トラブル連打 その14

「うぅ……、うおっ! つっ……」


 気を失っていた。

 ライムの体越しに、大小の衝撃を何度も感じた。

 気付くと、うつ伏せの俺の上空で、まるまる商会のあの船が円を描くように回転している。

 ということは……暴風の壁はまだ残っていた。

 そして残念ながら、泉現象も収束しているわけじゃない。

 出現する魔物は、姿を現した直後に紅丸の船に叩きつけられる。

 船も回転は止まりそうにない。

 思い返すと、紅丸の奴は客を船の中に入れ、被災することのない本船に迎え入れるようなことはしなかった。

 あの時点で、泉現象の魔物への攻撃方法を考えていたのか。

 要塞などと噂される本船には、何かに対して攻撃する手段は持ってないと言っていた。

 それでも魔物に対しての対抗手段を打ちたかったってことか。

 確かに船そのものを攻撃手段にするなど、誰が考える?

 それにしても……教えてくれても良かったんじゃねぇか?


「アラタ、ブジカ」

「お、おう……つか……体中がちと痛い……」

「オニギリ、クウカ?」


 まだおにぎりはあったか。

 だが、俺の体力回復にはあまり役に立たない。

 ライムかコーティに食わせた方がかなり有意義だ。


「いや、俺よりライムかコー……。あ、コーティっ。無事か?」

「あ、あぁ。何とか……ケガもない」

「ライム……。コーティにおにぎり食わせてやれ……。」


 現状を確認するか。

 ライム、コーティは無事のようだ。

 俺は声は出る。

 ライムに守られてたお陰で命は助かった。

 だが動けない。

 痛みもあるが、全身に苦しみを感じる。

 打撲とかだろうな。

 船は俺の頭上の高さで地面に沿って時計の針のように回転中。

 だがその船も、暴風の壁が消える前に壊れそうだ。

 コーティの引力の魔法は既に切れている。

 魔物はというと、出現した端から船に潰されるか暴風の中に押し込まれるか。

 どのみち、今のところは魔物もまともに動けそうにない。

 しかし泉現象は、おそらく暴風の壁が消えた後も続く。

 ってことは……。

 マジで文字通り、俺らの命って、風前の灯火?

 暴風の中の灯火だがな。


「この風の魔法、あたしも……」

「二連発できるのか? それだけじゃなく、その中でも水とか爆発系の魔法も出さなきゃならんぞ?」

「しなきゃこいつらに襲われるぞ! いくら魔法の天才でも、魔法なしじゃ」

「……お前にゃ、ここまでやってくれりゃそれで十分だ」

「アラタ? ナニ、イッテル?」


 何って……ライム達にはお願いできるが、こいつにはそこまでする義理はねぇってことだよ。

 無実の罪、冤罪で捕まってたとしたら、いくら感謝の気持ちを行動で表せっつっても、命の危険を晒してまでするこっちゃねぇ。

 ここまでやってくれるだけでもう十分だ。

 これ以上手伝ってくれるなら、こっちから釣りを出さにゃならん。


「暴風が終わったら、すぐに退避しろ。俺に何か貸しがあるなら別だが、なきゃもう好きなところに行っていい」

「アラタッ」

「へぇ? いいの? なら好きにさせてもらうわ。さんざんな目に遭わせられた。もう勘弁だよ!」


 貸しも借りも作りたくはねぇんだよ。

 ここまで来たら、あとは破れかぶれかなぁ……。

 痛くて動けねぇんだからしょうがねぇ。

 でも今回は、ライムが無茶なことをして俺がぶっ倒れたわけじゃねぇからな。

 って、船が……っ!


「……っくっ!」

「ひゃあっ!」

「アラタ、ダイジョウブカ!」


 船が真っ二つになった音がとてつもなく大きい。

 近隣の町にまで響いたんじゃねぇか?

 でもその前に船が落ちた音で気付くか。

 あいつらにはその船の姿は見えただろうな。


「……通話機、鳴ってたんか。気付かんかったが……取り出す力もねぇか……。ライム、俺から離脱して避難な。このまま俺を動かすんなら、痛みで死ぬわ、俺」

「ダイジョブ。アラタ、クルンデハコブ」

「その……速さは? 魔物に……追いつかれねぇのか?」


 ライムからの返事はない。

 一人で逃げるんなら逃げ切れるだろう。

 スライムの特性を使えば、地面の隙間に入り込み、奴らが追跡できないルートで逃げることができるはずだからな。

 暴風が消えていく。

 俺の人生も、ここまでか……。


「コーティ、ライム。逃げる準備な。俺には、まだ魔球があるから、何とか、なる……」

「……じゃああたしはここでおさらばだ! 運がよけりゃ、達者でな!」


 あぁ。

 短い間だが、世話になった。


「……ライム、タタカウ」

「魔球の巻き沿い、食らうぞ?」

「……タスケ、ヨブ。スコシ、ガマンシロ!」


 義理堅ぇなぁ……。

 好きにしろ。

 ほら……暴風が消えて……たぞ……。

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