心だが、何でまたメイスに?


「あの人も冒険者の経験あるって聞いて、ひょっとしたら何かいい方法知ってるかなって」

「それでコーティと話をした?」

「はい」


 やっぱりそうか。

 そのコーティが匙投げた。

 あいつが投げた相談事を、俺がどうにかできるたぁ思えんのだが。


「そしたらコーティさんが、あたしの手に負えない、あたしの門外だって……」


 無責任ってんじゃねぇだろうが、コーティがこんな突き放し方をするってのは……意外と……いや、今までなかったような気がする。

 なんだかんだ言って、気に掛けることが多いからな。


「で、あたしじゃなくて、マッキーさんかクリマーさんなら、って。コーティさんだと、魔力とか属性の種類とかに差があり過ぎて、助言しようにも難しいって」


 あぁ、そういうことな。

 実力差があったり、あるいは指導する側に初心者時代の経験がほとんどなけりゃ、指導される側をどう扱ったらいいか分かんなかったりするしな。


「でもあたし達も、その……技術は割と高いのよ。けど、どうしたらいいものか」

「どこをどう説明したらいいか分からないんです。んー……この子の鑑定してもらうのが先でしょうか」

「お、お願いしますっ」


 鑑定士扱いされちまった。

 こいつの何を見りゃいいってんだ。

 待てよ?

 鍛えたいっつってたな。

 鍛えたらその分その能力は伸びる。

 で、こいつの希望は魔力とか言ってたよな。

 ということは、そこんとこを感じ取れればいいわけだ。

 どれどれ……。

 ……あー……。

 ふむ、まぁ、うん。


「んー……魔力、伸びねぇぞ?」

「え?」


 いろんな冒険者の気配を感じてきたが、魔力を水みたいなものに例えやすいと気づいた。

 水を直接持つことはできない。

 コップなりタライなりの入れ物が必要だ。

 その入れ物は人によってさまざま。

 誰にでも当てはまる一つが、水はその入れ物が入る量より多く入れることができないってこと。

 で、ラッカルという少女の入れ物は……。


「鍛えても、これ以上魔力は高くならねぇぞ?」


 その入れ物が大きくならない。

 そして、その入れ物一杯に魔力が蓄えられてるって感じだ。

 つまり、成長がない。

 その量も……初級冒険者とほぼ変わらん。

 つまり、難易度が高い仕事とか……マッキー程度の力量の魔物を退治することも難しそうだ。

 あ、こいつには弓術があったか。

 クリマーも体の変形能力があるから……。

 俺らの仲間の誰かと一対一の勝負させたら、多分こいつが勝てる相手はいない。


「じゃ、じゃあ……訓練しても、何しても……」

「無駄な努力ってことだな。別方面の訓練する方がいいと思うぞ?」

「そ、そんな……」


 泣きそうになっても、この事実は変わらんぞ?

 可哀想とは思うがな。

 今の能力でできる仕事を探す方が、仕事を見つける近道だとは思うんだが。

 ……いや、ちょっと待て。

 クリマー、さっき妙な事言ってたな。


「技術、高いって言ってなかったか? 初級レベルの力量で技術も何もねぇだろうが」


 魔力の調節だとしても、それが十段階くらいあったら、十種類の力を使い分けることができる。

 それが三段階しかなかったら、三種類しか使えない。

 一段階しかなかったら、一種類。

 一種類の力を出すのに、技術も何もねぇだろうが。


「うん、それがね……」

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