俺がとうとうお尋ね者に?! いや、撤回されたらしいが

 店を開いてる場所を、俺の店が貸し切り。

 そんな状態が続いているが、他の行商人達はそれどころじゃない状況にあるらしい。

 だがそれも今日で終わりだ。

 魔物の気配が消えつつある。

 ということは討伐している冒険者達も、ここで開店しているこの店を利用もしなくなる。

 いつまでもここにいてもいいが、商売が目的である以上これ以上の滞在は無意味。

 と言うことで……。


「お、アラタじゃないか。……って、店仕舞い? 魔物はまだいるみたいだけど……他に店がここにくるってこと?」


 冒険者三人組のチームが一つ、ここへ新規でやってきた。

 随分暢気なものだ。

 もっとも……。


「近くで依頼の仕事があってな。一応完了して一息ついてたんだが、知り合いがこっちに行く予定って話を思い出してな」

「野次馬根性じゃないですが、手伝えることがあれば手伝おうかなと思いまして」

「でも……無事に魔物退治は終わりそうな……感じですね」


 ついでにここにきたらしい。

 なら出遅れも納得できる。

 だが。


「他の店が来るような気配もないですし、それになんか抗議活動してるとか何とかって聞きましたよ?」


 昨日、身内からの辛辣な対応を受けながら客から聞いた話を出してみた。

 すると。


「あぁ、あの騒動は一段落ついたようだよ?」

「アラタさんの手配書は撤回されましたし、商人達の営業も今まで通り」

「……でも、引退表明した冒険者達の復帰率は上がらないみたいですがね」


 とうとう騒動の方も終焉か。

 でも、その先の話の展開は見えてきそうだ。


「……冒険者に仕事の依頼を出しても引き受けてもらえなくなって、冒険者数の減少が理由であることは火を見るより明らか。そうなった原因は、我々じゃなく、紛らわしい行動を起こしてる俺にある、とか言ってそうな気がするな」


 面倒事の責任は誰だって負いたくないし、誰かに押し付けたくはなる。

 その気持ちは分からなくはないが、こっちには身に覚えのないことだ。

 冒険者の件では、責任を取れる立場はむしろ商人ギルドだろうに。


「ご明察ですね。そしてそんな言い逃れが通用すると思ってんのか、と今度は住民達からやり玉にあげられてるそうです」

「ギルドの幹部のほとんどが、商人の経験のない貴族達ですからね。甘い汁を吸い続けた結果、辞めたくても辞められないその役職、ってとこでしょう」


 この試練を潜り抜けた先には、また甘い汁が待っている、ってわけか。

 懲りないねぇ。

 もっとも収入の手段がなければそれに固執する理由も納得だがな。


「けど、引退した冒険者が復帰しないってのはどういうことなんだろうな?」

「そりゃそうでしょうよ、アラタさん。引退の最後の仕事が、仲間で愛着もあった魔物を討つ、ですからね」

「決断したのは本人でしょうけど、自分が犯罪者として捕まったら、魔物は邪悪なるモノとして処分されます。今後の人生はずっと懺悔と供養の毎日という覚悟を決めた方が……ね」


 商人ギルド、文字通り罪作りの作業をしてたとも言えなくはないが。


「住民達はアラタのことはよく知らないし、ギルドは逆恨みしてるんじゃないかと思うが……」

「ギルド達はアラタさんに何かしてやろうと躍起になってるみたいですが、僕ら冒険者達からは総スカン。子飼いの連中も動く気はないようですね」

「沈みかかった船から逃げるネズミってとこでしょうね」


 ……要するに、俺の知らない所で俺がお尋ね者として告知され、俺が知らない所で騒動が起き、俺が知らないうちに収まったってことだ。

 好き勝手に騒ぎを起こして、火の粉が想像以上に広がって、自分の首を絞める結果になって、そして俺には損も得もない。

 逆境を跳ね返した立場なら、今頃は「ねぇ、どんな気分? どんな気分?」と囃し立てたくなってただろう。

 でもそんな自覚はないし、むしろ無関係、他人事みたいに思える。

 それに、この世界に骨を埋めるつもりでいるのだから、絶大な権力を持ってそうな組織や団体に、無意味な煽りはまずかろう。


「アラタ、じゃあ今夜から宿に泊まろうよ。久々にふかふかな布団で寝たいよー」

「いくらギルドがゴタゴタになったって、俺にちょっかい出そうとする奴はいないとは言い切れんぞ? そこ、勘違いすんなよ?」


 ギルドが世論をひっくり返すには、まず俺を拘束することが一手目になるはずだしな。


「油断はすべきじゃないんだろうが」

「ん?」

「アラタより先に国王が拘束された話は聞いたか?」


 確か昨日、そんな話を聞いたような気がするが。


「そうなるだろうって話だったか、そうなったって話だったかは聞いたな」

「王妃と皇太子が、今後国王に変わって国政を取り仕切るって言ってた」

「ふーん」


 ま、どうでもいい話だ。

 俺達には、またいつもの生活スタイルに戻さなきゃならん。

 他の行商人の邪魔にならないよう


「王妃が、どうしてもアラタと接見したいとか」


 はい?

 なんか、穏やかならぬ言葉を聞こえたような。


「王妃が? どうして?」

「なんでも、国王と大司教がアラタにしたことを詫びたいとか」


 今更だわ。

 まぁ殊勝な事とは思うが。

 そう言えば。


「慈勇教の教団はどうなるんだろうな?」

「詳しい話は聞いてないが、組織の要職が一新されるらしい。近くの町の酒場にでも足運んでみな」


 まぁ店仕舞いしながらの立ち話だ。

 それだけでも情報は十分かな。


「晩ご飯まで間に合うかなぁ」

「休養のことしか頭にないのか、お前は。ライムのこともある。車庫が用意されてるとこじゃないと利用できないって事忘れるなよ?」

「はーい」


 どうやら久しぶりに骨休みできそうな気がする。

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