おにぎりの店へは何をしに? 台風一過
「事情も知らずに頭を下げさせてそれで満足するってんなら、そこに気持ちがなくても問題がないと? 頭を下げて下を向いた顔で、舌を出してても気にしないと?」
「それが謝罪になるわけがないでしょう!」
「頭を下げたら顔は見えませんからね。でもそっちは頭を下げられて満足するんでしょ?」
「人を馬鹿にするんじゃないわよ! いいから謝りなさい!」
話が通じないなぁ。
訳の分からないことを喚いているし。
「こちらが悪かったら誠意をもって謝りますよ。ですがね。悪いと一つも思ってませんからねぇ」
「なっ……!」
「まず、サミーは言葉を喋れません。なのになぜお宅の子供さんらが来たんです? なぁ、君ら、あいつから招待受けたりしたのか?」
何も言わずにかぶりを振った。
否定、とみていいよな。
「つまり、そっちが勝手にこっちに来た。こっちに来なきゃならない理由はあったか?」
同じく否定するんだが。
何も喋るな、とでも言われたか?
「だよな。つまり、そっちが勝手にやってきた。来なきゃよかったのに。来なきゃ怪我をすることもなかったんだぜ? これからは、もうここに来るな。な?」
「そんなことで誤魔化せると」
「誤魔化すも何も、これからはどうするかって話でしょうが。それで事故は起きない」
「事故?! 事故ですって?!」
事故以外、なんて表現すればいいんだ?
「一緒に遊びたいっつってきたんだぜ? だよな?」
今度は二人揃って頷いた。
そこまで嘘をつかれたら、話し合いは成立しない。
なぜならサミーは、この二人に遊ぼうと誘うことはできないから。
できたとしても理解できないだろうし、初対面での二人の反応だって、好意を持つかどうか分からない。
なんせ動物じゃなく魔物だってことは見ただけで分かるだろう。
たとえ可愛らしい姿をしていても、だ。
子供はまともで助かった。
「そっちはともかくサミーは怯えて帰ってきた。お前らとは会いたくなさそうだった」
「嘘おっしゃいっ!」
「頭ごなしにこっちのことを否定しないでもらいたい。こっちだってそっちのことは何一つ、あなたの言う通りであると言い切れることはないんだし」
「私の言うことを嘘と言うんですか?!」
話がずれちまった。
人の話、最後まで聞けや。
だから結果を決め付けて話す奴とは会話したくないんだ。
俺の職場でもそうだった。
何でもかんでも責任を擦り付けんじゃねぇっての。
「させたんじゃないの!」
「じゃあなぜ怪我をさせるような振り払い方をしてきたんだって話になる。そして怖い思いがまだ続いてるのはなぜかってことだが」
「そんな振りをしてるだけでしょう! いいから謝りなさい!」
自分の言うことは正しく、食い違うことを言う連中はすべて間違っている。
そんな考え方をする奴も、俺の周りにたくさんいたっけなぁ。
「……一緒に遊ぶってとこが問題だよな。サミーは一緒に遊びたかったんだろうよ。だがそっちの一緒に遊ぶ遊び方は、サミーのそれとは違ってたってことだ」
常識、ならば誰だって同じ解釈をする。
だがそうじゃないことでは、見解の相違ってもんがでてくることがある。
当たり前と思われることにもだ。
つまり……。
「サミーは、一緒に遊んでくれるお前らを、遊び相手と思ってた。だがお前らはサミーを、自分達が楽しむ道具にしようとしたんじゃないのか? つまり玩具ってことだ。ぬいぐるみでもいいやな。遊ぶ奴はぬいぐるみを自由に動かすことができる。だが残念だったな。玩具でもぬいぐるみでもない。あいつは魔物っつー生き物だ。意思も持ってる。されたら嫌なこともあるだろうよ。なのに言うことを聞けと言わんばかりの扱いをされたら、そりゃ嫌がるだろうさ」
サミーがうまれてまだそんなに月日が経っておらず、まだ子供ってのが幸いしたな。
「精一杯の抵抗をして、ようやく逃げることができた。捕まったら、今度は何されるか分からない。意思や感情がありゃ、魔物だって恐怖を感じるだろうよ。サミーにとっちゃ、お前らの方が泉現象で現れる魔物くらいに怖いと感じてるだろうよ」
「魔物ですって?! 言うに事欠いて……」
「お前らは、親と一緒ながらこうして会いに来た。会えるくらいは気持ちに余裕があるってことだ。サミーは怖がってお前らと会おうとしない。サミーにはそんな余裕はない。怪我をさせたことは謝らなきゃならんだろうな。けどな、お前らがサミーを怖がらせたことに誠意をもって謝るつもりがないなら、わざわざここに来る必要もない。俺も謝ってほしいとは思わん。来なくていいよ。というより、来るな。二度と来るな。来なくてもお前らの生活は成立するはずだ」
俺がここで店を始めてどれくらい経ったっけ?
でも村人がここに来ることは一度もなかったし、近寄る気配も一度も感じなかった。
俺の店があってもなくても、この村の行政とかにはほとんど影響がないってことだろう。
。
「俺の商売の相手は冒険者達だ。村人じゃない。しかも俺の扱う品は生活必需品でもない。お前らがサミーと遊ばなきゃならない理由も知らないし、知りたいとも思わん。けど互いに不快に思うなら、接触しちゃだめだってことだろうな。そっちに謝る気はないし、こっちも謝る気力もない。幸い、お互い普通に生活はできるようだし、それが落としどころってもんじゃないか?」
そう。
接触がすべての原因だ。
それでも謝れというなら、子供の監視が行き届いてないことを責めるだけだ。
物事には、必ず原因ってもんがある。
その原因はこっちで作ったことはない。
「おい、みんな。帰るぞ」
父親らしい男が初めて口を開いた。
「だってお父さん……」
「この人の言う通り、お前達がここに来たのが原因だ。そこの人も、人じゃないんだろう? 物語で聞いたことしかないが、ドッペルゲンガーじゃないのか?」
「私、ですか? えぇ、そうですが……」
「魔物と一緒に生活をしている人がいるってこと自体初めて知った。確かにこの人の言う通り、そんな事実がありながらそれを知らず、私達は普段と変わらない生活を続けていた。無関係でも互いに生活できるというなら、今後もそれを維持すれば何の問題もないはずだ。今回はお前達が悪い。帰るぞ」
「ちょ、ちょっと、あなた……」
子供の手を引っ張ってここから立ち去る男。
それを追う母親。
台風一家。
もとい、台風一過だな。
「だ……大丈夫……なんでしょうか?」
何がだよ。
サミーのことか?
俺達のことか?
あいつらのことか?
「多分、大丈夫なんじゃない?」
だから、何がだよ。
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