行商人とのコンタクト その1

「んじゃ洗米の作業に行きますか。マッキー、付き添い頼むわ」

「え? あたし? 荷物運搬……」

「だけじゃねえからな。頼む仕事は。護衛もだし、ライムだと過剰防衛になっちまう。テンちゃんよお。頼むぜー」

「んー? はいよー」

「え? 天馬? 天馬……が言葉、喋っとる?!」


 びっくりしてるなぁ。

 そんなに珍しいのか?


「ライムじゃなくてマッキーなんだ」

「このにーちゃんも、それなりに護衛の心得あるだろ? 遠くない所だし、森が近いならマッキーだって問題ないだろ?」

「まぁ、あたしは構わないけど……」


 マッキーの視線の先はこのにーちゃんだ。

 むしろ自己防衛が必要、とか思ってんのかな?


「……えーと、べにまる、だっけか。なんかファンクラブか何かできたとか何とかって噂聞こえてきたが、あんたも会員か?」

「……え、え? あ、いやいや、そんな暇ないですわ。あはは。す、すんません。つい見惚れてしまいましたわ。いや、それにしても、日本語を理解して喋れる天馬って……珍しいっすね」

「さあ知らん。だが俺の仕事を見学だよな? 俺をダシに、見た目麗しい魔物との出会いを求めてるっつんならとっとと帰って仕事しな」

「いやー、アラタさん、きついっすわー、あはは」


 なんか、軽っぽい奴だな。


「……テンちゃん。一人でどでかい米袋五つ。持てるな?」

「背中にぶら下げてもらったら問題ないよ。積み上げたら落としちゃうからね」


 長すぎず短すぎないロープで、左右に分けて四つ繋げる。

 真ん中に一つ繋げて、それをテンちゃんの背中に乗せる。

 テンちゃんの体の両脇に二袋ずつ、バランスよく下げれば、五袋全て落とすことはない。


「ん、だいじょぶ。歩けるよ」

「頼むわ。んじゃ出発」


 紅丸のため息が聞こえた。

 明らかに感心している。

 まぁ俺の仕事の一部だから別にいいが。


「それにしても、マッキーさんにドッペルゲンガーの方に天馬のテンちゃんさんに……なんでまたこんなに」

「おいちょっと待て。マッキー、テンちゃん。この仕事が終わるまで、こいつとの会話は禁止な」

「はい?」


 違和感はいろいろあるが、そのうちの一つはこういうことだったんだな。


「俺に関心があって、いろいろ聞くってのは分かる。だが俺はお前のことは全く知らないんだが」

「え? いや、さっき名刺渡したでしょ」

「肩書と名前しか書いてなかったな。肩書だけ見ても、中身はさっぱり分からん。得体のしれない人物としか言いようがない」


 俺に危害を加えるつもりなら、とっくにその人柄は把握できてる。

 現役の行商人で、空路……というか、空を移動して行商してる。

 それしか把握できてない。


「あー……まぁ何といいますかねぇ」

「俺から見たら、正体不明の人物から自分の身の上を探られてる。俺の身辺調査をするってだけなら別に気にしないが、接触されることほど気味が悪いことはねぇな」

「あ、いやいや。自分のことを正体不明のままにする気はありませんて。ただ……」

「ついたぞ。さて……米研ぎするか」


 言う気がないなら無理に聞く気はない。

 そんな相手と会話するほど暇でもないしな。


「えーと、ほら、自分の仕事の説明する時に、何やら自慢話になっちゃいそうな時ってありませんか?」

「そりゃお前の話し方次第だろうが。それとも何か? 俺が誤解するかもしれないって理由で何も話す気がないと?」

「そんなこと言うてませんでしょー?」

「じゃあ理由なしに自分の身の上は喋らない、と?」

「敵いませんなぁ、アラタさんには。えっと、飲食関係と、薬関係以外の冒険者用の品物の製造販売を仕事にしてます。衣類も扱ってますが冒険者用の延長程度で。あと、まぁ生活必需品めいた物をいろいろとって感じです、はい。……って、川の支流で米洗って……はぁ……なるほどねぇ。そこに沈む汚れはそのまま沈殿かぁ。まぁ結局のところ砂ぼこりか何かでしょうから、川自体に被害はありませんなぁ。でもこれ……ひょっとして……手作りですか? 自然にできたものじゃありませんね?」


 ホントに根掘り葉掘り聞いてくるな。

 少しは身の上話したと思ったら、すぐに質問攻めかよ。


「土いじりしたついでだ」

「いや、そんなれべるじゃないでしょうに。いやいやいや……。あ、ひょっとして使い魔にやらせました?」

「使い魔?」


 なんだそれは。

 使い魔っつったら、俺が召喚術か何かで呼び出した魔物……だよな。


「そんなもんはいないが?」

「え? この方々は」


 ……そういうふうに見てたのか?


「……一応従業員だ」

「従業員って」

「えー? そんなんだったの?」

「お前らは黙っとけ」


 給料は払ってるかたちをとっている。

 だから従業員と呼称しても、決して間違いじゃあない。


「あ、あぁ……そうですか……。あ、アラタさんの趣味」

「仕事を見学しに来たんじゃねぇのかよ」

「あ、はい、まぁ一応。たはは。でもやっぱり好奇心には勝てませんわ。あはは」


 何なんだ?

 こいつは。


 ※※※※※ ※※※※※


「さて、米研ぎも終わったし……帰るぞー」

「はーい」

「んじゃまた背中に乗せてね」

「おう」

「よいしょっと。よし。五袋全部ロープでつなげたよ」


 紅丸の奴は川の造りを見ている。

 別に大した工夫はしてない。

 湾曲させて、底を深くしただけ。

 そんなに珍しいのか?


「んじゃ帰るぞー。帰ったら昼飯だな」

「あ、ほんならうちの店紹介しますわ。値段は、いつもアラタさんが使ってるお店のメニューのと同じくらいのとこですわ。お互い貸し借りはなしにしたいでしょうからなぁ。まぁいろいろ失礼した詫びとしてお店の紹介、ということで」

「んじゃ俺だけな。ドーセンとこにいつも世話になってる。俺達が利用しなくなると潰れてしまうってな店じゃないが、なくなったら間違いなく俺達は不便な生活になるしな」

「えー?」


 えーじゃねぇよ。

 紹介された店の客全員が、お前らのファンクラブに入ってたらどーすんだ。

 どこにあるかは分からんが、そんなサークルは実際あるみたいだしな。


「ま、まぁ、できたら皆さんに、と思いましたんですがな」

「無理だ。留守番も必要だしな」

「あ、あぁ、それもそうですなあ」


 これで……代表取締役、ねぇ。

 収入支出が直接関係する仕事せずにいられるってのは上の階級しかできないことだろうから、従業員とかはいるだろうに。

 そのことは考えねぇのかなぁ。


「それにしても……結構深い草むらってのに、よくもまあ迷わずに」

「崖目指していけば到着するからな。あの崖に掘った洞窟だし」

「なるほど! いいアイデアですなぁ!」


 アイデアも何も、洞窟掘れるところはそこしかなかったし。

 ただの知恵でしかないことに、そんなに強く感嘆されてもな。


「ただいまー」

「お帰り、二人とも。アラタもご苦労さん」

「ただいまっと。よぉいしょっと。んじゃ外してくれるー?」

「あぁ。車庫の中でな。ヨウミ、俺の昼飯はこいつと食いに行くから」

「え? あ、うん。じゃああたし達はいつものように二組に分かれて別々で行くね」

「おう。ドーセンによろしく言っといてくれ。さて……」


 なんかこいつ、背中を向けて何かしてるな。


「あぁ、すんません。無線の通話機で迎えに来るように伝えてましてん」

「通話機?」


 電話か何かか?


「走竜車を呼んだとこです。もうちょっと待っててくださいな」

「ソーリューシャ?」

「あー……竜っちゅう種族は、基本的にはみんな飛べるんですわ。でも飛べない種族もいましてな。それを馬車馬のような役目をさせてるんですわ。あ、ほら、もう来たようですわ」


 どこから来たんだ。

 つか……小さな恐竜って感じだ。

 確かに馬車のような車を引っ張ってる。


「ささ、お乗りください。行き先はここと隣の村の間ですわ」


 何というか、話が全く見えないのだが。


「間は森くらいしかないぞ? そんなとこに何があるんだよ」

「行けば分かりますて。ま、わぁしらの店がある、としか言えませんなぁ。詳しく説明しても信じてもらえませんでしょうからなぁ」

「お、おい」


 馬車……じゃなくて走竜車か。

 に、無理やり乗せられて発車された。

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