その人への思い込みを俺に押し付けるな その5

「はい、毎度有り難うございましたーっ。……と、午前の客はこれで全員みたいね。アラタ、お疲れ様」

「おう、ヨウミもマッキーもライムもお疲れ。コーティもな」

「何よそのあたしのおまけ感はぁ。……ま、いいけどさ」


 しょーがねーよ。

 コーティ、一番ちっこいもん。

 小銭を片手で三枚くらいしか持てねぇたろ?

 できる仕事、限られてくるんだよな。


「アラタさん、また来ましたよ?」

「誰がよ、クリマー……って」


 今日は何も買わなかった、高貴そうなお嬢様三人組が店の前に並んだ。

 客がいなくなるのをずっと待ってたんだろうか。

 だが残念。

 俺は米の選別と収穫に行かなければならないっ。


「ライム、恒例の米収穫のお仕事だ。みんな、行ってくるぜ」

「あ、あのっ」


 うわー。

 話しかけられちまった。

 面倒くせぇ。

 俺目当てじゃないってのはもう分かったから、俺に絡んでくんなや。


「アラタさんの事、いろいろとお伺いしたいのですが……」


 お伺い、ねぇ。

 俺のことをいろいろ知りたがる割には、そっちは自己紹介もしねぇってのもどうなんだかなぁ。


「俺の事か。まぁ……このおにぎりの店の店長してるってことくらいしか特徴ねぇな。お前らも見た通り、毎日朝一番から行列ができるくらいの人気はあるな。今日先頭に並んだ連中いたろ? あいつらの仲間は頻繁に来てるな。来店の回数が一番多いんじゃねぇかなぁ」

「そうなんですか?」

「じゃあ明日も来るのかしら?」


 目当ては俺よりも店に来る客が目当てか。

 レアなアイテム見つけて一攫千金。

 そんな冒険者を捕まえて……ってとこか?


「ダンジョンから出てきたら、戻ってきた報告をしに来ることが多いな。来なくていいっつってやったけど、ひょっとしたらまた来るかもな。来るとしたら午後だ」

「じゃあそれまで待たせてもらってもいいかしら?」

「好きにすりゃいいさ。冷やかしで店に来ても、商売の邪魔をすることがない限り来店禁止にするつもりもねぇし」

「いいんですか? ありがとうございます」

「アラタさんって、優しいんですね」


 主旨が完全にずれてやがる。


「え? でもみなさんアラ」

「あー、マッキー、今日はお前もついてきてくれ。ライム、米収穫にいくぞー。ヨウミ、クリマー、コーティ、余計な事絶対言うんじゃねぇぞ? 恥ずかしいから」


 と、一言付け足しておく。

 それを言わなきゃ、逆に怪しまれかねねぇからな。



 余計な事言うんじゃねぇ。

 この三人には、今は自由にさせといてみる。

 不審点を指摘したら、手を変えて探りを入れられることになるかもしれねぇし。

 この三人の好きにさせといたままの方が、こいつらの狙いを明らかにしやすいはずだ。


 ※※※※※ ※※※※※


 米の収穫、米炊き、そして昼飯の時間。

 俺が留守してる間は、ヨウミ達は俺の言う通り、自分らからは何も話しかけなかった。

 それどころか、俺に全く興味なく、ベンチに座ってダンジョンの方を見ながら三人で雑談してたんだとか。

 俺が戻ってきた時には「お帰り」の言葉もない。


「何か、わけわかんない人達だね」


 というヨウミの声は小さく、三人の耳には届いてない。

 俺に限らず、誰かにいきなり近づこうとする者は、それなりに下心がある。

 俺に親しみの思いを持つ常連客は、馴れ馴れしく声をかけることができるようになるまで、足しげく店に通い詰めてた。

 まずは俺の店の扱う品物目当てってことだ。

 その品物を信頼するようになって、それを作る人ってどんなやつだ? ってなもんで話しかけてくる。

 盗まれて困るものと言えば……売上金くらいか。

 あとはテンちゃんとかライム達。

 俺とヨウミが仲間と見なしてる魔物達ってことだ。

 その三人の目的が分からないうちは、店を空にするわけにゃいかねえってんで、俺だけ店番。あとのみんなは飯の時間。

 みんなが昼飯を済ませて戻ってきても、昼飯を食う気分が起きない。

 別に気分が悪いって訳じゃない。

 そのまま仕事を続けても障りはない。

 そんな俺のことも全く気にも留めてないあの三人。

 そして時間がいつものように過ぎていく。


「アラタ殿―。戻ったぜー」


 グリプス達が来たようだ。

 相変わらず期待を裏切らねぇ連中だ。


「おう、おか」

「お帰りなさいっ」

「ご無事で何よりですっ」

「お待ちしてましたっ」


 お嬢様型三名も、俺の期待を裏切らず。


「え? えーと」

「な、何かしら?」

「おい、アラタ殿。この方達は?」


 今朝の行列で、自分らの次に並んでた人には目もくれてなかったか?


「えっと、私は……」


 俺よりも早く自己紹介を始めるたぁ思わなかった。

 俺が首突っ込む必要はなさそうだ。

 客同士の交流も悪くねぇと思うしな。

 もっとも双方とも、まともな客じゃないことは確かだがな。


 ※※※※※ ※※※※※


「アラタ殿ぉ……助けてください……」


 レーカが泣き言めいた感じで縋ってきた。

 そんな事言われてもなぁ。


「どうした」


 おおよそ想像はつくが。


「身バレしました」


 予想の斜め上をさらに突き抜けてた。

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