おにぎりのひみつ その3

「マッキーは知ってんだ。自然界も広いし、いろいろいるわな。ま、まとまった魔力を生き物が一気に吸い込みゃそんなアブねぇ奴らも出てくるし、ゆっくり吸い込みゃまた別の生きもんに変わることもあるわなぁ」


 ひょっとして俺、そんな危ない連中がうようよいそうな所に行ってたんか?

 サミーが生まれる前の卵戻しに?

 誰か教えてくれよ!

 今更なって震えてきたぞオイ。



「で、話戻すわ。土にも魔力が混ざるっちゅーこったな。けどどの土にも含まれるわけじゃねぇんだなこれが」

「話を聞いての推測ですから違うかもしれませんが、魔物の死体がない土地には魔力は含まれない……ということでしょうか?」

「そそ、そういうこっちゃ」


 確か、生命力の強い雑草が生えっぱなしの土は痩せるって話、聞いたことがあるな。

 そんな感じか?


「つまり、魔物がそこで息絶えたってことがなきゃ、その土地に魔力は存在せんっちゅーこっちゃ」

「ということは、私達が、その土地には魔物が来ないことで安全だって確認できた場所には、そんな土はないってことでいいのね?」

「そゆこと。で、その土から生える植物も、土から栄養を吸い取ると同時に魔力も吸い取っているっちゅーことになるんやが」


 ようやく話が繋がったな。


「つまり、俺がススキモドキから獲る米に魔力が含まれている。ということだな」

「人が住む土地から生える植物には、当然魔力は存在しねぇ。魔力が存在しねぇ土地からは、魔力が含まれた植物は生えねぇ。アラタが作るおにぎりにゃ魔力が含まれている。つまり、人が住む場所から生える植物から穫れたもんじゃねぇってことはそれで分かる」


 そう言えば、今まで俺が収穫した米は、すべて人里から離れた土地からのもの。

 もちろん俺は、魔力の気配まで考えたことはなかったから、それはたまたまなんだろう。

 と思う。


「で、魔力を必要とするもん達にゃ、魔力を補給することも必要になるわな。いくら睡眠で回復できるっちゅーても、しょっちゅう寝てるわけにゃいくめぇよ」

「あたし達が、アラタが作るおにぎりが美味しいって感じるのは……」

「アラタに、おにぎりに魔力を込めることができる力があるんじゃなく、魔力を感知する力が」


 いや、だからそれは違うって。


「ススキモドキから米が穫れるのを見つけたのはたまたまだ。もっともこの世界じゃ誰でも知ってることらしい。俺はそう言ったことは教わったことがなかったからな」

「じゃあ感知できたのは……」

「俺が普段口にしている米と同じってことと、実り、発育がいいってことくらいだからな。もっとも魔力を持ってそうな気配は感じることはできたりする。米にそんな力があると感じなかったのは、あるとは思わなかったからな」

「アラタの感知の力って、意識しないと分からないってこと?」

「あぁ、まぁな。で、ンーゴみたいな巨体でも、たった六個で満足するってのは」


 本題を忘れるところだった。

 そこんとこだよ。

 いきなり「足りない」なんて言い出して、村人を襲い始めたりしないだろうな? って心配も少しはあったからな。


「米一粒に入ってる魔力なんざ知れたもんだが、そんな米ばかりで作られたおにぎりなんて、質のいい魔力の結晶……っったら大げさかの? でもそんなんに引けはとらねぇと思うぜ?」


 べた褒めじゃねぇか。

 悪い気はしないな。


「体を保つ食いもんは、勝手に土食らってそれで問題ないさな。けど、今までの生活だって魔力の補充が足りない時は、そりゃあ数え切れん食らいあったさ。それが、毎日補充の保証があるっつーんなら喜んでアラタのあんちゃんについていくっつーもんだわ」

「イッショク、ロッコ トイッタ。タリナイトキハ、ソノアトデ、タリナイブン、クワセテクレ」


 そう言ってもらえれば気が楽だ。


「それで、私達も美味しく感じられたのね……」

「じゃあサミーは、生まれたその日から、そんなぜいたく品を口にしてんだねー。親に見捨てられて生まれた周りの環境がまさかそんなに恵まれてるなんて、生みの親も想像できないでしょうねぇ」


 まったくだ。

 ある意味逆転の人生。

 だが、当のサミーはそんなことは露知らず、だな。

 そのサミーは……。


「アラタぁ、多分この子、お腹減ったんじゃない?」


 大人しくなったサミーを毛づくろいしてるテンちゃん。

 この二人を見ると、実に和む。

 が、腹減って動けないのはまずいよな。

 なんせサミーは生まれたばかりだし。


「私、サミーとお二人の分のおにぎり持ってきます。アラタさんはどうします?」

「昼飯も俺一人で食うわ。こいつを見てやんねぇとな」

「あたしにもおにぎりもらえるなら、あたしがサミー見てるよ? アラタはみんなと一緒にお昼食べたら?」 

「でも今の話聞いたら、あたしもおにぎり食べたくなってきた」


 テンちゃんはともかく、マッキーもかよ。

 しょうがねぇな。


「初級の冒険者達もまだ来ないようだし、みんな揃ってここでおにぎりってことにしようか。おかずはドーセンとっから適当に注文して持ち帰りでさ」

「さんせーいっ」

「じゃあ私が行ってきます。ついでに弟の様子も見たいし」


 なんか、ピクニック気分な感じになってきたな。

 まぁそういうのも悪かぁないか。

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