俺がとうとうお尋ね者に?! その2

 お尋ね者騒動の話を聞いてから五日目。

 穏やかならぬ噂が飛び込んできた。


「アラタはさ、こういうとこで商売してるからあまり関係ない話かもしんないけどさ」


 随分慣れた口を利く客だが、それだけ俺のことを親しく思う気持ちが強いんだろうな。

 こっちはもう、年下だろうが年上だろうがどうでもよくなった。

 客の数があまりにも多くなって、覚えようとする気持ちも生まれたのだがその気持ちが客数の増加について行けない。


「こういうとこ?」

「商人の中には、ダンジョンの中でも商売する強者もいるんだよな。魔物との戦場でしか商売しない奴もいる」


 そりゃ確かに強者だ。


「魔物の数が増えてきてるんだよな。この仕事をしてる者としちゃ、ちと危惧してるとこなんだが」


 増える?

 まぁ俺の商売のやり方に適した場所が見つかりづらくなってるのは事実だが。


「湧いて出る魔物の数が増えてるのか、湧くポイントが増えてるのか、ってところか?」

「いや、もう一つある。それは、俺達冒険者の数が減ってるってことだ」


 ……はい?

 それ、ヤバくないか?

 冒険者のみを相手にする商売は、その売り上げが減っていくってことだよな?


「冒険者の数が減るだなんて思いもしなかった。一体どういうことだ?」

「アラタ。お前がお尋ね者になってるって話は聞いたか?」

「あぁ。別の冒険者の人達何人かから聞いた。それ以来、ずっと野宿の生活で……」

「ほんとーに久々に、宿で寝泊まりしたいのに……。アラタをお尋ね者にしたの、どこの誰よ!」


 ヨウミは相当ストレスが溜まってるようだ。

 客相手に怒鳴るなんてこと、今まで一度もなかった。


「……俺をお尋ね者にして、それを広告できる奴っつったら、想像つくだろ? ヨウミ」

「うぅ……」


 文句の一つも言いたいところだろうが、それができない相手だということは承知してるようだ。

 似顔絵の張り紙は誰がやったか。

 誰が許可を出したか。

 言わずと知れた、国王と大司教だろう。


 けど、それが冒険者の人数が減ってるのとどうつながるんだ?


「今回のお尋ね者騒動でな、お前が追われてる理由が、泉現象を引き起こしてる容疑、のほかにもあってな」


 思わずヨウミと見合わせた。

 他にもある理由に心当たりはないのだが。


「……そのプリズムスライムだよ」

「「ライムが?」」


 時には自ら便利な道具と化す。

 時には客に愛想を振りまくマスコットキャラ。

 夜にはヨウミが無理やり自分の寝床に引きずり込まれる弄られキャラ。

 愛玩動物、いや、魔物だが、そんな言い方をするにはあまりに知能が高すぎる。

 そんなライムが、俺がお尋ね者になる理由って……。


「人を襲う魔物を手懐けているってな」

「おいおい……」


 バンッ!

 とカウンターからでかい音が出る。

 俺の隣からそんな音が出るもんだから少しビビった。

 力任せ叩いたのはヨウミ。怒り心頭といった表情。


「言いがかりもいいとこじゃないの! 私のライムを何だと思ってるのよ!」

「お前のライムじゃないだろ」


 タイミングよく、荷車の奥からライムがやってきて、ヨウミの頭の上に乗った。


「ほら、こんなに可愛いじゃないっ! 一体どこの……、ちょっと、ライム? 何か重いんだけど。ねぇ、ライム? ライ……重っ。重いよライム! ライムーッ!」


 ライムも怒ってるみたいだ。

 ヨウミの「私のライム」と言う言葉に対してらしい。

 何とのどかなこの二人。

 見てて飽きない。


「ちょっ、アラタ、アラタっ! 助け……」


 ヨウミの膝が折れ、両手を床につく。

 ライムは頭から背中に移動。

 そしてヨウミはうつ伏せに。

 なんか、コントを見てるような可笑しさが込み上げてくる。


「で……ライムが原因で俺がお尋ね者になるって理由は、筋としては納得できるが、何で冒険者の数が減る?」

「冒険者の中には、魔物を仲間にしてる奴もいるんだよ。魔力がない、魔術が使えないって奴らは意外と多い」


 魔法使い、術師の人数は、どのパーティにもいるわけじゃない。

 アイテムを使って何とかするには、仕入れの費用がかかる上に、アイテムショップで扱う品数自体も多くないとのこと。

 そこで役立つ魔物の力、ということらしい。


「魔物を仲間にしてる冒険者達は、自分らもお尋ね者になるかもしれないってことで、手が回る前に鎧を脱ごうって決断でな」


 それで魔物が増えるとは……。

 魔物を減らしたい国が獲った手段は本末転倒ってわけだ。


「冒険者業を引退する最後の仕事が、仲間だった魔物を打ち倒すってんだから……」

「何それひどい! そんなことがあっていいの?!」


 ライムの呪縛から解放されたヨウミが再度爆発。

 何と言うか、えげつない話だ。


「そんなことをさせた原因はアラタにある……なんてことを言う冒険者は一人もいない」

「当たり前でしょ、そんなこと!」

「だがそんなことを言う奴はいる」

「な、何それ!」


 ヨウミはいい加減落ち着け。

 大体予想はついてる。

 口にしたくもないけどな。


「国王と大司教だよ」


 はい、予想通りでした。


「加えて商人ギルドもそれに追随してる。他人のふんどし感丸出しだがな」

「ギルドに未加入だからな。ま、睨まれてもしょうがないか」

「未加入な行商人だって数え切れんがな。豪商と呼ばれるくらい手広く事業を行っている未加入の行商人もいるが、彼らには見向きもしない」


 あら?

 ちょっとだけ、俺の予想の斜め上だった。

 ま、うろたえるほどじゃないな。

 それに、俺だけ目の敵にする理由はある。

 それは、俺が異世界から来た人間だから。

 俺が自らそれを伝えた相手はヨウミだけだが、多分もう、周知の事実だと思うが……。


「あと、これは余計な話なんだが……その発端は旗手達なんじゃないかって思ってる奴もいる」


 いくら何でもそれは考えすぎじゃないか?

 だって、あいつらとの接点は、俺がこの世界に来た初日だけ……。


「あいつら、魔物の泉とか雪崩とかに出向くだろ? アラタ達やこの荷車を見ることが多いとか」


 いや、それは邪推ってやつだろ。

 俺はあくまで、魔物が湧く気配を感じるのであって、泉とやら以外の現象もそれに入る。

 そしてあいつらの行き先は泉とか雪崩とかに限る。

 あいつらの気配を感じることなく店を移動する回数の方が圧倒的に多い。


「……なんで……」


 ヨウミの声は震えたままだが、今度はちょっと弱々しい。


「ん?」

「……なんでアラタ、こんなに追い詰められなきゃいけないの……?」

「お、おい、ヨウミちゃん、泣くなよ」


 それにしても……こいつの言うことはまったくだ。

 ヨウミが泣くことないだろうに。

 けど、その原因は常に俺にあって、ヨウミにはないんだよな。


「……泣いてまで俺についてくるこたぁないだろうに。それにライムだって、客の誰かに譲れば、その噂は間違いなく瞬く間に広まる。俺と魔物との間には何の関係もないって根拠に……。ライム? 重いんだけど。おい、ライム。ちょっ! 重いっ! 重い重い! は、離れろ! 重っ! くっ……苦し……っ」


 ライムが俺の頭の上に乗っかった。

 あとはヨウミと同じ罰を受けてる気分だ。

 ってそれどころじゃねぇ!


「ちょ、ライム、どいてあげて! 背骨折れたら大変なことになるよ!」

「……お前ら、いや、アラタもいろいろ大変だな……」


 暢気そうに言うんじゃねぇっ!

 こいつをどかせーっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る