千里を走るのは、悪事だけじゃない その15

 百人を超える冒険者達と一緒に、俺とヨウミ以外の仲間達もドラゴン退治に出発した。

 殺虫剤振りかけてそれで終わる害虫退治とはわけが違うくらいは知ってる。

 ドラゴンに限らず、魔物退治ってのぁ、必ずその対象と戦闘になるもんだ。

 戦闘になるもんだから、当然怪我をする。

 油断して命を落とす冒険者もいるんだそうだ。

 そんな危険な場所で怪我をするのはごく当たり前のことだし、怪我をしないようにするには、日常生活の中以上に気を遣い、神経を遣わにゃならんはずだ。

 けど、テンちゃんが、よりにもよって飛べなくなるほどの怪我をした?

 それに、ほかの奴らは?


「お……お前はどうなんだ? 他のみんなは無事か?!」

『え? えっと、今はあたし達じゃなくてテンちゃん……』

「テンちゃんだけが狙われたってのか? あいつら、そんな作戦立ててたんか?!」

『さ、作戦? って、作戦実行どころか、準備もまだなんだけど……』

「は?」


 マッキーの声には、戦闘が始まったりその最中っていうような緊張感がない。

 それに彼女の話も理解できん。


「襲われてんじゃないのか?」

『襲われるも何も、えっと……みんな香草の辺りにいて、何と言うか……』


 待て。

 戦闘状態じゃなくて大怪我した?

 てことは、まだ俺にとっては必ずしも危険地帯にはなってない。


「お前ら、まだそこにいるんだな?」

『え? うん、みんないるよ』


 この場合の「みんな」は、おそらく冒険者達も含めてってことだろうが、あいつらがしばらくそこから動かないなら……。


「一旦切るぞ」

『え?』


 通話機を切った。

 やることっつったら、もうこれしかねぇ。


「ヨウミ、ちょっと様子見てくる」

「え? 何よいきなり。つか、あたしらがそこに行ったら邪魔になるって……」


 いちいち返事してられるか!

 財布はあるな。

 中身も……うん、十分にある。


「んじゃ行ってくら」

「ちょっとアラ……ぶはっ!」


 シアンからもらった魔球の一つ、疾風を使う。

 もちろん俺の背中から押してもらうためだ。

 素早く移動するのに体力いらずだろ。

 風圧がハンパねぇのは、ちょっと閉口するがな。


 ※※※※※ ※※※※※


 冒険者全員がいたのは、もう一つの店を通過した先の、崖の曲がり角。

 その集団のど真ん中を突っ切って到着。

 風圧食らうと、結構体力削られるもんなんだな。


「うおっ!」

「何だ?!」

「あぶねぇっ!」


 冒険者達が驚きながら道を開けてくれた。

 なんか偉い人の立場になった気分。

 って、それどころじゃねぇんだよっ。


「おいっ! お前ら……」

「アラタ! 来ちゃったの?!」


 来ちゃったの、はねぇだろうよ!

 心配させるような連絡をしてきたのはそっちだろうが!


「それよりテンちゃんは!」

「あ、アラタ……心配かけてごめんね……。知らないうちにマッキーが、アラタに連絡したって言ってて」


 テンちゃんはその集団の中の先の方で横たわり、クリマー達から看護を受けていた。

 傷口はでかく出血はひどい。


「アラタ! すまんっ」


 冒険者達の何人かからそんな言葉をかけられるが、まずは様態の確認が先だ。

 気配からして、羽ばたけなくなったわけではなさそうだ。

 筋肉の造りとか腱とかはよくは分からんが、その損傷はなさそうで、傷口が塞がり出血が止まり、痛みも消えれば元に戻れそうだ。

 確か治癒の魔球もあったはず。

 ま、腱が切れててもこいつにかかりゃ完治すること間違いなし。

 だがこれで、疾風と共に、この種類の魔球は一個ずつ。


「アラタ、それって……」

「テンちゃん、気にするな」

「でもそれって、もうタダでもらえないんだよね? お金、高いんだよね?」

「こいつは俺の物だ。俺がどう使おうと俺の勝手だ。周りからどうこう言われようが、そいつらから文句言われる筋合いはねぇ。……たちどころに治るってわけでもなさそうだな。痛みが消えるまでは絶対安静にしとけ。……で、何があった?」


 明らかに、誰かから斬られた傷ってのは分かる。

 自分でコケてどこかにぶつかってついた傷じゃねぇ。


「それが、この先にいる人が……」

「この先?」


 クリマーが指をさすその方向は、ハーブ群の手前。

 冒険者の人だかりで、そこに何があるのかは見えない。


「それに、人?」

「えぇ。そこの店の人に行く手を止められて」


 店の人……あのならず者共か。


「それで?」

「ドラゴンを討伐して村の安全を守るって言ったら、そのドラゴンは俺達の物だって」

「飼ってたってことか?」

「自分達が仕留めるんだって言い張ってたみたいです」


 五人程度でできるわきゃねぇだろ。

 人を雇うとしても、人件費払えるわけがない。

 ドラゴンを仕留め損なったらどうする気だ。


「この人数でも、全員無傷のままでドラゴンを倒せるかどうか分からない。ど素人が数える程度の人数で何ができるって冒険者達の誰かが言ったら、じゃあそこにいる魔物を仕留めて、そいつを売っぱらってそれを元手にする、とか言って」


 ……聞きたくない。

 聞きたくないが、聞かなきゃならねぇよな?


「……そこにいる魔物、って」

「……テンちゃん」

「チョッ! アラタッ」

「アラタあ! 止まれえ」


 止まれるか!

 あの野郎どもがああぁぁ!

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