千里を走るのは、悪事だけじゃない その14

 何事もなく、ってわけじゃなかったな。

 ドラゴンの頭から尻尾までの体長は、俺が感じた気配からの推測の二倍弱の長さが判明した。

 戦闘舞台作りに取り組んでたンーゴとミアーノが、地中からギリギリまで接近して分かったんだそうだ。

 三体ってのは合ってたから、まぁ面目は保てたかな。

 あと、翼がないタイプで、跳躍もできない鈍重な感じなんだそうだ。

 ここまでは流石に俺には分からんかった。

 もっとも俺がそれを知ったところでどうにかなるものでもなし。

 で、一般人の俺とヨウミができることと言えば……。


「いつものように、ここで店開いてていいから」


 なんだそうだ。

 つっても、店を開くっていう言い方もな。


「……おにぎり全部持って行かなくていいか?」

「そこまで気を遣わんでいいさ。みんなそれぞれ所持していくだろうしな。気持ちだけ受け取ってくよ。ありがとな、アラタ」


 ま、俺達二人が出張ったところで、何かの力になるわけでもないのは自覚してるけどさ。

 今回はのんびりさせてもらおうか。


「……アラタ?」

「なんだ? ヨウミ」

「ん? いや、みんなのこと、心配なのかなって。真顔になってるから」


 そりゃ心配に決まってる。

 けどあいつらも、俺がいなきゃ何にもできないって言うような、ヤワな奴らじゃない。

 けどな?

 そんな言い方だと、いつも不真面目みたいな言い方に聞こえるんだが?


「心配するな、アラタ。こっちの準備は万端だ。不測のことが起こっても対応できるように、いろんな対策も立ててある。もっともアラタの仲間達がいなかったら立てられなかった対策だったがな。助かったよ」

「……礼ならあいつらに直接言えよ。俺に言うのは筋が違わぁな。俺らができることっつったら、せいぜい見送りぐれぇだしよ」


 そう。

 今日ははぐれドラゴン討伐の実行日。

 日の出まではまだ一時間以上ある。

 心配のあまり、できることはする。

 が、冒険者達のリーダーは、そうは思ってなかったようだ。

 まぁそっちの方が都合はいいがな。

 こんな早い時間に行動を起こすのは、村人達に余計な心配をかけないようにってことと、魔物達も眠ってる時間だろうから討伐しやすかろうという予測から。

 その予測は、確かに間違いじゃなさそうだ。

 感じ取れる気配全てが、まだ眠ってるって感じがするんでな。


「……流石に今回は、俺らに被害が出るようなことはないだろうから、みんな出動ってことだが……大丈夫だろうな?」

「心配ご無用だあ」

「そうですよ。ンーゴさんとミアーノさんは、もうすでに出発してますからね」


 なんか作戦があるんだそうで、あの二人は地中から現地に向かって移動中なんだそうだ。

 すでに動き出しちまったんならしょうがない。

 俺らが、こいつらの予想不可能な行動をとるわけにもいかねぇし。


「まぁ何かあったら、この通話機で連絡寄こしてくれれば問題ないか」

「つくづく心配性ねぇ。落ち着きなさいよ、アラタ」


 こんな時まで、コーティはどこから目線なんだ。


「そうだよ、心配ないよ。ちょこっと出かけてドラゴン退治して、んで戻ってくるだけなんだから」


 者の言いようによっては随分気楽な感じがするが、そんな単純なものじゃねぇだろうが。

 テンちゃんの頭の中、ほんと覗いてみたいんだが?


「ダイジョウブ。サミーモハリキッテルシ」


 そうなんだよ。

 サミーまで一人前に数えられてんだよ。

 サミーも張り切ってるんだから、無理に押しとどめるわけにもいかねぇし。


「そうよ、アラタ。あんたは堂々として、ここで待ってりゃいいの」


 マッキーも簡単に言ってくれるがなぁ……。


「ここまで来たら、待つしかないのは分かってるわよ。ね? アラタ」


 ヨウミは何ニヤニヤして俺を見てんだよ、まったく……。


「いつまでもぐだってっと、みんなに置いてかれるぞ。分かったからとっとと行ってこいっ」

「はーい」

「じゃ、行ってきますね、アラタさん、ヨウミさん」


 みんなの元気いい行ってきますの声。

 ホントに俺の胸の内、分かってんのかね。

 まぁどんなことを思っても、こいつらの姿が見えなくなるまで見送るしかできないんだが。


「通話機もあるし、大丈夫でしょ」


 通話機が、何かをしてくれるわけじゃないんだが。

 ま、今更グダグダいってもしゃーねぇか。


「……寝付けねぇけど、少し寝とくか。俺らだって心配ばかりしてりゃいいわけじゃねぇ。仕事はあるんだし」

「そうね。こっちはこっちの仕事全然できてなかったら、それこそみんなに何言われるか分かんないもんね」


 寝不足でおにぎり配給のミスをした、なんて話をしなきゃならなくなるようなら、あいつらから何言われるか分かったもんじゃねぇ。


「んじゃ少し休んで、それから朝飯といこうかね」

「うん。お休み」


 そしてしばらくして起床時間を迎え、朝ご飯を済ます。

 そこで早速通話機に連絡が来た。

 ほれ見たことか。

 何かトラブルでもあったか?

 って、連絡してきたのはマッキーかよ。


「はいはい、どうした? ……って、泣いてるのか? 一体……は? すまん、もう一回頼む」

『テンちゃんが怪我して、飛べなくなったっ』


 はい?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る