王宮異変 その12

 シアンに俺の通話機で紅丸の通話機と連絡を取らせ、俺と交代。


『エイシアンムの声聞こえたと思たら、アラタかいな。どうやら救出できたようやな?』

「だが全部片が付いたわけじゃねぇ。今、ツケで売ってほしいもんがある。商品あるか?」

『なんや、藪から棒やな。いつも上空に商船待機させとんで、数があえやすぐ渡せると思うで? けどこんな時に何が欲しいんや?』

「土の魔球ってやつぁ取り扱ってるか? 魔力がたんまりこもってる奴。今四つあるから、最低でも十個」


 廉価版の魔球じゃ効かない可能性がある。

 効いてくれれば御の字なんだが。


『まぁ……そりゃあるが……』

「あと、何か食いもんと飲み物があれば」

『はぁん? そりゃアラタ持って来とるやろ』

「え?」

『アラタのもんじゃないんか? 何やらでっかい袋がワイの船のそばに放置されとる。中に握り飯入ってるみたいやからアラタのんかと思うたが……飲みもんも入っとるみたいやな。袋の外側は大分汚れとるが、破けてるようでもないし、潰されてもおらんで?』


 あ……。

 そうだった。

 すっかり忘れてた。

 にしても、あんな鉄火場で、よく無傷でいられたもんだ。


「オーケー。食いもんの類はおにぎり食わせた後で、でいいや。魔球は大至急、ここに届けてくれ」

『ここ? まさか地下牢の最下層か?』

「もちろん。ついでにその袋も届けてくれ。人質達の命綱だもんでな」

『人使い荒いのお』

「荒いついでで悪いが、魔球のお代、ツケで頼むわ」

『いつもニコニコ現金払いやないんかい』

「こんな鉄火場で現金なんか持ち歩けるかよ! 細かいこたぁ気にすんな! シアンの勝利の立役者になろうというお方がよお!」

『持ち上げすぎや! まぁええわ。ワイが届けたる。そこで待っとれ!』

「了解!」


 腹が減っては戦はできんってな、うん。


 ※※※※※ ※※※※※


「持ってきたでー、アラターっ! エイシアンムは無事かいやーっ!」


 地上に向かって途中まで迎えに行った。

 紅丸の呼びかける声と一緒に、紅丸と、なんか、鳥っぽい気配が一緒に近づくのを感じた。

 薄暗い中、紅丸の姿が見えたが、ダチョウっぽい鳥の背に乗っていた。

 色々取り揃えてるんだな。

 便利そうな事業展開してるなぁ。


「おう、ここだ。荷のチェックさせてもらうぜ? ふむ、魔力も申し分ないな。これなら追加の必要はなくても問題ないな。おにぎりと飲み物も十分。ありがとよ。じゃ、戻っていいぜ」

「なんや、エイシアンムに会わせぇや」

「非常事態だし、この後急いでやらにゃならんことが山ほどある。あいつらが武力放棄でもしてくれて、一件落着したら会えるだろ。そん時ゃお前が一番の功労者で、あいつの隣に立ってる結末を迎えるってこと」

「そんなわきゃあるかいな。第一の功労はあんたやろ」

「今はそんな押し問答してる場合じゃねぇ。あの二人と会ったろ? 兵士がこっちに押しかけてきたら、あの二人じゃ抑えきれねぇかもしれん。船で睨み利かせてよぉ、援護射撃頼むわ」

「しゃあないなぁ。んじゃエイシアンムのこたぁ任せたぜ?」


 いろんな奴からあいつの事任せられちまってんなぁ。

 何で俺がこんな目に……。

 平穏な毎日過ごしてぇよ。

 けどここでの返事は……。


「あぁ、分かった。できればこんなトラブルに、二度と巻き込まれたくねぇけどよ」

「相変わらずマイペースやな。ほな、また後でな」


 はぁ……。

 今度は受け取った荷物を持って、急いでシアンの元に駆け付ける。

 おにぎりをシアンに食わせながら、現状を説明。

 一々驚くシアンがうぜぇ。


「いいから食ってろ! 黙って聞いてろ!」


 そして一通り説明終了。


「アラタ……いろいろ迷惑をかけた」

「……まったくだ。ほかに言いたいこともいろいろある。だが今は、一刻も早くこのトラブルを解決することだ。俺は囚われた連中助けに行くから、お前はあのちょび髭を何とかしろ」

「あ、あぁ、分かった。ほんとに……」


 最後まで話聞いてられるかっ。


 ※※※※※ ※※※※※


 囚われの身は、一階層に一人ずつ。

 まったく、なんて面倒な。

 おまけに、今の状況を誰も知らない。

 同じ説明なんかしてられるかよ!

 大臣が謀反を起こして―、とか

 二人の親衛隊が俺に助けを求めてきてー、とか

 俺らの仲間も連れ去られて―、とか

 国王が三人の親衛隊と飲まず食わずでー、とか

 紅丸が応援に来てー、とか

 真っ先にシアンを救出して―、とか

 だが親衛隊たちはまだましだ。


「おにぎり食いながら上に行け。説明は後! 察しろ!」


 これだけで察してくれた。

 だが、こっちの奴らはというと……。


「アラタあ!」

「アラターッ!」

「アラタさあぁん!」

「アラタあー」

「アラターっ」

「ミッ」

「来るの遅いっ!」

「あ、来たの?」

「イヨウ」


 何と言うか……。

 ある意味の緊張感がないな、うん。

 特に後の三人がな。

 とりあえず、親衛隊は解放してすぐ地上に向かわせて、こっちは解放した後は上の階層に一緒に移動して、最後の一人と合流して全員揃ったわけだが……。

 俺がここに来た理由は、まずこいつらの救出。

 そして、シアンの親衛隊から依頼されたシアンの救出。

 この二件は何とか達成されたから……。

 あ、今状況の説明をすれば、一回で済むのか。


「……ということで、今、こうなってるってとこ。ってことは……。もう帰っても……いいかなぁ……? 面倒事はご免だし、好奇心で首突っ込んで、トラブルに巻き込まれるのもやだしな」

「え? でも……」


 帰る途中で、シアンの様子は見ることはできるわけだし、あいつを守ってくれる親衛隊はいるし、塔のてっぺんの部屋は心配ってば心配だが、その仕事と役目はシアンがすべきことだろうし。


 うん、帰ろ。

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