村の防衛もこいつらにかかりゃ、戦争ごっこかなぁ その3

 保安部からの報告や通知がないうちに異変を感じ取った。

 時間は、寝ずの番以外の村人みんなが寝静まった夜中。

 感じ取った場所は言わずと知れたおにぎりの店。

 感じ取れた位置は、隣村とこの店との中間よりも隣村寄りの位置。


「サミー、起きれるか?」


 サミーとは、いつも一緒に寝ている。

 が、ほかの仲間はフィールドで寝ることにしていた。

 村に何の被害もなければ、何の問題もない。

 けれども害意を持ってる奴らがいて、何かをやらかすつもりでいるのなら、とっ捕まえた方が村人たちは枕を高くして眠れるというものだ。

 だからわざと隙を見せるために、洞窟の方には俺とサミーのみ。

 残りはフィールドで睡眠をとる、というわけだ。

 もっともテンちゃんの、お腹をみんなの枕にしたいというリクエストもあったりするのだが。


「……ミュゥ?」


 非常事態が発生した今でも、眠い目を開ける仕草は可愛いもんだ。

 この世界には写真機はないのだろうか?


「みんなに報せてくれ。気配は……9。いずれも人間。魔族はなし。多分やらかす気はあると思う。ここからほぼ真っ直ぐに二キロくらい先にいる。伝えることはそれくらいか」


 やる気……すなわちサキワ村への襲撃ってやつだ。

 いくつか感じた覚えがある気配がある。

 日中、店に偵察に来たんだな。

 侵入先は、村の入り口からがいいか、村の外れからいいかってな。


「どんなに急いでもお前が見つかることは絶対にありえない距離だが、なるべく静かに移動しろよ? 報せたらヨウミと一緒に急いで戻れ。モーナーは……ついて来れれば一緒に来るように」

「ミュッ!」


 サミーの鳴き声は、今までで一番気合が入ってるようだ。

 だが……パチクリするちっさい真っ黒な目を見ると、緊張感が抜けそうな愛しさが……。


「コホン。なかなか目を覚ましてくれない奴には、耳に水を垂らすといい。寝耳に水っつってな、多分効果はあると思う」


 あると思う。

 接近するのはまだ先だが、とにかく先手は取っておく必要がある。

 そのためには、不快な思いをさせてでも、素早く目を覚ましてもらわなきゃ困る。

 近くに水があれば、の話だが。


「ミッ! ミーッ!」


 サミーはぴょんぴょんと飛び跳ねながらフィールドに向かって行った。

 一人残った俺は……。


「さて……あとは……やること、ねぇんじゃね?」


 ライムと一緒だったなら、ライムを体に纏って連中をしばき倒しに行くところだったんだが。

 単独行動も独断もほぼ禁止されちまったし。

 まぁ……俺のことを大事と思ってくれてるその気持ちも、分かっちまったからなぁ……。

 サミーとヨウミとモーナーが来るのを待つだけかぁ。

 やることないっつっても、のんびり寝てるわけにもいかねぇんだよな。

 こっちはこっちで、何か仕掛け作っとけばよかったなぁ……。

 でも、火計はいかんな、火計は。


 ※※※※※ ※※※※※


「ミッ! ミーッ!」

「アラタ、まだ大丈夫?!」

「じゃあ俺は、入り口で門番するぞお。どこからくるんだあ?」


 はい、何のフラグも立ちませんでしたね。

 何よりですな。

 とか考えてる場合じゃねぇな。


「真正面から来るわけがねぇよな。左側から来てる。全部で九人。散ることも集合することもできる程度に離れてる。慎重に進んでるみたいだな。一キロと五百メートルにはまだ届いてない」

「ゆっくりきてるんだなあ」

「つか、照明使ってないみたいだからな。夜目が利くんだろう」


 それに松明か何かを使うとしたら、途中で草木に燃え移りかねないだろうしな。

 まぁその位置から火をつけてもここまで広がるとは思うが、自分達の周りに火が回りかねないだろうしな。

 確実に報復を考えるなら、むしろその方がいい。


「迎撃部隊に、どこにいるか伝える方が良くない? より正確な位置を把握したいだろうから」


 迎撃部隊て。

 まぁここで防衛にしくじったら村が火の海になりかねないから、まぁちょっとした戦って感じだよな。

 それに、テンちゃん達が今どこにいるかは、俺には分からん。

 ここから細かく情報を出して、サミーに一々伝言を頼むしかないんだな。


「よし、サミー。細かい情報言うから、しっかり伝えるんだぞ?」

「ミッ!」

「まずは……」


 感じたままをサミーに言うが、今までとは異質な緊張感が湧いてきた。

 情報は感じたままのことを言うだけでいいのだが、それがそのまま伝わるかどうか。

 伝えた情報をしっかりと活用できるかどうか。

 あいつらの考えた作戦に、きっちりハマってくれるかどうか。

 長い夜になりそうだ。

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