行商人とのコンタクト その9

 サミーと一緒だが、テンちゃんとライム、この二人と一緒に行動するのはいつ以来だったか。

 ライムを身に纏ってテンちゃんを助けに行ったことがあったような。

 あれから随分経った。

 ヨウミはともかくこいつらは、ホントよくもまあ俺についてきたもんだ。

 まともな性格じゃないことは自覚してる。

 けどまともにゃ戻れねぇな。

 何も知らない幼い頃とは違うんだ。

 

「ドシタノ? アラタ」


 只今テンちゃんが、俺とサミーとライムを乗せて飛行中。

 サミーを後ろから抱え込み、後ろにライムを背負う格好で乗っている。

 テンちゃんに能力があるのか、風圧や低温は感じない。

 ただ、風の音は耳に入る。

 それでもライムが俺に話しかけたのは、俺に密着してるせいか。


「あ? あぁ、何でもねぇよ。高いところが苦手なだけだ」

「テンチャンカラハ、オチナイカラヘイキダヨ」


 とりあえず誤魔化せた。

 詮索されたくないときは、余計なことは言わないに限る。

 だが高いところが苦手なのも確かだ。

 テンちゃんには、背に乗せた人を落とさない能力もあることは知ってはいるだが、怖いものは怖い。

 魔物の中には空を飛ぶものもいる。

 しかし今テンちゃんが飛んでいる高度にいる魔物には、テンちゃんの早さについて来れる者はいない。

 早く飛べる魔物もいるが、そんな奴らは大概体がどでかい。

 そいつらが飛ぶときは、常に遥かに高い上空にいるし、たとえ獲物がいたとしても地面が平らなところには降りたがらない。

 俺からは快適とは言えないが、移動時間が相当短縮でき、しかも安全ということは言える。

 それにしても……。

 俺はともかく、人間ってのは、この世界ではどうかは知らんがそもそもそれは飛べない。

 体を何かに変化させることもできない。

 そして俺の話になると、この世界では魔法が使える人間がいるようだが俺は使えないし、体力は同じ年代の平均値以下だろう。

 少なくともモーナーには敵わないし、ドーセンにも劣る。

 明らかに俺についてくる魔物達よりも、劣る部分が多すぎるしその差もありすぎる。

 何でまたこんなに懐かれたりついて来られたりするのやら……。


「あ、ほら、あそこだよ」

「……ん? あ、あれか?」


 船が地上にあるのは見える。

 その周りを、広めに柵で囲っている。

 船の外にも、何かのアトラクションだのなんだのがあるようだ。


「ん……。偶然にしてはちと多すぎるな」

「ドウシタノ?」

「ん? あぁ……。紅丸がいるんだよ。船の外にいるが……どこか分からん」


 柵の外には人がうじゃうじゃ。

 時間は……午前九時前。

 開場時間前ってことか?

 で、その柵の中にいるってことは……。

 仕事らしい仕事、してるってことだよな。

 時間待ちの客の中に一緒にいたって何の意味もない。

 しかし柵の中にいる人は、誰もが作業服っぽい服装だ。

 青とピンクで、おそらく性別か作業内容で区別してるんだろう。


「じゃあ船のそばに降りるね」

「バカ、やめろ。悪目立ちしすぎる。混雑は俺も嫌いだが、ルールは守れ。人混みの一番外側だ。」

「えー?」


 えー? じゃねぇよ! 馬鹿天馬!

 長く待ってる人達から何と責められるか想像もつかんわ!


 ※※※※※ ※※※※※


 着地、そして待機。

 やがて開場時間がきて、客たちがどんどん中に入る。

 柵の外から押し出されるように中に入る客達。

 つくづく、俺達の店にはこんなに殺到することなくて有り難い。

 こんなに人が来たら、まず捌ききれない。

 だがおそらく、娯楽を楽しみたいという欲求だけじゃない。

 なんせ、俺たちの周りからみんな遠ざかりたがってたからな。

 俺達からなるべく遠くに離れたがってた。

 理由は間違いなくライム。

 綺麗な色彩とは言え、一般人なら感情が読み取れないスライム。

 そりゃ溶かされるとか思うだろうよ。

 待ってる間も、警備員っぽい人から警戒されたし質問も受けた。

 ちなみにライムの外出は、今回が初めて。


「人に不安を与えるのは不味いよなぁ。ま、今更だな」

「ライム、キニシナイ」

「お、おう……」


 周りが気にするというか、極度の緊張感をもたらすんだよな。

 何かの姿形に変えさせても、何かが変化した物、いわゆる何者かの擬態ってことがすぐばれるし。

 一々安全ですって触れ回るのも変な話だ。


「さーて、最初はどこに行こっか? ね? サミー?」

「ミャウミャウ」


 お前はお前でもう少し周りに気を遣えよ。

 まぁいいけどさ。

 でも気になるのが一つある。


「中には入らん」

「えー?」

「ドコイクノ?」


 こいつらは気付かなかったらしいな。

 この船の後ろの方で何やら作業していた一人。

 その作業場に近づくと、どこにいるかが分かった。

 一人だけサングラスを、いつもと違いしっかりとかけている。


「あー、すいません。ここ、関係者以外立ち入り禁止なんで。それと……それ、スライム、ですか? 危険な魔物はちょっと……」


 近くにいる作業員から声をかけられた。

 随分ガタイがいいな。

 つか、ここ立ち入り禁止だったのか?


「あ、ああ。そこの人に用事があって、見かけたのでつい。……紅丸さーん、ご苦労さんでーす」

「え? え……っと」

「んー? どなたさー……って、アラタさんやないですか! どしたんです? あ、ああ、俺の知り合いや。俺の事気に」

「えー、なるべく早く済ませてくださいよ? 仕事、あるんですから。では、失礼」


 えーと……。

 代表取締役、だよな? こいつ。

 なんで注意されてんだ?

 まぁ、肩書が上でも、そうやって注意してくれる人がいるだけでも有り難いもんなんだろうが。


「はいよー。……アラタさん、どしたんです? こんなところまで」

「いや、紅丸が仕事してたっぽいから様子を見に」

「よぅ分かったのぉ」

「分かったも何も、サングラスしてるし」

「それだけでよう分かったの」


 いや、サングラス、いつもかけてたじゃねぇか。

 しかも仕事中にサングラスってどうよ。

 けど肘で額を撫でて拭うほど、顔から汗が滲み出ている。

 力仕事もやるんだな。


「しかし……箱を運んでんのか。結構多いな」

「あ? あぁ。まぁ、な。……で、どしたの。……スライム、なんていたか? アラタさんとこに」

「あぁ。お前が来た時には居合わせなかっただけだ。それにしても、代表取締役、なんだよな?」

「おう。それが?」


 いや、それが? って……。


「普段の仕事、それ?」

「資格が必要のない雑用なら何でもするで? 顎でこき使うなんてとてもとても。そしたら部下から顎でこき使われてるっちゅー境遇。なんじゃこりゃ。わははは」


 笑っていいのか?


「で、その積んだ箱たくさんあるが、何? これ」

「ん? あぁ。本船に運び込んだり降ろしたり。布で覆ってるのは、それを見た客がこっちに押し寄せて来んようにな」

「中に何入ってんだ?」

「いろいろやな。本船にいるもんたちの生活必需品とかを運び込んて、本船で生産したいろんな品を降ろす。まさに棚卸やな」


 えーと。

 笑っていいのか?

 納得していいのか?

 ツッコんでいいのか?


「……コホン。客はいろんな人が来よるでな。一般人だけならただの布でもええが、魔力を感知させん細工もしとる。だから布の周りを鎖で囲ってな」

「それだけ大切なもんを入れてるってことか」

「そゆことや。なんせ休みの日の冒険者も来よるし、アラタさんみたいな魔物連れもおるからな」

「客が騒ぎ出さないような工夫か。しかしここ、娯楽施設なんだろ? そんな場所に持ち込んだり運び出したりする物があるのか?」

「娯楽ちゅーても、気晴らしって意味やで? トレーニングマシンだって、娯楽の道具と見る奴はおる。まぁ体を動かして楽しむ施設っちゅーことやな」


 なるほど。

 新規のアトラクションとかがあれば、そっちの人気が高まることがある。

 我先にと駆け出せば、予測不能な事故も起きないとも限らない。


「それに、夢中になったら楽しい思いばかりやないやろ? 疲れたっちゅー人もいるはずや。ここにだって休息の場は必要ちゅうことで、ここにもいくつか飲食店はあるでな。シャワー室とかももちろんあるしの」


 至れり尽くせりだ。


「……すんません、お客さん。失礼します。……社長? お喋りもそのへんで」

「い?! あ、あぃ、すんません……。現場じゃわぁしが一番下だもんでの。ま、時間の限りゆっくりしとぉせー」


 まただ。

 何か違和感はある。

 いや、下の者から指示されて動くトップ、ということではなく。


「ねぇアラタ。ここにいちゃいけないんでしょ? さっさとここから離れようよ」

「お、おう、そうだな」


 意外と良識、弁えてんじゃねぇか。


「イコウイコウ! ナカ、タノシミー!」


 足に纏わりつくな!

 歩きづらいっての!

 それとサミー。

 お前少し体重増えたか?

 背中が重いんだが。

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