限定即決マーケット!策謀宇宙人デスレム参上

限定即決プレミアムマーケット!策謀宇宙人デスレム参上


怪獣達が日常として普通に存在する星。

その星は、ココとは別の宇宙の違う地球。

その地球に、ある一人の少年がいる。

これはその少年の物語。


お久しぶりです。

ブラーヤ・エイジです。

普段の僕はちゃんと怪獣ブリーダーズと学生を両立してますが。

今は夏休みという事で~。


ダらけてます。


「~は~あ~つ~い~…」



夏の暑さがありとあらゆるやる気を削ぎ落とす。


それもエアコンが壊れてからのこの猛暑…。

これ以上の悲劇はなかなか無いのではないだろうか?

窓を全開にして扇風機に当たっていても、一向に涼しくならない。

この暑さも…もしや何らかの怪獣の仕業では?

そう思える程に毎日暑い…。

夏休みの宿題も全く手につかないよ…。


「全く嘆かわしや。

この程度の暑さで根をあげていては、ブラーヤ家を背負って立つ立派なおのこにはなれませんぞ」


そう大袈裟に嘆きながら、カルピスを作り出す我が家の執事。

トン爺。

バーテンダーの様にシェイカーに器用にカルピス原液と冷水と氷を入れ、シャカシャカとリズミカルに振りだす。

見ていて楽しいが正直、普通に作って早く出して欲しい。


「そんな事言われてもさ、エアコン無しはキツいよ…。

修理屋さんは何時に来る予定なの?」


「それでしたら再来週に来られます」


「さらいしゅ…そ…そう…」


僕は絶望した。

夏のエアコン修理や取り付け依頼ってなんでこんなに時間がかかるんだろうね?

これも何らかの怪獣の仕業なのかもしれない。

ちょうど入れて貰った冷たいカルピスを飲もうとした時だ。

ナビィが部屋に入ってきた。


「エイジさ~ん、朗報ですよ~」


「ナビィどうしたの?」


「先程、バトルブリーダーズ協会から連絡がありまして…。

ブリーダーズの皆さまに~。

なんとお手頃価格で怪獣を手に入れられる限定即決プレミアムマーケットが開催されるようなんですよ~」


「限定即決プレミアムマーケット?

普通のマーケットの即決決済とは違うの?」


「全く違いますよ~。

先ずは何と言ってもそのお値段!!

そして希少な怪獣!!

もの凄くお買い得になってるんですよ~!!

コチラがその出品される怪獣の名簿とその価格です」


言われてナビィから差し出されたタブレットを確認すると…。

凄い!!

お安い値段でこんなに沢山の限定怪獣までが出品されてる!!

僕は嬉しさと同時に疑問にも感じた。


「でも、どうしてこんなにお得なの?」


「そちらに登録されてる怪獣達は、元は別の怪獣ブリーダーさんが育てられていたんですが…。

金銭問題だったり、関係性の不和や、ブリーダーさんが引退されたりとかで、怪獣を手離さなければならない事情もあったりするんですね。

ですがブリーダーさんと共にまだまだ闘いたい怪獣もいますから。

そんな怪獣達を協会で募集し、年に二回程こんな形でマーケットしてるんです。

要は怪獣達の再就職先の斡旋ですね」


ナビィは自信たっぷりに解説を終える。

正直この制度を教科書では習わなかったので感心していた。


「そんな事があってたんだ?

なんだか世知辛いな~…。

けど、こうしてお手頃な値段で新しい怪獣を迎えることが出来るのは、ありがたいね!」


僕はタブレットを見ながらほくそ笑んでいる。頭の中でどの怪獣を迎えるか妄想を膨らませた。

これがもう凄く楽しい!!永遠と名簿や怪獣のステータスを見てられる。

この凄く楽しい妄想は猛暑すら忘れさせてくれるね。


「どの怪獣を迎えようかな~。

この獣型怪獣?イヤ、こっちの宇宙人型?

あ~やっぱロボット型も捨てがたい!!

出来るだけ多く迎えたいな~!!

支払いはやっぱりウルトラストーンなんだよねナビィ?」


「ええ、そうです。

ですが、エイジさん。

なるべく多くのブリーダーさんに怪獣を届ける為に、一人2体までの限定となってますからね。

早めに選んで下さいよ」


「えっ!!そうなのっ!?

うわっ~それは…悩むな~~~~!!」


これは困ったぞ…。

ウルトラストーンがあるなら、もう全部迎えたい状態なのに…。


?!!2体!!?


この中からたった2体に絞らないとならないなんて…。

これは新しい形の拷問なのではなかろうか?

そう思っていた矢先だ。


キ~ンコ~ン

「ごめん下さ~い」


その怪獣は玄関のチャイムを押して現れた。

トン爺が応対し僕へ報告をしてくる。


「エイジ様。

宇宙人型怪獣が訪問販売に来られましたが…。

いかがなさいますか?」


「宇宙人型怪獣の訪問販売?

珍しいね会ってみようか」


「かしこまりました。お連れ致します」


宇宙人型の怪獣は、言葉を介して人と意志疎通が出来る者が多い。

ここの地球には大企業の社長になってる宇宙人型怪獣もいるんだ。

たしかなんて言ったかな?

あのブランド?

黒ばっかりで…たしかアイ…アイゼ?…。


そう思い出してる最中にその怪獣は入ってきた。


「失礼します。

私、策謀宇宙人デスレムと申します。

どうぞお見知りおきを…」


デスレムは左手と右拳を合わせ、まるで中国式のようなお辞儀をする。

声が低くて渋いな~。

僕はこっそりナビィにある事を聞いた。


「ナビィ、さくぼうってどんな意味だったっけ?」


「はかりごとを…。

まあ、簡単に言えば作戦をたてて嵌めるみたいな意味ですね」


デスレム自体は知ってるんだけど…。

毎回策謀の意味を忘れてしまう。

トホホ…。

で、聞いた後にあ~ってなる。

作戦たて宇宙人もしくは、参謀軍師だよ宇宙人のが、分かりやすくて良いんじゃないかといつも思うんだけどね。


策謀宇宙人デスレム。

その見た目は人型に近く。

顔は細長く目鼻口が無い代わり、それらがあるべき部分に黄色いアルファベットのTの文字のような感覚器が大きくドンと有る。

骸骨を思わせる白いあばら骨状の外殻を全身にまとっていて。

その骨状の隙間から赤黒い筋肉のような肉体が垣間見える。

右手は普通なんだけど、左手は大きく硬そうな野球グローブのようになっている。

なかなかカッコ良い宇宙人型怪獣だ。


「僕はブラーヤ・エイジです。

どうぞ、ソファにお掛けください。

本日はどのような要件で来られたんですか?」


「ハイ!ありがとうございます。

本日はですね。

わたくしはワタクシを売り込みに訪問させて頂きました」


「へっ?」


つまりは、こういう事らしい。


限定即決プレミアムマーケットが始まる事になり。

一斉に怪獣との取引が始まると、人気のある怪獣ばかりにブリーダーは集まってしまう。

そうなると期間内で新しいブリーダーが見つからない怪獣がよくあぶれてしまう。

そうならない為に、前もって自分を売り込もうとする宇宙人型怪獣も中にはいるようで…。

その内の一体がこのデスレムさんという訳だ。


「なるほど、そういう事なんですか。

でもな~デスレムさんは普通のマーケットにもちょくちょく出品されてるしな~…」


僕はトン爺の煎れてくれた、甘いミルクティーを飲みながら渋い顔をした。


「エエ。

そうですよね~悩むのはよ~く分かります。

ですが!!

わたくしはそこいらのデスレムより優秀です。

それでですね、今回はわたくしの力を知ってもらいたく。

何らかのトライアルクエストにサポート枠で参加させて頂けたらと思いまして…」


トライアルクエスト!!

ようはどんな怪獣なのか、お試しの訓練バトルをするような意味あいかな。

どんな怪獣がどんな攻撃や必殺技を使ってくるか分かるから、新人ブリーダーにはありがたい訓練なんだよね。


で、サポート枠!!

よそ様の怪獣ブリーダーズが育てている怪獣を一体だけ借りて、自分のチームとして共闘する事が出来るんだ。

自チームの戦力補強や、怪獣の育成方針を決める見極めにもなるから、怪獣ブリーダーズには本当にありがたいシステムだ。

僕はある事をピンと閃き即決でこう答えた。


「そう言われるのなら分かりました。

早速、向かいましょう

ナビィ!トライアルクエストの申請を頼むよ」


「それではエイジさん。

どの怪獣のトライアルクエストを受けられますか?」


「それは…」


数分後…。


「うっひゃ~ーーーー!!

す~ずしい~ーーーーー!!!

生き返る~~~~~~!!!!」


「エイジさん、はしゃぎ過ぎです!

でもやっぱり、涼しいとCPUの負荷も和らぎますね~」


僕とナビィはキャッキャッはしゃぎながら雪だまを投げあった。


僕達は雪山にいる。

と言ってもホンモノの雪山へ来ている訳じゃあないよ。

トライアルクエストはあくまでも戦闘訓練。

戦闘訓練で巨大怪獣同士が、ドッタンバッタンしてたらこの世界はたまったもんじゃ無いからね。


ここはバトルブリーダーズ協会が建設した戦闘シミュレーション施設。

広さはサッカー場位ある多層ビルで。

疑似空間とかではなく、要は特撮映画みたいな巨大セットになってるんだ。

火山地帯の噴煙や溶岩とかは流石にCGによる投影になるけど。

戦闘シチュエーション事に地形や環境までも忠実に再現出来る。


現に僕は人工雪を堪能してご機嫌さ!

噂では、あの世界的に超有名怪獣映画や某ヒーロー特撮番組の撮影セットにも使われたんだとか。

そんな訳で、怪獣達は人間大の大きさで戦闘訓練する事になる。


で、僕が指名した怪獣は…。


凍結怪獣ガンダーだ!!


凍結怪獣ガンダー。

全体の見た目は、深海魚とハンペンを足してしまったらこうなってしまったような感じ。

顔は細長く上にいく程細く尖ってゆく。

目がいように飛び出していて、口は唇が厚く大きくチョウチンアンコウを思わせる。

肌の質感と色はイルカのようにツルンとして灰色で…。

体はまんま逆三角形の薄いハンペンかって体型。

▽←これに爬虫類系手足つけ天辺に頭を生やしたらガンダーになるぞ。

凍結怪獣という二つ名の通り、冷気を操る怪獣だ!!


「凍結怪獣ガンダーさん入りま~す!!」


施設スタッフの声と共にガンダーが入って来ると更に温度が下がる。

ちょっと肌寒い位だな。


って!!

一気に三体も?


驚いてる僕を見てデスレムさんは語る。


「何を驚いてるのです。

怪獣災害のハードな現場では平均五~六体は当たり前。

状況によっては更に沢山の怪獣が出現し、相手にしないとならない事もあるんですよ」


あ、このかた現場知ってるな~。

確かに怪獣三体なんて少ない方。

これは訓練なんだ!!

ガンダーさんに胸を借りるつもりで挑もう。


早速僕は手持ちの怪獣をベーターカプセルを高く掲げて呼び出す。


「ベムラー!恐竜戦車!インペライザー!!!!!」


Σピカッ


ピカッと光る輝きと共に、三体とも元気イッパイに出現する。

と同時だ!!

ベムラーが急に具合が悪そうなチワワみたいに小刻みに震えだす。


Σプルプル

Σカタカタカタ

Σプルプルプルプル…


「えっ?アレ?どうしたの?ベムラー?

体調でも悪いの?変なモノでも食べた?」


そんな僕の問いにベムラーは目で訴えてくる。


『寒いの…苦手…』


「そーーーだったーー!!ベムラーは…」


Σ「そう!!氷が弱点だ!!」


僕のセリフをデスレムさんがドヤ物言いで奪ってゆく。

そうなのだ。

怪獣は万能では無い。

個々の怪獣それぞれに苦手なモノや弱点はあるのだ。

そしてベムラーの弱点は氷!

ガンダーとの相性は最悪だ。

僕はベムラーに聞いてみた。


「どうするベムラー?バトル休む?」


『大丈夫!…やれる!…』


ベムラーは小刻みに震えながらも、力強く目で訴えてくる。

そう言われるなら怪獣の底力を信じるしかない。


「よし!じゃあ2体ずつに別れて戦隊を組もう。

インペライザーとデスレムさん!

ベムラーと恐竜戦車で!!

恐竜戦車!ベムラーの事をフォローしてやって」


『任せな!坊主!』


恐竜戦車は目とサムズアップで応てくれた。

相変わらず渋いな~。


スタート直前。

ガンダー達は離れた場所で一塊に陣をとる。

それを見て僕らは素早く挟撃する為に、チーム同士をある程度離れさせ2ヶ所へ陣どった。

そうして、僕とナビィは適度に離れ、映画監督が座るような椅子に腰掛けてその時を待つ。


Σビーーーーー!!

バトルスタート!!


バトル開始の音声が流れ、両チームは進軍を始める。


ガンダー三体はどうやら1体ずつに別れて僕達チームを攻撃しようとしてるようだ。

ガンダー1体ずつがそれぞれのチームへと向かい。

ガンダー1体がその場で待機している。


ガンダーの意図が分からないな。

こちら側に都合の良い戦力分散じゃないか。


「よしっ!各個撃破だ。

ベムラーと恐竜戦車は目の前のガンダーへ攻撃!

インペライザーは距離を、保ち待機!

デスレムさんはその実力を見せてください」


僕の指令と共にベムラーと恐竜戦車は、目の前のガンダーへと一気に距離を詰める。


「よろしい!

ならばお見せしよう私の実力を!!」


デスレムさんはそう語ると、ガンダーの数歩手前でおもむろに立ち止まった!!

立ち止まった事でガンダーに先手を捕られる。


「クルルルオーーーー!!」


ガンダーは鳥のような雄叫びをあげると、空高く舞い上がりドロップキックかのように両足蹴りを繰り出す。

だが!!

デスレムさんは余裕だ!!


「先ずわたくしの一番の長所!!

それは回避力の高さ!!

この程度の攻撃など…

当たらなければどうという事もない」


言うとガンダーのドロップキックを余裕であっさりかわすデスレムさん。

感心する程に鮮やかだなーー。

まるで闘牛をいなすスペインのマタドールを思い起こさせる。


「敵の攻撃を先ずはかわし、隙を作りそこへ攻撃を加え倒す。

コレが私の基本戦術です。

インペライザー君!今です!!

攻撃お願いします」


Σ「…!?」コクッ!!


インペライザーはデスレムさんに促され、ガンダーへと一気に駆け出し右拳を叩き込む。


Σドガッッ!!「クルルルオーーー!?」


攻撃され雄叫びをあげよろけるガンダー。

そこへデスレムさんは、そのグローブのような巨大な左手から炎を吹き出しガンダーへと浴びせた。


Σゴゴゴ…ーーー…

「クルルルオーーー!?」Σズシン!


たまらず倒れ伏すガンダー。

早速1体を行動不能へとする事が出来た。


「エイジさん。

あのデスレムさん、なかなかやりますね」


「ああ!!

デスレムさんがチームの中にいたら、たてた作戦をスムーズにする事も出来るな…」


僕とナビィが感心していると…。

戦況は大きく動いていた。


「えっ!?あれっ!?

ベムラーっ!?恐竜戦車っ!?」


ベムラーは既に戦闘不能。

恐竜戦車の全身には霜がつき、体の端々にはツララすら垂れ下がっている。

どうやら状態異常の凍結状態に陥っているようだ。


Σプルプル…

Σカタカタ

『ワルイ…。

エンジンオイルすら…凍っちまった…』

Σプルプルプルプル


いったい彼ら2体に何が起こったのか?

3分程前へと時を戻す!!


ガンダーへと向かっている恐竜戦車には決意があった。


『ベムラーがこの状態では防御に回るは悪手。

ならば!!』


エイジからの各個撃破の指令と共にキャタピラの回転を一気に上げる。

爆煙と雪煙を巻き上げ加速し、爆進でガンダーへ向かい直前で片側変速ギアチェンジ!!

慣性の法則を最大限活用しての…。


『ドリフト体当たり攻撃!!』


絶対当たるとの確信があった!!!


だが!!!


ΙΙΙ川「クルルルオーーー!」川ΙΙΙヒュオッ


Σ『なにっ!?』


ガンダーはいななきと共に空へと舞い上がりコレをかわす!!

かわすと同時にそのままだ!!

ベムラーへ向けてドロップキック!!


Σバガン!!Σズッポし…


ベムラーは動く事もままならず、おもいっきりガンダーからのドロップキックを喰らい豪快に吹っ飛び、上半身を雪へと埋もれさせてしまう。


『しまった!?

ヤツの狙いは最初からアイツだったか!』


弱っているモノから倒す。

弱肉強食の生物世界では当たり前の行動だ。それが怪獣の世界なら尚更だ。


Σズザザザザザザ…ーー


恐竜戦車は慣性と雪の影響で横滑りしながら、その短い腕を必死に雪に食い込ませ少しでも早く止まろうと…。

ベムラーへと駆け寄ろうとした。


その優しさが仇となった。


恐竜戦車の予期せぬ、真後ろからそれは来た!!!

ガンダーは両手をゆっくり上げ…。

その大きな口から…。


Σ必殺技!!クールブロウ!!

Σビュゴゴゴゴーーーーー!!!!


猛烈な吹雪を吐き出し恐竜戦車とベムラー両怪獣の体温をたちまち奪い。

両怪獣の体は徐々に凍てついてゆくのだ。

氷の苦手なベムラーはたまらず…。

八つ墓村のスケキヨみたいな状態で戦闘不能へ!!


『くっ!!力を溜めてやがった?

ヤツら何も考えてない面で…戦況をしっか…り考え…やが……………!!』


そう!!

必殺技クールブロウを放ったのは、初手で待機していたガンダーだ。


ガンダーは数敵不利を理解していた。

それもそのはず。

トライアルクエストにて幾度となく様々なブリーダーと戦ってきた猛者達なのだ。

そんじょそこらのガンダーとは経験が違う。

特に夏になると不思議と仕事がやたら増えるので…。

ムカついてもいた。

なるだけ早く仕事を終わらせたいのだ。


そこで、数敵不利の打開策として編み出したのがこの戦法。


待機したガンダーは力を溜め。

残り2体は足止めし戦況に応じて倒せそうな相手側へ向かい、必殺技を浴びせ相手を複数体同時に倒す。

こうして数敵不利を解消し、残った敵を相手する。

単純だが勝ちを狙える有効な作戦だ。

そしてその必殺技クールブロウの付随効果!


状態異常 凍結!!


凍結状態へと陥った怪獣は動けはするものの徐々に徐々に体力を奪われてゆく。

恐竜戦車が戦闘不能になるのも、もはや時間の問題であった。


ココで時間軸は元へと戻る。


僕は叫んだ。


「こりゃあいけない。

インペライザー!デスレムさん!!

恐竜戦車の援護へ向かって!!」


Σ「…!」


インペライザーは言われた瞬間に、全力ダッシュ!!

恐竜戦車の元へと駆ける。


「まったく…せっかちな子だ…」


デスレムさんは思う事もあったのだろうが、言われた通り援護へ向かう。


恐竜戦車達にクールブロウを浴びせたガンダーへ全速力で立ち向かうインペライザー!!

攻撃圏内に後少しというその瞬間!!

両怪獣の間へガンダーを庇うように、空から別のガンダーがストンと降り立った!

ベムラーにドロップキックを入れていたあの個体だ!!


そして両手を挙げて、インペライザーとデスレムさんへ向け…。


Σ必殺技!!クールブロウ!!

Σビュゴゴゴゴーーーーー!!!!


どうやら、ドロップキックした後に力を溜めていたようだ。

イヤ!!

この攻撃パターンこそがこのガンダー達の勝ち筋なのだろう。

僕はまんまと罠へと嵌まりにいったようだ!!

僕のマヌケ!!


Σ「…!?」


意表を突かれクールブロウを喰らい、たちまち凍てつくインペライザー。

だが、デスレムさんは…。


「来ると分かっている必殺技に…。

まんまと当たる程マヌケではないのでね」


あっさり凍てつく猛吹雪の範囲から避けてかわす。

デスレムさんカッケーーーーーー。


そして、もう1体…。

思いも掛けずチャンスが巡って来た怪獣がいる。

ガンダー達は必殺技を当てる為に、無理やり縦列に2体で並んでしまっているのだ。

その瞬間を見逃さなかった怪獣がいた。


そう!!恐竜戦車だ。


『この…チャンス…!!逃しゃ……!!』


凍てついているギアを無理くりに挙げ、キャタピラを最大加速!!

爆音と共に一気にガンダー達への距離を詰める。


Σ「そうかっ!!」


その意図に気づいた僕!!

僕のかけ声が恐竜戦車の繰り出す必殺技と呼応する!!


「恐竜戦車!三連装砲一切射!!」


Σドドン!!

Σドドン!! Σドドドン!!!!


恐竜戦車の戦車の砲身部から次々に打ち出される砲弾!!

射線一直線に並んでしまっていた2体のガンダー達へバンバンと当たり、玉煙を上げる。

恐竜戦車の渾身の弾丸を喰らいガンダー達は2体共に戦闘不能。


「「クルルルオーーー…」」


そのいななきと同時に2体は倒れ付した。

僕達の勝利だ!!


恐竜戦車は凍てついた体のままで僕へサムズアップをして見せる。

後ろ姿には凍結からくる疲労から悲壮感が漂い、吐く息は白くまるでタバコの煙りのように立ち昇る。


けれど…。

言っちゃ悪いけどサイズが人間大だから、ちょっと凄い特撮にしか見えなかった。

ゴメン恐竜戦車…。


トレーニングに付き合ってくれたガンダーさん達や施設スタッフにお礼を言い。

僕達は自宅へと帰った。


既に時間は五時近く。

夕方となり、昼よりかは幾分過ごし易くなっている。

応接室の窓は全開で、そこへ涼風が入り風鈴がチリンと控えめに鳴った。

僕達はソファに腰掛け。

トン爺が温かい紅茶を淹れ僕とデスレムさんの前へと差し出す。

寒い場所へ居たからこれはありがたい。

砂糖とミルクを入れ一息つく。


デスレムさんに僕の結論を伝えようとしたその時だ。

デスレムさんは僕の言葉を遮り話しだす。


「ちょっとよろしいですかエイジさん。

今、私を雇うととある特典がついてくるのです」


「とある特典?」


「何と今、わたくしをお雇いになられると…。

夏休みの宿題をお手伝い出来ます」


Σ「雇いましょう!!」


僕は即決した。

互いに握手する僕達。

こうして僕はデスレムさんを迎えいれる事になったのだ。


でっ!!


ココで、話しが終われば…。

ちょうど良かったんだろうけど…。

実はそうはいかなかった…。


2日後…。


Σ僕は驚愕した。

それは、もう1体の即決怪獣を何にしようかと考え中の時だ。

幾らウルトラストーンが残っているのか確認の為に、ウルトラストーンの残高管理が出来るスマホアプリを開いた時に発覚した。


「なっ!?なんじゃ!?こりゃあぁ!?」


そこに記載されている残高が明らかに思ったより少ない!!!!!

驚きだ。

おチンチンが一気にヒュンって縮んだ。

内臓もなんだか寒い!

胆が冷えるってこういう事なんだって、初めて分かった。

理解した。

コレホント怖い!!

((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

真夏なのにこのように震えたわ。

怪談より冷えるわマジで…。

コレじゃあ限定即決マーケットで、もう1体怪獣をお迎え出来ない…。

思い当たる事があるとすればアレしかない!!


僕は慌ててベータカプセルを取り出すと、早速デスレムさんを呼び出した。


「デスレムさーーーーん!!!!」


Σピカッ!!


ベータカプセルの強い光と共に出現するデスレムさん。


「あっ!すいません!

もう少し左肩辺りを重点的に強く揉んでまらえます?!!!Σっん?」


Σ「んんっ!!?」←僕


Σ「……………んんんっ!?」←デスレムさん


どうもデスレムさんは按摩マッサージを受けてる最中だったようで、腰にバスタオルを乗せたまま寝そべった状態でココへ召喚されてしまったのだ。

…何かゴメン…。

けど僕には、今すぐ聞かなければならない事がある。


「何ですかいきなり…。

わたくしボディケアの最中だったんですよ。

たとえ雇い主であっても、呼び出す際は前もって一声かけて頂きたい!!」


僕はスマホの画面を見せつつデスレムさんへと詰め寄る。


「コレどういう事なんですか?

デスレムさん?

明らかに他のデスレムさんの即決値段より、高いウルトラストーンが引き落とされてるじゃあないですかっ!?」


「その事ですか…。

困りましたね~。

契約書にはキッチリ書かれてますよ」


僕は改めてデスレムさんとの契約書を取り出し確認した。

デスレムさんは慌てる事なく、その事について説明しだす。


「ホラっ!

契約書にもちゃんと書かれてあります」


「えっ!?ドコですか?」


「ココです」


契約書に書かれてる文字より明らかに小さな。

5回り程も小さな文字だった。

それに言い回しがやたらと回りくどく長く分かり辛い…。

書かれている内容を簡単に要約するとこうなる


このデスレムさんは他のデスレムさんより優秀だよ。

優秀である事は雇い主にも伝えたし納得してもらったよ。

なので、その分だけ他のデスレムよりウルトラストーンが多くかかるよ。

雇い主はそれも納得してるよ。


とっ!!

いう内容がもの凄~く小さな…。

ホント~に小さな文字で記載されていた。

こんな端っこの小さく長い文書…。

誰も読まないよ~~~。

これが策謀…。

イヤ、これは…。


Σ「さ!さ!さ!詐欺だ~~~~!!」


「それは違いますぞ!!エイジ様!!」


トン爺がいきなり出てきて、僕とデスレムさんの間に割ってはいる。


「突然失礼いたします。

エイジ様、私もあの契約する場におり見ておりましたが…。

デスレム殿が説明されているのをエイジ様は…。

「あ~はいはい良いよそんな長い説明…」

とか言いながら適当に相槌を打たれ、適当に契約書を斜め読みし、適当に契約書にサインなされ、しっかりと捺印までされていました。

あれではブラーヤ家の跡継ぎとしてはイケません…」


「トン爺は気付いてたの?」


「ハイ!気付いておりました。

ですが、エイジ様。

契約とは弱者最強の盾にもなれば、詐欺師の最凶の矛にもなる扱い注意の大切なモノ。

どのような契約であれ、おざなりに扱われ無闇に反故にしてはなりません。

そして貴方が騙され不幸になる事で、あなた以外に悲しむ者も確実にココに居られるのです。

アナタが悲しく辛く泣くとき、確実に私も悲しく辛く泣くのです。

ブラーヤ家跡継ぎとして、誰をもたばからず、誰からも騙されず。

悪意ある不幸に負けぬよう、そのようなおのこになって貰う為、あえて黙って見守りました」


「イヤ、今泣きそうだから普通に止めて欲しかったよ…」


確かにトン爺の言う通りなんだ。

契約!!

約束…。

それらには言葉や文字の意味として、本当に重いモノがある。

それを僕はまだ、本当に理解していなかったんだと思う。

僕はなんて浅はかなんだ…。


アワワわわヽ(´Д`;≡;´Д`)丿わ

けれど、僕はまだ狼狽えるしかなかった。

そんな僕にデスレムさんは語りかける。


「さて少年!!

契約の怖さを理解した所で…。

ココに少年が支払われたウルトラストーンの入った私の口座があります。

まだ、手をつけておりませんので…。

今ならクーリングオフも受け付けてますが…。

どうなさいます?」


「えっ!!良いんですか?」


僕はもう、それはそれは良い笑顔で聞き返した。デスレムさんは頷く。


「ええ。

それも又、私との契約の内です。

この前サインした書類にも銘記されてますし。

でしたら、こちらの書類をお読みになりサインと捺印をお願いします」


中空の空間に異空間を出現させ、そこから書類を取り出すデスレムさん。

そうか…それでトン爺は…。

僕は差し出されたその書類を今度はシッカリと読んで、妙な事が書いていない事を確認。

いざサインしようとしたその時だ。

僕はある事が気になった。


「あの…。

クーリングオフをした場合。

デスレムさんはこれからどうされるんですか?」


「また新しい雇用主を探すまでです。

あなたが心配する必要はありませんよ」


僕はしばし考える。


「………………トン爺一つ聞く。

デスレムさんが要求していた差額分は…。

不当?それとも正当?」


「あの差額分でしたら、能力と比較し正当で間違いありません」


「……そうか…。

ならクーリングオフはいいや。

この経験を差額分で買ったと考えたらお得だ」


僕はサインせずその書類をデスレムさんへと返した。

デスレムさんは返された書類を受けとると困惑したように聞いてくる。


「あの?よろしいんですか?」


「ハイ、改めてこれからもよろしくお願いします。

デスレムさん」


僕は右手を差し出す。

デスレムさんはため息を一つつき、僕の右手を握り返した。


「何とも…やりにくい雇い主だ。

では、改めてよろしくお願いします」


こうして、僕の限定即決マーケットは終わった。


僕はこの時、気付いたのだ。

トン爺とデスレムさんがグルである事に…。


何故なら、老眼気味のトン爺にあんな小さな文字まで読めるハズはなく。

差額分のウルトラストーンを把握してるハズもない。

デスレムさんは、本当に悪意があり騙そうとするつもりなら、こうもクーリングオフの手際が良いハズがない。

まあトン爺とデスレムさんには、ウルトラストーン差額分は、キッチリ夏休みの宿題をトコトン手伝ってもらおう。


ココは怪獣と人間が共に共存している地球。

僕らはこの地球で生きている。

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