へっぽこ魔術師の女の子編

俺と新人冒険者 その1

 その一件が起きるきっかけは、メイスの奴がメイス専門店を開業してから一か月経たなかった頃の事だった。

 俺の仲間達はいつもとは違う集団戦をしてた日。

 いつもなら仲間達全員が、集団戦の予約が入る。

 けど時々、冒険者達からのリクエストの組み合わせによって、手が空く仲間が出たりする。

 今回はマッキーとクリマーの手が空いた。

 店の前にいる大勢の客達を見たマッキーの、何気ない一言だったな。


「買い物客が買い物した後も、店の前でたむろしてるのって……混雑の元よね」


 店を開けてからしばらくは、買い物客が列をなし、買い物を終わればその場から去る。

 ところがいつの頃からか、買い物を終わった後も店の前をうろうろする客が増えてきた。

 その変化は避けたいんだが、いつも見てるから「少しくらい」という見逃しを続けてしまってたら、いつの間にかこうなった。

 まぁ俺がベンチを置いたのも、そうなってしまった原因の一つではあるんだが。


「掲示板とかつけたらいいのではないでしょうか? この岩壁とかに」


 クリマーはそんなこと言うが、何でまた掲示板?


「そんなもん用意して、何の役に立つってんだ?」

「うろうろしてる人達はみんな冒険者。しかも新人っぽいから」

「あ、あたしも見ててそんな感じがする。っと、はい、おにぎり三個と飲み物のセット三つですね。えっとお値段は……」


 から?

 からって何だよ。

 って、ヨウミも横から口出しすんなよ。

 仕事中だろ、お前。


「だから、なんで掲示板なんだよ」

「新人の冒険者達にうってつけのダンジョンがあるでしょ? だからそこを目当てにしてこっちに来るわけよ」

「あぁ。そりゃ分かる」

「チームで来る子達は問題ないわよね。でもチームを組むよりも気持ちが先走って、ここに来たなら……」


 その仕事、初実戦で右も左も分からない。おまけに見知らぬ土地だから右も左も分からない、と。


「ひょっとして、伝言板代わりにするってことですか?」

「そういうこと。それだと、オロオロしてる子を見たベテラン達だって、助けてあげられやすいでしょ?」


 いいのかな、それ。


「新人をだますあくどい連中もいなくもない、という気がしないでもない」

「ぐ……。アラタ、ひねくれ者ね……」


 いや、可能性のことを言ってるだけだが。

 それに、新たな人生の出発から人生躓かせたくはねぇだろうが。

 守ってやる義理はねぇけど、それだとあまりにかわいそすぎらぁな。


「確かにそれは心配ですけど、そこはアラタさんが目を光らせてればいいんじゃないですか?」

「あ? 俺?」


 俺が監視するってのか?

 何か効果があるのか?


「悪いことして、下手してバレたら、あっという間に国から追われることになりますから」


 何でそうなる?


「なるほどね。アラタのバックにはシアン、国王がいるぞって言うことね?」

「はい、そうです」


 にこやかな顔でとんでもないこと言い放ってくれるな。

 ……けど、そんなどでかい権力を後ろ盾として利用する気は毛頭ねぇんだけどな。

 そんなことで、近づきづらく思っちまう奴らもいるだろうしよ。

 ……そんな奴、いたっけかな?

 まぁ……いいけどさ。


「それはいいけどよ、その掲示板を据え付けたとして、それをどう使うんだ?」


 まさか、ドーセンの酒場みたいに冒険者への依頼を書いたりメモを貼っつけたりするんじゃねぇだろうな?

 あれだって依頼人からいくらか見返り貰ってたりしてんじゃねぇの?

 だとしたら、ある種の営業妨害になるんじゃね?


「伝手のない若い新人の冒険者が、何をしていいのか分からないのよ? 自分のアピールとか、助言とか助け舟を求めるために使うに決まってんじゃない」


 決まってんじゃない、って、知らねぇよそんなの。

 けど、依頼人が冒険者で、冒険者が冒険者に依頼するってアイデアは悪くなさそうだな。

 どの酒場だって、そんなのはやってねぇんじゃねえか?」


「なるほど。それなら利用されない時間はなさそうですね。うろうろしてる冒険者達も結構いるみたいですから」


 待て待て。

 こっちで勝手に進めたって、その新人とやらは腰が引けて、使ってくれそうにないような気がするが?


「それに、酒場での掲示板は、依頼を引き受けた冒険者達が一緒に仕事してくれる仲間の募集をかける伝言板でもあるんですよ」

「それならドーセンとこで解決してんじゃねぇの? ここでやる仕事でも作業でもねぇぞ?」

「でも、新人のほうから。私はこんなことができます、とか、仕事をしたいので手伝わせてくださいっていうお願いを、新人の方から掲示板に貼りだすことはまずありませんから、マッキーさんの提案は意外と功を奏するかもしれません」


 そんなもんかねぇ。

 ま、そこら辺の事情は、雲をつかむようで全く分からん。

 掲示板一つ購入するだけで経営が方崩れを起こすような店でもねぇし。

 使われなかったら、こっちで適当に利用すりゃ、損することはねぇだろうな。


 ※※※※※ ※※※※※


 ということで、ホワイトボードのような物と、それに書くペンに文字消しを購入。

 その後、「それだけじゃだめでしょ」などとダメ出しを食らった。

 番号札も買わせられた。

 新人達に番号札を持たせ、ホワイトボード……白板と呼んでたが、白板に自分の数字を書かせ、書きたいことを書かせる。

 自分の特徴なり、やりたい仕事なりを、だな。

 その白板を見た、店に来た冒険者達が、仕事ついでに教えたり、いないよりましそうな新人冒険者をスカウトしてチームに入れて活動を開始したりするようになった。

 そのおかげで、店先で暗い雰囲気でうろつく冒険者の数はどんどん減っていった。

 つか、より活気づいてきた感じがする。

 けどな。


「……この白板とかを買った費用はどうやって埋め合わせするんだ? 利用料金とかも設定してなかったしよ」

「このアイデアはこのお店から出たもの。そういう評判が流れたら、更にお客さんが増えて売り上げも上がるんじゃない?」


 おいちょっと待て。


「するってぇと何か? その売り上げで賄えと?」

「当然」


 何だよマッキー、そのドヤ顔は。


「また俺の懐が痛むだけなんじゃねぇのかそれ? 客が増えたって、そのおかげとは言い切れねぇだろうが」

「……アラタさん」

「何だよクリマー」

「ドンマイですっ」


 あのさ……。

 その励まし、噛み合わねぇんだよ!


 ※※※※※ ※※※※※


 白板が重宝してるのは確かだ。

 そして新人が詐欺まがいの被害に遭わないってのも、ベンチでゴロゴロしながらも、俺が監視してるから、だろうな。

 未だに時々ベンチにやって来るイールから「流石ですね」とお褒めの言葉を頂くが、膝枕してくれるわけじゃなし。

 逆にイールに悪い虫がつかないように警戒してる、みたいな誤解も受けている。

 要すれば、これらの道具で俺らの店に何のデメリットもない。

 いや、メリットしかなかったりする。

 が、そこんとこが何か納得いかんのだが……。

 それはともかく。

 いやいや。

 だがしかし、だな。

 ある意味厄介な新人冒険者のあぶり出しにもなってしまった。

 で、確かに来客のほとんどは冒険者なんだが、俺が冒険者業関連に詳しいわけじゃない。

 なのに、無理やり関わり……違うな。

 ちょっとしたトラブルに巻き込まれちまった。

 白板を用意しなかったら、俺はこんな面倒に巻き込まれずに済んでたのにな。

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