おにぎりの店の日々 その4

「食糧難?」

「そんなことないでしょ? こんなに広い農場に牧場だもの」


 ドーセンがぼやいた話題を、飯を食った後店に戻って持ち込んでみた。

 依頼を受けたわけじゃないし、毎日の仕事は休みなし。

 解決法だって具体案があるわけじゃないし、これで問題解消良かった良かった、という結果がどんなものなのかも想像つかない。

 だから、まぁ茶飲み話レベルの話のつもりだった。


「そりゃこの村の、外貨を稼ぐための商売用だろ? ドーセンとこの宿泊客なんだとさ」

「そんなに苦しいの?!」


 なんだよ、ヨウミのその輝く目は。

 変に食いつくなよ。

 つーか、そういう言い方は別の意味に聞こえるぞ。


「宿泊客の予約でいっぱいらしいんだと」

「部屋増やしたらいいのに」

「お前ら、俺の話聞いてたか?」


 店の全員が洞窟のロビーでくつろいでいる。

 ダンジョン案内組も今日の探索は一通り終えて一休み。

 製造販売組もちょっとだけお休み。


「村の貯蔵庫にはあ、米とか野菜はたくさんあるけどなあ」

「米だけじゃ生活できないだろ? って言われて、なるほどな、ってな」

 さて、おにぎりの店だが、まぁ今日から始めることになるんだが……」

「魚は川で泳いでるけど、たくさんって訳じゃないよね」

「あたしの弓で一日で全部仕留められるくらいしかいないもんね」


 マッキーの弓の腕、相当なレベルだな。


「でも依頼されてないんなら、別にこっちでも深刻に考える必要ないでしょ?」

「だなあ。たくさん来たらあ、案内組もお、手が足りなくなるぞお」

「足ならたくさんあるけどなー」


 そりゃお前の足は六本もあるからな。


「テツダイ、フヤソ」


 ライムも結構お喋りできるようになってきた。

 違う意見が多く出るってのは、議論の場では有り難いものだが……。

 何となく、喋るオウムのイメージが拭えないのは俺だけか。


「手伝いって言っても、給料出せないよね」

「マッキー、テンちゃんがおにぎりでいいって言ってくれなきゃ、相当値上げしなきゃならないとこだったからな」


 それほどの価値はあるってことだ。

 だが誰もがその二人くらい価値を見出してるわけじゃない。


「あー、案内してくれる人お、増えればいいんだなあ」

「何言ってるのよ、モーナー。ライムとおんなじことじゃない」

「違うぞお、マッキい。案内人お、雇わないで増えればいいんだあ」

「はあ?」


 モーナー以外全員互いに顔を見合わす。

 俺もその時は理解できなかった。


「雇うとお、給料必要だろお? だからあ、雇わないで増えればあ、給料必要ないぞお」

「雇わないで、となると……こっちに来るように仕向けりゃいいだろうが……」

「こっちに来る人達は、初級冒険者達だけよね。もっともモーナーがダンジョンを深くすれば……」

「深くなれば、それなりに強い魔物が現れる……傾向が強い……」

「それだけじゃないぞお。魔物が出るのはあ、俺が掘ったダンジョンだけじゃないぞお」

「他にどこがあるのよ。全然思い当たらないんだけど?」

「テンちゃんの言うとおりね。他に……あ……あるじゃない! 山の向こうにドラゴンがいるとかって話!」


 そうだ。

 ヨウミと一緒に、どこかでその説明は聞いた。

 しかし……。


「無理無理。そこに行くまでどんだけ時間かかるのよ。ドラゴンによる被害があるならともかく、ハイリスクノーリターンよ」

「そこまで行かなくてもいいぞお。ドラゴン以外の魔獣とかもいるぞお」

「そっかあ! 冒険者達の行動範囲内に魔獣がいれば、狩猟できるもんね!」

「その通りい」


 ドーセンがこいつに付けた渾名は、相当既成概念に縛られているみたいだ。

 ノロマだからって、知力が低いわけじゃない。

 想像力とか発想力もそうだ。

 ましてやモーナーはこの村で生まれ育った。

 このタフさなら、ある程度村の外の危険な地域まで出歩いていたかもしれない。

 まさにしかも土地勘もあるなら、案内役としてはうってつけの人材なんだが……。


「だが甘い」

「甘い? お菓子?」


 だから俺に馬鹿天馬なんて二つ名付けられるんだ、こいつは!


「そうじゃねぇよ。そんな魔獣を狩りに行きたいって奴がいるとする。そいつはこの国の、ここと反対側の地域に住んでるとする。ここまでくると思うか?」

「あ……」

「面倒よね……」

「チカクニ、イク」


 そういうことだ。

 ここに来ようと思う奴は、ここの近くにいる奴だけだ。

 実際米や野菜のブランド品をここで生産してるらしいが、買いに来る客は行商人の仕入れだけ。


「モーナーの発案、いいセンいってたけどな。もう一押しだった」

「もっと考えるぞお」

「ダメだ」

「アラタ、それはひどいんじゃない?」


 俺の即答にみんな不満顔だが、肝心なことを忘れてるぞ。


「明日のための仕事しろよ、製造販売組! 案内組はご苦労様だったな。でもこっちはまだまだ仕事は続くんだ。ほれほれ、晩飯の時間まで頑張らにゃ、売上上がらんぞ!」


 こんな話を長々としていいのは、一日の仕事が終わる晩飯以降しかねぇんだよ、お前ら!

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