その人への思い込みを俺に押し付けるな その6
「身バレした?」
「はい……エイシアンム殿下の親衛隊、と……」
こいつらもお忍びで来たんじゃねぇのか?
何でバレた?
つか、今後ここに来なきゃいいだけの事じゃねぇのか?
「紋章を、見られてしまったようで」
「お前ら、今朝の行列で、後ろに並んでた奴らのことは」
「後ろ? ひょっとして……彼女達だったんですか?」
注意不足にも程があるだろ。
「あ、レーカお姉様、こちらにおられたんですか。お姉様からもお話し伺いたいですわ。ぜひこちらへ……あ、こんな動物小屋のようなところじゃ御身が汚れてしまいますわね。私共屋敷に是非ともおいで下さいませ」
露骨すぎる。
何と言う手の平返し。
でもこうまでスイッチが切り替えられると、逆に清々しさすら感じてしまう。
「あ、アラタ殿、手を貸してくれまいか?」
「……ふむ。まぁいいか。お嬢さん方」
「……あなたには何の用もございません。どうぞお控えくださいな」
まぁそんなこったろうと思ったよ。
俺をダシにして、誰かとコネを持ちたがってたってことだ。
「いやいや、お嬢様方。とっととそいつらを、あんたがたのお家に連れ込んでってくださいな。お嬢様方もそいつらも、今日はこの店には用事はねぇだろうから」
「……あら、まともに見られないその身なりでも、多少は役に立ちそうなことを言うことはできるのね」
「あ、アラタ殿っ。いくらなんでもそれは」
「アラタ殿、助けてくださいよぉ」
親衛隊の悲鳴が……うん、心にあまり響かない。
振り切って逃げりゃいいのに。
「アラタ……ちょっとかわいそうな気がするんだけど。えっとフォームさんにマーナさんにリィナさんでしたっけ? それくらいに」
「あなたにも用はありません。余計な口出しをしないで頂けます?」
俺達のことは歯牙にもかけない、そんな感じ。
だが、少なくともこの村や店に害をもたらすようなことはなさそうで何よりだ。
しかし親衛隊の仕事に障りが出そうな勢いの三人と、苦悩の告白をしたあいつのことを思うと、このまま放置ってのはちょっとな。
だが、この事態をどうしたら収束できるのか。
このお嬢様方、俺らの話を聞く耳持たねぇしなぁ。
「しゃーねーなー。呼ぶか」
「呼ぶ? まさか……殿下を?」
「え? えっと、アラタ殿、いいんですか?」
グリプス達が慌て始める。
けどほかに、俺に何ができるかっての。
「……ちょっとお待ちいただけます? 殿下……って……まさか……エイシアンム皇太子殿下のことなのですか?」
「いいですわ。本来なら私達とまともに口を利ける立場なんかじゃないのだけれど、特別に、特別に話をすることを許可します。話しなさい」
風当たりがきつい態度が急変したお嬢様方。
何と言うかもうね。
まともな神経じゃねぇな。
図太いというか何と言うか。
「ねぇ、フォーム。こんな奴らが殿下のことを知ってるなんて、大嘘つきにも程があると思いません?」
「ちょっ……」
「言わせとけ、クリマー」
まともな反論しても、すべてが予想の斜め上を行くこの三人には通用するはずがない。
文句言うだけ無駄。
コーティですら呆れてものが言えないのか、口が半開き。
なかなか珍しい表情だ。
カメラがないのが残念。
にしても、ディスられてんなー、俺。
「心配ないですわ、マーナ。王族の紋章を付けている親衛隊ですのよ? やはり殿下が時折足を運ぶって話に偽りはないと見ていいでしょう」
言葉遣いもかなり変わってんだよな。
親衛隊の前だからか?
けどな、自分で言った言葉には責任持ってもらわねぇとなぁ。
「……でも考えてみりゃ、あいつになんて連絡とりゃいいんだ? こいつらどこのどいつだよ。俺と話もしたくないって言いながら、ファンクラブに入ってるとか言うし。あいつに分かってもらえるような説明なんかできそうにねぇな、考えてみりゃ」
「アラタ殿……彼女達三人は、貴族の家柄だ」
「貴族?」
貴族?
って、ヨーロッパとか、昔の日本にあった身分の一つのあれか?
一時期華族ってのもあったが……。
上流階級っつんだっけか。
「貴族と一言で言うが、その身分の中にも序列があったりする。殿下の……元国王の代までは、王家主催の晩さん会などがあり、毎回招待される貴族もあれば、滅多に呼ばれない貴族もいる」
「彼女達の家柄は、王家の人達と触れ合う機会がほとんどない末端」
「親衛隊風情が、随分失礼な物言いね!」
末端、か。
末端の貴族。
しかもレーカの言葉を途中で止めるってことは……自覚があるのかね。
雑談だったら噴き出すところだが……。
「つまり、王家の人と滅多に会えないから、接点が多少なりともあると思われる俺に接近して、俺をうまく利用して王家と交流を持とう、と?」
「それ以外、あなたのどこに何の価値があると?」
「……言わせておけば、あんた達ねぇ」
マッキーもしゃしゃり出てきた。
が。
「押さえろ、お前ら。コーティを見習え」
「はぁ? あたしを見習え? あたしはただ単に、こいつらの話には聞く価値すらないから無視してるだけ」
なら俺には、毒舌を吐くくらいの価値はあるってことか。
実に光栄なことだ、うん。
「でもアラタ」
「今ので目的がはっきりと分かった。王子の接触、交流、そして、あわよくば婚姻関係、か?」
「……流石下賤な身分ね。物言いが下劣だわ」
婚姻関係を結ぶ、という表現のどこが下劣だ?
どんな表現が正しいのかレクチャーしてもらいたいとこだ」
だが、感情を露骨に表に出してる。
その言葉に嘘偽りがあるかどうかの判断は、本当にたやすい。
この能力がなかったら、今頃どうなってたか。
「結婚、そして王族の一員になる、か。誰と結婚したいのかは確定してないが……あの国王か?」
「そんなことあるわけないでしょう!」
「だろうな。王妃がいるもんな。でもお妾さんとかには」
「無礼もそこまでくると、私達一族に泥をかぶせるようなものですわね!」
王家との接点が少ない人らに、その言葉が無礼ってこともないだろうに。
「はいはい。そちらの家柄の在り方にクレームつける気はありませんがね。でも結婚を前提にお付き合いしたいがためにあいつに連絡を取れって言うのは、流石に声をかけられんな」
「アラタ殿……」
親衛隊三人が驚きと感嘆の目を俺を向けてる。
今まで死んだ魚のような目をしてたってのによ。
でもな。
俺に希望を託すな。
俺は、俺の言いたいことを言わせてもらうだけなんだからよ。
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