俺と新人冒険者 その3
そんなこんなで一週間くらい経ったか。
珍しい客が来た。
「あ、アラタさん、こんにちは」
「んー? おぉ、メイスか。まだ昼前だろ」
「はい。……アラタさん、お仕事は?」
「終わったよ。終わってここで一休み」
顔見知りであって仲間じゃない。
そんな奴から干渉受けたかぁねぇんだがな。
「えっと……仲間の魔物さん達もいるんでしょうか?」
「あー……昼休みに戻ってくんじゃねぇか? あ、戻ってくるっつっても昼飯食いにだから、フィールドの方か。店には来ねぇな」
「……そうですか」
俺にじゃなく、仲間に会いに来たって奴も珍しい。
あ、ファンクラブの連中はあいつら目当てだったな。
あーいう連中は、すっかり来なくなった。
さっぱりして気持ちが落ち着けられて何より。
でも、その違いはあんまりよく分からんけどな。
「みんなに用事があったのか?」
「あ、いえ、みんなじゃなくて……。コーティさんにちょっと相談が」
「コーティ? 昼休み中なら問題ねぇだろうが……」
こいつの店とこことじゃかなり距離がある。
飯食った後に会いに行かせたら、休みの時間はかなり減るぞ?
「あ、俺、ここで待ってますんで。ヨウミさんとアラタさん、飯食い終わったらここに来るんでしょ? そしたら俺が会いに行きますんで」
「んじゃあいつにそう伝えとくわ。ここでなら移動時間の心配ねぇだろうしな」
「はい、お願いします」
仲間達はみなレアな魔物。
だから会いたくて愛に来る連中のほとんどは、親しくして損はない、みたいな思考が多い。
友達の友達はみな友達、なわけがない。
ましてやあいつら全員、ある意味同属からのはみ出し者。あるいははみ出し者だ。
あいつらに同属の知り合いはいない。
それを狙って会いに来るんだとしたら、骨折り損のお疲れ様ってなもんだ。
けど会いに来たのはメイス。
しかもコーティを指名ときたもんだ。
何か目的があってきたのは間違いない。
ただ会うだけを目的としてきたなら、毎日通い詰めした方がよほど効果があるからな。
ま、コーティにしても、仲間以外の奴と交流を持った方が角が取れて性格も丸くなるんじゃねぇか?
で、頼まれた通り、昼飯を食う前にコーティに伝言。
「メイスがコーティにねぇ。惚れたのかな?」
「ちょっとやめてよ、ヨウミ。でももしそうなら……悪い気はしないわねぇ。相手がアラタだったら即座に断ってたけどぉ」
別に嫌味とも思えんな。
好きに言ってろ。
「んじゃあたし、今度の休みの日にデート申し込もっと」
「ちょっ! テンちゃん?」
何でコーティが慌てふためいてんだ。
顔を妙に赤くしながら。
まったく、しょーもねぇ話で盛り上がってんな。
「とにかく伝えたぜ? 飯食ったらおにぎりの店の前に行け。あいつの店じゃねぇぞ?」
「わ、分かってるわよっ」
ってなことで、コーティがメイスと会って何やら相談を受けたその後。
「アラタぁ。あたしの休みの日は自由行動にしていいんだろうけど、普通の日に仕事ないときも自由にしていいのかな?」
と、午後の仕事の直前に、いきなりそういうことを言われてもな。
「やることがなきゃ好きにしていいんじゃねぇか? 俺だってその日の分の仕事終わったらゴロゴロしてるだけだし。あぁ、一応ヨウミに確認しろよな。で、予定が何もなきゃ、晩飯までは帰ってこい」
飯の時間までには帰ってこいって……遊び出すと時間の経過も忘れる子供かっての。
自分が言っといてなんだけど。
機嫌良さそうにりょーかーい、とか言いながら午後の仕事に出たようだが……。
※※※※※ ※※※※※
それから三日後の朝ご飯時。
「アラタあ、ちょっと相談があ、あるんだけどお」
「俺にか? 今か?」
みんなは飯やおしゃべりに夢中で、俺や話しかけてきたモーナーを気に留める者はいない。
「いやあ、ご飯食べた後がいいかなあ」
「仕事に障らなきゃ構わねぇよ。店の中でならよかろ? まだ客も来てねぇだろうし」
「うんうん。んじゃ後でえ」
珍しいこともあったもんだ。
まぁ別にいいけどよ。
三日前にコーティが呼び出された以上に珍しい、か?
が、珍しいことはまだ続く。
「おい。お前の相談じゃねぇのか? 何でマッキーとクリマーもいるんだ?」
相談しに来たモーナーの後ろに、その二人がくっついている。
「いやあ、マッキーとクリマーからあ、相談されたんだけどお、俺じゃ答ええ、思い浮かばなかったからあ」
それも俺に言っとけよ。
「……で、こぞって一体何の相談だよ?」
金の貸し借りは禁止だぞ?
人間関係ぶち壊しちまうからな。
「ある冒険者からのお、相談でえ」
相談たらい回しかよ。
手間も時間もかかるようなことを……。
「どうやったらあ、その冒険者の仕事があ、増えるかってえ」
……冒険者が仕事の悩みを魔物に相談して、それが一般人の俺にやってきたと?
俺に何を求めてんだ、こいつら。
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