王宮異変 その4

「お前ら……」

「そちらもいろいろあるだろうが、エイシアンム殿下救出に協力願えないだろうか?!」


 こんな早い時間だから、流石にまだ客は来ていない。

 それでもこいつらの声は、辛うじて聞こえるくらいの小ささだ。

 極秘裏に動いているのは分かる。

 それに……ということは……。


「王宮に向かう、ということか?」

「そうだ」


 是非もない。

 願ってもない。


「アラタ……」

「ヨウミ。お前はここで留守番」

「でも!」

「客を適当にあしらう役目が必要だ。それともそれを俺がして、お前にシアン救出に行くか?」

「そ、そんな」


 押し問答だってしたくない。

 おそらく時間的に切羽詰まってる。

 無駄な時間を経過させて状況が悪化するのを見ているだけ、ってのは下らねぇ行為だ。


「通話機で連絡のやり取りできるだろうが。一刻も早く動かなきゃならん事態だ。 ……二人とも、どうやって移動するんだ?」

「言っただろ? 行商の竜車を借りることができた。と言っても便乗だがな。だが商会も御者も事情は分かってくれた」

「来るまでには日数はかかったが、帰りは直行。六時間くらいで到着する。乗り心地は保証しないが」


 六時間で到着する距離……。

 スピードはどれくらいかな。

 って、いまはそれどころじゃねぇか。


「……魔球の入った財布は……ある。通話機も持った。あとはアレを持てるだけ持って……」


 冒険者が身に着けるような装備品を、俺の体に装備したいところだ。

 いつか、ふざけて一式そろえて買っていた物だが……。

 親衛隊の二人すら、武装を一切していない。

 大臣一味に怪しまれるからか。

 となれば。


「他に持つ物はないな。連れてってくれ」

「おう」

「ヨウミちゃん、すまない。アラタを借りてくぜ」

「う、うん。気を付けてね」


 ※※※※※ ※※※※※


 竜車はドーセンの宿屋の前に駐車していた。

 荷車の中に、クリットとインカーの二人と一緒に入る。

 店の中からは誰も出てこなかった。

 見送りはなし。

 隠密行動って感じだな。

 そして村の出入り口に到着。

 兵士がその左右に二人ずつ。

 俺達は、積み荷の影に隠れていた。


「よし、通れ」


 物々しい感じはない。

 思ったより穏やかな雰囲気を感じ取れた。

 検問というにはかなり緩い。

 そして、片道六時間の長旅に突入、か。


「ま、警戒度はこんな感じだ。だが王宮前はかなり厳しいと思う」

「……それはともかく、一体何が起きた? お前らは何で動けた? つか、ほかの奴らは?」

「あぁ。俺達が目にして体験したことを伝えとこう」


 できればテンちゃん達がどうなってるか知りたかったが、ここまで来る途中でおそらく連れ去ってった連中とすれ違っただろう。

 とりあえず、仕入れられる情報は仕入れとかなきゃな。


 ※※※※※ ※※※※※


 明晩アラタ達の所に食事会しに行こう、という話をしていた。

 アラタも、我々が来ることを予想してるだろう、ということで。

 その日の任務が終わって、一日最後のミーティング。

 今は殿下が使っている国王執務室。

 国王が幽閉されている部屋の番をしていたルミーラとアークスの二人以外の全員が揃っていた。

 非番の時間は、このミーティングが始まる前に終わることになっている。

 そしてこのミーティングが終わると、部屋の番の役目と非番はそれぞれ交代する。

 事が起きたのは、ちょうどその時だった。

 扉の外から、落ち着いたノックの音がした。


「失礼します。軍事統括担当のミシェーレです」


 執務室に入るときは肩書きでなはく、このように担当と自称する。


「入れ。……ミシェーレ。こんな遅い時間に何かあったか?」

「はっ! 実は、なるべく他の者の耳には入れたくない情報を掴みまして」

「……親衛隊なら気にするな。時間も時間だ。完結に報告せよ」

「……はっ。実は……失礼しますよ?」


 あいつはそう言うと右手を挙げた。

 と同時に、大勢の兵士が部屋に押しかける。


「あなたが国王を取り押さえたやり方をマネさせていただきます。全員を拘束しろ!」

「ミシェーレ! 血迷ったか! 全員退避!」


 殿下が俺達親衛隊にそんな指示を出すことは滅多にない。

 我が身よりも自身を守ることを優先しろ、という指示だ。

 俺達十人は、もちろん殿下を慕い申し上げている。

 しかし、殿下の何を尊重するかは、実はそれぞれ違ってたりする。

 どんなことがあっても殿下とともにいようとする者。

 何があっても殿下からの指示通りに動く者。

 己を犠牲にしてでも殿下をお助けしようとする者。

 いずれ、そんな違いはあっても殿下は大切な存在であることは変わりない。

 とにかく、俺とインカーとレーカの三人は部屋から抜け出すことができた。


 ※※※※※ ※※※※※


「レーカも?」

「あぁ。レーカはルミーラとアークスの所に、非常事態であることを伝えに行った。多分国王がいる部屋の前で、あの二人と籠城状態だな」

「てことは、他の親衛隊とともにシアンを捕らえたあとで、あいつは俺の店にやってきて集団戦の申し込みに来たってことか」

「マジか?!」

「殿下の行動をマークしてたんだろうな。まさかこんなことを企んでいたとは」

「ってことは……国王を解放する目的か?」

「いや。国王を幽閉する作戦に、積極的に参加してたから、それはどうかな……」

「しかも、どちらかというと国王から冷遇されてた側じゃないか?」


 すると、国王救出ってのは有り得ないか。

 それと、一つ気になる点がある。


「……俺に助けを求めて来た理由は何だ? ライムやテンちゃんの力を貸してくれみたいなこと、一言も言わなかったな」

「……怒らないで聞いてくれよ?」


 クリットが恐る恐る聞いてきた。

 そんなに怒りっぽい性格じゃねぇけどな。


「あぁ、まぁ、聞くだけなら」


 インカーと顔を見合わして、安心したような表情を見せた。

 一体何なんだ?


「アラタ。お前は殿下の唯一の親友だからな」


 ……はい?

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