トラブル連打 トラブル突破

 これ以上関わってくることはないだろう、と思ってた紅丸からの、店舗型の船の落下。

 間違いなく援護射撃。

 それがぐるぐると回転する。

 しかし落下の衝撃で、船底は見る影もない。

 耐久力も格段に下がり、暴風の力に負けて真っ二つ。

 それでも多数の魔物を道連れにして、暴風の中に塵と散った。

 けど、俺の体も動かせない。

 暴風の壁もすっかり消えた。

 コーティとライムは撤退。

 俺は地面に一人横たわってるが……。


「……ここで随分でけぇ魔物が現れたな。気配で分かる。ボスってとこだな。取り巻きも随分出てきた……」


 住民達に害を与えるわけにはいかない。

 ということは、火炎系と地震系の魔球は使えない。

 火炎系は、普通に火の粉が飛ぶ。

 地震系は、魔法の範囲を決めても振動の余波までは決められないだろうし。

 それ以外の物……何だっけ?

 覚えてるのは雷撃の魔球だが。


「けど……取り出すことはできても……投げつけることは無理か……。転がして、何とかなるかな?」


 試しに転がしてみる。

 ボスの魔物になるべく近づいてから発動する念を込めた。

 その魔物に接近させることは無理だった。

 だが効果は抜群。

 地上にいる魔物は次々と倒れる。

 だがくたばってはなさそうだ。

 しかも俺に感電することもなかった。

 この球は安心して使える。

 けど、俺に残された抵抗手段はあと一回になっちまった。

 不思議な気分だ。

 嫌な事ばかりしかなかった俺の世界じゃ、それから逃げたかった。

 楽しい思いをしたかった。

 周りに恨み言ばかり思ってた。

 けど、この世界に来て、人の生死が身近に感じるようになった。

 死にたくないと何度も思った。

 危険な目には遭いたくないと何度も思った。

 けど、こっちでも嫌なことは何度もあったし、俺の世界で俺の身に起きたことよりももっと深刻だったりした。

 それが今は……。

 俺が死んだら、泣いて悲しんでくれそうな奴らがいる。

 それだけで十分かなぁ。

 だって、この世界に来ることがなかったら……。

 俺が死んだら喜ぶような奴しかいなかったからな。

 そっか……。

 俺が苦しんでるのを見て笑ってる奴、喜んでる奴しかいなかったもんな。

 そうでなきゃ俺のことを無視してる奴。

 けど、俺が自分から進んでこんなことをしてたのは……。

 俺が苦しむ思いをした結果、いつもと変わず普段の日常を過ごすことができる奴らがいて、その日常の中で笑ったり喜んでたりしてる。

 そんな連中がいるってことを知ったからだ。

 守りたい、この笑顔っていうつもりはない。

 けど俺は……誰彼構わず、俺みたいに不幸の連続に出くわすことを望む人でなしでもなかったようだ。

 粗にして野だが、非にあらず、か。


「……ターっ。アラターーーっ!!」


 あ?

 聞き覚えのある声……ヨウミか?

 幻聴まで聞こえ……はぁ?!

 何で……何でこっちに来るんだ?!

 テンちゃんが……みんなを乗せてこっちに来てる?!


「こぉんのバカアラターーーっ! 何考えてんのよーっ!」


 馬鹿はそっちだろ!

 こっちにきたって、魔物の餌食になるだけじゃねぇか!

 合流できても、どうやってこっから逃げる気でいるんだ?!

 後先考えろこの馬鹿どもがあっ!

 最悪だ。

 最悪の事態だ。

 計算してなかった!

 どうやって退避させられる?

 だって、村や市に逃げ込んだら、そこの住民に被害が出るぞ!

 余計なマネを!


「ふんっ! 借りは返したからなっ!」


 コーティ、お前か!

 借りを返すどころか、増やしやがってんぞ!


「タスケニ、モドッタヨ!」


 こういうのは助けとは言わねぇ!

 このスライムにも馬鹿がつくかよ!


「さぁ、こいつら蹴散らすわよ!」


 大勢の冒険者達が何度も戦っても、即座に倒せない相手だぞ?!

 なのに何でただの人間の意気が上がってんだよ!

 このバカヨウミ!

 しかもテンちゃんとモーナーの後ろにいるし!

 勘違いもいいとこだろうが!

 現象が起きてから今まで食い止められてたのは、桁違いのライムの防御にコーティの魔法、そして魔球の効果なんだぞ?!

 生身の俺達じゃ、いくら魔物と……ぐはあぁぁぁっ!


「うおおっ!」

「きゃあああっ!」


 痛い痛い痛い!

 苦しいっ! 息もできん!

 もがこうにも動けない!

 魔物一体の腕の一振りだけで……みんなが散り散りに……。

 全滅決定じゃねぇか……。

 ダメ元で避難勧告しとけばよかったかなぁ……。


「おい。てめぇ、誰の許可得てくたばってんだ!」


 あ、あぁ?

 まさかその声……。


「新ぁ……。お前がどこにいようと、お前は俺の使いっ走りなんだよ! それが何で俺達がお前に振り回されてんだよっ!」


 芦名……。

 い、いつの間に接近してたんだ、こいつ……。

 こいつがいるってことは……。


「アラターっ! 遅れてすまない! よくぞ……よくぞ食い止めてくれた! あとは彼らがやってくれる!」


 あ……。

 もう、どこからやってきたのか分からん……。

 シアン……来れたのか……?


「アラタさん、大丈夫か?!」


 この声は……カムロ、だっけか?

 他の連中も……いるんか……。


「意識朦朧かよ。そこまで大怪我するこいつの気の弛みようは問題だ。あぁ、本当に大問題だぜ? だが……こいつをそこまで勝手に傷めつけていいなんて誰も許可出してねぇんだよ。やらかしたのは……奥の一番でかい奴か?! あぁ?!」


 人を勝手に……テメェの……所有物に……。


「人のモンを勝手に壊す乱暴者をぉ、許せるわきゃねぇよなあ!! 周りのザコどもは……まとめて端に寄れぇ! オラァ! ザコ退治当番は誰だぁ?!」

「任せろっ! まとめて粉砕っ!」

「現象封印!」

「よし、あとはそのでかい奴だけだ! 皇太子様、彼らの避難を!」

「うむ、ここは頼む!」


 あぁ?

 何が起きてんだ……?

 もう……わけ、分からん……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る