おにぎりのひみつ その2

「とりあえず前置きとしてだな、まぁンーゴも俺もよ、人間の取り決めってやつとは無縁なわけだわな」


 取り決めって何のことかと思ったら、いわゆる文化や文明といったことらしい。

 人間が扱う道具とかもそうだが、お金もその一つ。

 給料の話を持ち掛けた時、今一つ理解できなさそうだったのはそういうことだったからか。


「だから俺らにとっちゃ、そんな金とやらよりも、アラタのあんちゃんが作るおにぎりの方が、俺らにとっちゃ価値がある、ってな」


 褒められたような気がしたが、今の話題はそこじゃない。


「で、その金とやらよりもおにぎりの方がいいと思ってそうな奴ぁ……ほとんどじゃねぇか? ライムン、テン坊」


 坊って。

 一応雌馬だぞ? あいつ。


「黒っぽいあの二人、何つったっけ?」

「マッキーとクリマーか?」

「あぁ、そうそう。それだなや」


 客の名前と顔を一致させる気がない俺よりもひどくないか?


「あとは大男の……モーナーっつったか? 価値があるっつーか、そのキューリョーとやらに入れてほしいとか思ってそうな奴ぁ、そんなもんかな?」


 当たってはいるが……ヨウミは金じゃなきゃダメだ。

 だからヨウミ以外の全員を挙げれば、当てようとしなくても当たるんだ。

 中にはお金も必要な者もいるが、数の差はあれどおにぎりを希望している。


「俺もだが、みんなにとって必要なもんがおにぎりに入ってるからな。それをアラタが感じ取って、それを使って作ったからってこったろうな」

「必要なもの? なんだそりゃ」

「魔力だよ。魔力が必要なもんにとっちゃ、ちょっと高品質な薬って言えるんかな。やー……ちょっとどころじゃねぇかもしんねぇな」


 はい?

 どっからそんなもんが出てくる?

 つーか、俺、魔力とか魔法とか使えないし、そんなもんを持ってる自覚もないんだが?


「魔物ってなぁ、魔力がある生きもんだから魔物っちゅーてな」

「まぁ、そりゃそうだな」

「魔力って、魔物のどこにあるかっちゅー話になるんだが」

「どこって……」


 考えたこともない。

 ただ漠然としか考えられない。

 なんせ、俺に当てはまる話じゃないしな。


「全身にあるんよ。で、使えば減る。休めば戻る。成長してけば貯められる魔力が増えていく」

「体力と変わんねぇ気がする」

「まぁそうだろうな。だが体力と違うとこもある」

「ほお。あ、ちと待ってくれ?」

「ん?」

「サミー、ちょっと降りてくれ」


 また頭の上でションベンされたらたまらんわ。

 地面に下ろすと、そこらの草の根っこにおしっこをしに行った。

 犬のおしっこかよ。

 戻ってくると、今度は俺の膝の上に乗る。


「はは、可愛いもんだの。で、体力との違いは、魔力は死んでもそこに残る。体力は死んだら消えちまうだろ」


 消えるっつーか、まぁそういう捉え方もあるかもな。


「で、その死骸を食う魔物や生き物もいる。そいつらは残っている魔力ごと食う」

「だが跡形もなく死体が消えることはないだろ?」

「もちろんだにゃ。誰にも食われずに残った死体は、土に溶けていく」


 溶けていくっつーより、土に同化するってことだよな。


「俺もだしンーゴもだが、それが含まれてる土を食い、土だけを体から出す。まぁんこみたいなもんだな」


 こいつ、いきなりなんつーことを!


「だが土の中にある栄養も取り入れる。結果、魔力はもっと欲しいが腹いっぱいになっちまうっつーこった」

「そこで魔力の純度が高いおにぎりの方が有り難いってことか」

「そゆことやな」


 待て。

 おにぎりに魔力が入ってるってのはどういうことだ?


「だから食い損ねた魔力もあるわな」

「まぁそれも道理だな」

「あー、ここにいたー。アラター。サミーいるー?」


 興味深い話の途中でテンちゃんが水を差してきた。

 いや、テンちゃんばかりじゃなく、マッキーとクリマーも一緒だ。


「何なんだよ、お前ら」

「だってお客さん来ないんだもん。いいじゃない。サミーと遊びたいし」

「おねしょに塗れたテンちゃんと遊びたくないってよ」

「ひどっ!」


 客が来ないのはおにぎりの店も同じ。

 会計の仕事も何もない、ということで、クリマーも羽を伸ばしに来たという。

 ライムは、一応ヨウミの用心棒。

 モーナーはいつもと変わらず、ダンジョンの掘削作業。


「で、割と長くここにいたようですが、何かあったんですか?」

「あ? あぁ、この二人からおにぎりに隠された秘密の話を聞かせてもらってた」

「へぇ。あたしも聞きたいな。あたしも給料全部おにぎりにしてほしいけど、それだと必要な買い物できないもの。もっともあたし一人で買い物に行っても、ダークエルフってことで避けられること多いけどね」

「マッキーさん……」

「へーきへーき。今更だよ、うん。あはは。で、どんな話してたの?」


 俺がミアーノから聞いた話をかいつまんで説明した。

 テンちゃんはサミーをかまってばかりのようだから、あまり話は頭に入ってないようだ。

 たまにしかこんな話は聞くことはねぇんだ。

 きちんと聞け、馬鹿天馬め。


「私もよくは知りませんでしたが……そういうことなんですね」

「なるほどなぁ。でもおにぎりにも魔力があるって、どこから、いつ入り込んだのよ?」

「今丁度その話になるとこだったんだよ」


 ミアーノに話の続きを促した。


「まぁ砂利でも土でもいいんだけどよ。ほとんどの場合、その中に魔力が埋もれてんだけどよ」

「泉現象の原因にもなるんじゃないの?」


 その発想はなかった。

 が、泉現象自体ミアーノらは知らない話。


「そりゃあなんなのかはよー分からんけどよ、時々自然に魔物が発生することあんだろ?」


 心当たりはある。

 泉現象と違うその現象は、モーナーのダンジョンの中でも起きたじゃないか。

 ゴーレムが出たとかいう話。


「魔力が行き場を失うと、そういうことがあるらしいんだわ。けど、魔力がこもった何か……俺らの場合は土だな。そういう魔力が詰まったもんをなるべく好んで食う。けど、魔物が発生する場合ってばよ、魔力がすがたになることもあるんでな。物じゃねぇから俺らはそれを食うわけにゃいかねぇ。魔物になるのを黙って見てるしかねぇって訳だ」

「その魔物の力がミアーノよりも強けりゃ……」

「そ、逃げるしかねぇってこったなぁ」


 戦っても生き残れないなら、そりゃ逃げるしかないよな。

 って、魔物が出現する現象の話してたんじゃなかったろ?

 話がずれてんぞ。


「結局魔力って奴ぁ、使わんと暴走するっちゅーこったな。んでそれを使えるもの……使い手っちゅー奴に魔力が入り込みゃ暴走はなくなるっつーこったな」

「使い手……魔物ってことか?」

「つか……生き物なら魔物でも動物でも……植物でもな」

「植物でも? 魔法使える植物なんてあるのか?」


 そんな話は聞いたことがない。

 いや、魔力を持つ植物なんて、その気配すら感じたこともないんだが?


「まぁ危険な植物はあるな。行動範囲に入った獲物を捕らえたら絶対に逃がさないツタの植物とか」

「はい? 何それ?」

「え? アラタ知らないの? って、普通の人間はそんな所に入ることってあまりないもんね。もっとも冒険者達だってあまり足を踏み入れる場所じゃない所に生えてるし、捕まえられても逃げ切れた人間がいるって話聞いたことないしなー」


 食虫植物かよそれ。

 怖ぇよ。

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