こだわりがない毎日のその先 その7

「あれを売り歩いてるの? へぇー。じゃあかなりのお金持ちなんだな!」

「なんでそうなる?」

「だってあれだけ美味しくて、食べた後も元気も出るし。何? アラタって魔法使いか何か?」

「一般人だっつっただろ」

「そうだっけ?」


 おにぎりを食ってから、俺にかなり興味津々のダークエルフのマッキー。

 本人から聞いた話によると、エルフ社会にいながら、その肌の色から爪はじきにされ、一族もろとも追い出されたとか。

 何人で生活していたかまでは聞かなかったが、最後の一人となって放浪していたらしい。

 が、居心地の良さから、森林から出たことはあまりないとのこと。

 食生活は主に植物、穀物を中心とした物らしい。

 肉や魚などは自分から好んで口にすることはなく、非常事態においてはやむなく口にする程度。

 だがおにぎりの具の程度なら普通に食えるらしい。


「でも肌つやいいよね。化粧とかしてるの?」

「化粧? 何それ」


 三人で荷車を牽いているが、力を入れているのは真ん中のマッキーで、俺とヨウミはただ梶棒を掴んでいるだけ。

 そしてマッキーとヨウミでガールズトークが始まった。

 何だろう、このいづらさは。


 ※


「へえぇ……。姿を見なくても、その気配で分かるんだー」

「そうみたいよ? 私はごく普通の一般人だけどね」

「あれ? じゃああたしがヨウミに矢を飛ばした時は……」

「アラタの指示でね。自分には当たらないって分かってたみたいよ?」


 ……なんか視線を感じるんだが、ここは敢えてスルー。


「アラタ、あのときボーっとしてたと思ってたんだけど」

「何か分かってたみたいよ?」


 ……なんか、視線に痛みを感じるんだが。


「も、もう一回あれをやり直ししようかしら」


 何体裁整えようとしてるんだよ。

 気配分かってても避けられたり防御できるかってのは別問題だからなっ!


「お、落ち着いて、ね? マッキー」


 ちらっとエルフの顔を見たら……。

 なんか赤面してる。

 何つーか……。

 仕事頼んだの、早まっちまったか?


「え? 普通の人じゃない? 異世界からの人? 何それ」

「えっとね、召喚魔法ってのがあって……」

「キシュ? キシュって……何?」

「え、そこから説明? えっとね……」


 人間の世界の常識や決まり事、その他諸々のことを全く知らない、興味がない社会も、同じ世界の中に存在する。

 いや、同じ国の中に存在するってことか。

 つくづく旗手ってやつを特権階級みたいに受け取らないでよかった。

 マッキーは、人間社会の情報のほとんどを知らないようだ。

 俺にとっちゃ、むしろそっちの方が都合がいいような気がする。


「え? サキワ村? この先の?」

「知ってる? マッキー」

「この道を真っすぐ行くと、村は一つだけ。そこで行き止まりって感じになってるのは知ってるけど、名前までは知らないなー」

「ほら、地図を持ってなくても生活できることはこれで証明できるだろ?」

「ややこしい口挟まないでよ、アラタ」


 叱られた。

 でも行き止まりってどういうことだ?


「その村の方にも行ったことあるけど、山に囲まれてるのよね。その山の向こうはどうなってるか分かんないけど。ぐるっと囲まれてるし、山の向こうに降りるまでかなり距離あるんだよね」

「日本大王国の外だからね。外国のことはあんまり興味ないかな」


 興味ない……って……。

 人のこと言えねぇじゃねぇかよ。


「その村、どんなとこか知ってる?」

「え? 知らないで行くの? まぁそういうのを楽しいって思うのもいるんだろうけど……。まぁ……野菜とかたくさん作ってる村だね。興味ないけど、肉とかも美味しいって話聞いたことあるよ?」


 何だそのお互いの興味ない話のやり取りは。

 でも肉とかも美味しい……ねぇ。

 想像する限りでは、農業と畜産業に長けている地域ってことか?


「あたしの足なら二日くらいで着くけど、人間の足とこれ引っ張ってじゃねぇ。三日くらいかな?」

「まぁ、計算通りだな」

「でも行商に行くって……買い物客、ほとんどいないんじゃないの?」

「何でそんなことが分かる?」


 思わず質問してしまった。

 マッキーは人間社会に疎そうなのに、なぜそんなことが分かるのか。

 けど、そっちの社会にも商売があるってんなら、客がいなければ仕事にならないってのは理解できるだろうけどな。


「何回かちらっと見に行ったことあるけど、家っぽい建物は数えるくらいしかなかったし、大きい建物は三つくらいしかなかったわよ? 畑仕事とかする人達だけの村って感じ」


 自給自足の生活をしてるのか。

 でも、仕事はある、みたいなことは言われたが、どういうことだ?

 まぁ行ってみれば分かることだが……。


 ※


 何事もなくそれから予想通り三日後の午後に着いた。


「……ここでしょ? 来たかったの」

「うん……だけど……」


 村の地域の柵の中には、普通の農地の風景が目の前に広がっている。

 確かに話に聞いた通り、建物はまばらだ。

 田んぼ、畑、果樹園と思しき林、そして牧場。

 のどかな風景だ。


「何もないね」

「いろんな話を聞いた通りだな」

「何もなさ過ぎて、どこに行けばいいのか分かんないな」

「あたしが知ってるのはここまでね。この土地の中はどうなってるかまでは全く知らないから」

「……誰かが案内してくれると思ったのに……」


 何を期待してたんだヨウミは。

 まさか、歓迎! アラタ御一行様 か何かの看板でも立ってると思ってたのか?

 ここの人にとっては、来るかどうか分からない集団を歓迎しているってことだぞ、その発想は。


「とりあえず、宿屋だな。冒険者達がたむろする場所と言えば、どこだってそれが当てはまるだろ?」


 民家と思われるような建物がその設備を有してるわけじゃないだろう。

 とは言え、普通の民家はざっと三十くらいか。

 それでよく村という自治体の態勢を整えられるもんだ。

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