行商人とのコンタクト その2
今まで何度か馬車に乗ったことはある。
テンちゃんが引く荷車より早い馬車はなかった。
テンちゃんだってこんなに早くはなかった。
もっとも荷車を引きながら飛んだらどれくらい早いか分からんが。
それにしても……村を結ぶ道から枝分かれした道の先に……。
船……だよなぁ。
「ここですわ。船っちゅーても海に浮かぶ船と違って、船底は平面ですからの。飛空船はそのまま着陸できるとこって限られてるんですわ。すぐにでも、発着所がない、そんなときにこの小型船で離着陸するっちゅーことです。さ、どうぞ」
言われるがままに入るが、何というか。
横長のビルディングにいろんな飲食店のテナントが入っている。
その上が船。
そんな感じの構造だ。
中は割と賑わっている。
看板も何もないのに。
もっとも、船に近づくにつれ森の中にあるのが分かるわけだから、ここに来たがる人にはいい目印にはなるが……。
「この船の場合は飲食店が並んでるって感じですわ。どこがお好みですか?」
「あ? あぁ、ファミレス程度の……食堂で」
「じゃあここなんか合いそうですな。どうぞー」
やはり店の中へも、促されるままに入る。
ボックス席が二十くらいあるか?
窓際や壁際にも席がある。
中も満席に近い状態。
「あ、あそこが空いてますな。行きましょ行きましょ」
「え? あ、おう」
客は全員人間だが、店員は人間だけではなかった。
獣人や妖精の類の方が多い。
しかもみんな真面目に働いていて、人数も過不足がない。
客も誰一人不機嫌そうな顔をしていない。
料理に舌鼓を打ってたり、会話で盛り上がる組もある。
つまり、店の評判はいい、ということだよな。
けど、何でこんなにいろんな種族が働いてるんだ?
何でこんなに店が並んでて、何でこんなに客がいるんだ?
いろんな感情が湧き出て入り混じる。
けどその感情をそのまま言葉に出せない。
「さて……何にしましょかねぇ。店員さーん」
「はーい。ご注文はお決まり……あ」
「言うな言うな。今はただの客や。おすすめの……セットを二人分で。会計別でなー」
「あ、はい。承りました。お待ちください」
こっちに来た店員は……シルフっていうのか?
背中にトンボみたいな透明な羽が生えてた。
「……従業員、いろんなの、いるんだな」
「ほとんどが召喚魔法で呼び寄せた連中やけどな」
「召喚……」
まだ……気にしてたか、俺。
召喚されて追い出されて、か。
「……召喚した奴はまさか追い出したりなんかしないよな?」
「はぁ? なんでですのん。こんな能力があるこんな種族がええなぁ言うて召喚するんやから。追い出すなんて無意味な事しませんて」
だよな。
それが普通だよな。
「あとは……生活に困ってる人……魔物か。が来たら面接して、こっちも欲しい人材なら採用と」
「……さっき俺に、使い魔とか何とかって言ってたよな」
「え? あぁ。召喚術によって現れた魔物のことですわ。使い魔は反乱することはありませんからな。反抗はあるけど」
「反抗?」
「反抗っつったら大げさかな。反対意見って言うた方がええかな? 意見はどんな意見でも、頭ごなしに却下せずに聞きますわ。この店、商会を思うてのことですからね」
格下に見てるとか、差別してるとかってことじゃなかったのか。
こんな奴が王だったら、泉だのなんだので苦しむこともなかったろうに。
「この船は飲食店専門ですが、ほかにも防具品専門とか武器専門とかの船もありましてん」
「よくそんな船をたくさん作れるな」
「地上では船作りのみでしたわ。本船じゃいろんな土とか水とか載せて、地上とできるだけ似た環境作ってますんや」
スケールがいきなりでかい話になったな。
「空には飛べる魔物がうようよしてますやろ? どの魔物でも、でかくて硬くて、しかも自分らに痛みを与えそうなもんには襲い掛かってきませんでな。それだけでかいと、必要な浮遊魔力の量も半端じゃありませんが、錬金術師とか魔導士とかも雇ってましてな」
待てよ?
ってことは、この……こいつの商会って……。
「ひょっとして……国内じゃ、有名な企業だったりするのか?」
「え? えー、自分で言うのもはばかりますが、まぁそんな感じで……ですからこっちからは言い出しづらかったんですわ。てっきり知ってるもんと思ってましたからなぁ。あ、料理が来ましたよ。いただきましょか」
あ、しまった。
成り行き上こうなってしまったが、メニューの値段、確認してなかった……。
※※※※※ ※※※※※
「いやいや、いろいろ面白い話聞かせてもらいましたわ」
「いや、俺こそ……」
そりゃ、お前は何者だと言われて、一言で言い表すのは難しい。
この食堂の受映機、テレビを見てすぐに分かった。
いろんな番組があるが、その提供、スポンサー名が出てくるが、まるまる商会の名前が頻繁に出てくる。
ほかにもまるまるグループだの食品だのなんだのと。
大企業、だよなぁ。
「三代も続く老舗とは思わなかった」
「まぁこっちは、空中での生活の方が長くてのぉ。地上の情報はなかなか入らんで。だから素材以外にも情報を仕入れて、ちゅーことですな。そしたら、アラタさんの話が耳に入りましてなぁ。ちょっと会いに行ってみよと思いましてん」
自分のことは自分ではよく見えん。
そんな大企業の代表が、そうまでして会いに来たいと思うほどの価値がどこにあるのか、とは思うが。
まぁこっちもそれなりにいろんなことを知ることができた。
竜族の種族にも、メジャーなものがいればレアな物もいる。
人間社会に近い魔物の種族数も、俺の想像範囲を超えていた。
確かにこの店の従業員にも魔物はかなりいるが、生態上雇えない者もいる。
基本的に人を襲って捕食する生活を送っている魔物は無理。
それは除外だそうだが、そりゃそうだ。
水棲や、常に空中にいないと存在できない者もいるそうで、それも雇うのは無理だとか。
「それにしてもアラタさんとこの魔物達、人の言葉話せるなんて珍しいですなぁ」
「俺だって、コミュニケーションをとれない奴とは近づくことすら難しいしそんな気も起きない」
「なのに魔物に囲まれて生活している、と。俄然興味湧きましたわ。会いに来てよかったですわ。あははは」
ほかにも、川の流れを変えた作業にも興味を持ったそうだ。
本船にもそんな地形を作ったが、治水工事って言うのか? 地形を変える工事は見たことがないという。
まぁ興味を強く持ったら、もっと詳しく知りたいと思ったりするのは、まぁ誰でもそうだわな。
「いろんな仕入れで、今回はこの辺りをしばらくはうろうろしてますわ。手が空いたらまた会いに来ていいですか?」
「仕事の邪魔にならなきゃな。ろくに相手をしてられないかもしれないし。それでもいいなら、日中ならいつでも」
「ありがとございますう。竜車に送らせますんで、お見送りはここで勘弁してつかあさい」
「帰りの足を用意してくれるなら何の文句もねぇよ。んじゃま、そういうことで」
普段より昼休みの時間が長くなってしまった。
ま、みんなは工夫して休憩をとってるだろ。
こっちも悪くはない時間を過ごさせてもらった。
いい気分転換にはなったかな。
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