怪獣マーケット

ヘッドギアを外すと、バトルブリーダーズ協会のラウンジへと視界は戻った。

と同時に、トン爺が、僕のホンのすぐ目の前で仁王立ちしていて、心底驚いた。


「わっ!?ビックリした~!!

どうしたんだよトン爺。」


「実は先程、旦那様からお電話がございました。

六千ウルトラストーンを用意したので、エイジ様に怪獣を都合せよと、私に仰有りまして…。」


まさに僥倖とはこの事だ。

ちょうどこれから怪獣マーケットに行き、怪獣を買おうとしていたので、これは本当にありがたい。


「それはありがたい!!

早速お爺ちゃんにお礼を言って、怪獣マーケットへ行こう。」


イスから立ち上がり、さあ出かけようとした僕を、トン爺は片手を目の前にだして制した。


「その必要はございません。

エイジ様に無駄な御手間をかけさせてはいけないと思いまして…。

VRマーケットを使い、即決価格六千ウルトラストーンにて、一体購入してまいりました。」


クラっ…


僕は卒倒しかけた…。


おおぅっ…。

余計な事を…。

某ゲームの、あのお邪魔キャラのような行動を…。

六千ウルトラストーンもあったら、何体怪獣が買えた事か…。

そう言葉と態度に出かかったが、言葉を慎む。

トン爺に悪気は無いのだ。

元から無かったものと思い込もう。

六千ウルトラストーンなど…。


「っ~~~…。

な、何を買ってきたの…?」


「戦車怪獣恐竜戦車です。

お好きでしょう?」


「ナイスチョイスっ!!」


くぅ~…しっかり僕の好みは理解している…。

くそっ…。

好きだけどさ、恐竜戦車~…。

六千ウルトラストーンもあったら、もっと他に色々と買えただろうに…。

だが、嬉しい!!


「そうだ、早速ベーターカプセルで怪獣達を出現させてもよいかな?ナビィ?」


「ええ、構いませんよ。

ベーターカプセルの使い方は分かりますか?」


「教科書で習って、実際に触らせても貰ったから知ってる。

先ずはベーターカプセル低部の切り替えスイッチを確認…。

怪獣出現になってる事を確認したら…。

次に出現させたい怪獣の名前を、音声で認識させる…。

ベムラー…。

恐竜戦車…。

そして人のいない拓けた場所に向けて、ベーターカプセルの側面スイッチを押せば…。」


Σピカキラリッ!!


カメラのフラッシュのようにピカッと光ったと思ったら、ベムラーと恐竜戦車が人サイズの大きさで出現した。

ベムラーは説明したから、恐竜戦車についてちょっと説明するね。


恐竜戦車は、四つ足で這って歩く恐竜を想像して欲しい。

その恐竜の、お腹から後ろ足にかけてを改造手術で、戦車のキャタピラ部分に取っ替えられたような怪獣だ。

戦車部分には三連装の砲身もついていて、なかなかカッコよいのだが…。

正直、この怪獣を作りだした別の宇宙の異星人はかなり罪深いと思う。


僕の目の前に現れたベムラーと恐竜戦車を前に、僕は興奮を隠せなかった。

だって、僕の怪獣だよ。

誰でも無い、僕の怪獣が現れたんだ。

興奮するなって言う方が無理だね。


「ベムラー…おいで…。」


恐る恐る呼んでみる。

ベムラーは二足歩行で、のそのそと僕の所へ近づいてきた。

手の触れられる距離まで近づいて来たので触ってみる。


鱗がやはり堅い。

背中のトゲの部分はゴツゴツとした岩みたいだ。

そして、生物独特の温かさが、その堅い鱗やトゲから、じんわりと手の平に伝わってくる。


「恐竜戦車!」


恐竜戦車は両輪のキャタピラを動かし…。

キュラキュラと独特な音をたて、想像していたよりも素早く僕の所へときた。

頭を撫でてみる。

鳥類と爬虫類の中間のような、ツルッとした肌触り。

体温は変温動物なのか低く、ヒンヤリとしていて冷たい。

夏場ならこの感触と体温は気持ち良さそうだ。

僕は恐竜戦車の目を見ながら、ちょっとしたお願いをしてみた。


「背中に乗っても良いかな?」


「…………………!!」


恐竜戦車は何も答えず僕の目をじっと見ているだけで…。

それで、何となくなんだけど…。


『乗りな小僧!!』


そう目で言われたような気がした。

僕は恐竜戦車のキャタピラ部分に足をかけ、おずおずと背中に跨がってみる。


「ああっ…!?エイジ様危ないですよ!!

早くお降り下さい!」


「大丈夫だよトン爺。」


背びれが堅くそれが股間に当って、正直乗り心地はよくは無いのだが…。

なんだろうこの感覚…?


そうだ…、この感覚は…。

アンパンマンや、薬局の前によくある象の幼児向け乗り物に股がっているような…。

気恥ずかしいのに、懐かしく嬉しく楽しい、何とも言えない感情が僕の心の中を踊る。


恐竜戦車は僕を気遣うように、ゆっくりと進み始めた。

キャタピラのその振動が足裏に伝わってくる。この振動をキャタピラの音と共に楽しむ。


これは凄いっ!!


僕は恐竜に乗りながら、戦車に乗ってるんだっ!!

この怪獣を作った異星人は、もしかしたらこれをしたかったのかもしれない。

僕はそう思いながら、恐竜戦車の乗車感をひとしきり楽しんだ。



恐竜戦車から降りた僕は、ベーターカプセルを使いベムラーと恐竜戦車をラボへと戻した。

そして、ある事をトン爺とナビィに提案する。


「実は僕もウルトラストーンを、少しずつ貯めててさ。

改めて怪獣マーケットに行ってみたいんだけど…。」


「それでしたら早速VRマーケットの準備を…。」


トン爺は言うが早いが、自らのカバンからヘッドマウントディスプレイ端末の準備をし出すが…。

僕はそれを止めた。


「イヤ、出来れば直接怪獣マーケットに行ってみたいんだ。

ナビィ、マーケットの場所を知らないかい?」


「マーケットの場所ですか?

少々お待ちを、今調べますね。」


ナビィはトートバックから又もタブレットを取り出し、マーケットの場所を調べだした。

やっぱりハイテクな存在だけど、調べ方はアナログなんだ…。


「協会の最寄り駅から、7駅程先にありますね。」


「そうか、なら早速行こうよ。

今ならまだ午前までのマーケットに間に合うし。」


僕ら三人は車で怪獣マーケットに行く事にした。

あっ!?そうだった!!

怪獣マーケットについて説明してなかったね。


怪獣マーケットってのは、ブリーダー向けに色々な怪獣を、オークション形式で落札購入する所で…。

午前0時までと正午12時の1日二回に分けて、オークションの区切りにしている。

そこで怪獣を落札するには、お金ではなくウルトラストーンって鉱石が必要なんだ。


別の宇宙から届く怪獣の存在情報が、そのウルトラストーンと結合する事で怪獣DNA化するらしく。

怪獣を作り出すのにどうしても必要らしい。

なので、怪獣マーケットでの取り引きには現金ではなくウルトラストーンでってのが慣例化しているんだ。


さっきトン爺が恐竜戦車を落札してたけど、その時の即決価格ってのは…。

オークションに関係なく、その時点で直ぐに買える値段の事を即決価格って言うんだ。

でもオークションで買える値段よりかなり割高で…。

どうせなら、オークションに参加してお安く買いたいよね?


この説明が終わる頃には、その怪獣マーケットに着いていれば、場面転換には良かったんだけどね…。

未だ僕らは車の中…。

そう僕達は…。


交通渋滞に嵌まっていた…。


結局マーケットへ到着したのは、正午12時の締め切り15分前。

ドーム球場みたいな形と大きさの怪獣マーケットへと、車を駐車し急いで駆け込む。


「だから言ったんですよ。

この距離なら電車の方が早いですよって!!

渋滞情報アプリで指摘してたのに…。」


「え~い!!

そもそも、ナビは任せて、ナヴィだけに…。

とか言って道を間違えたのは、ナヴィ殿であろう。

そのせいで渋滞に…。

エイジ様、このポンコツ今すぐ返品しましょう!」


「二人共うるさ~いっ!!」


ナビィとトン爺が言い争いしてて正直醜い。

怪獣マーケットの入り口にたどり着くと、ケムール星人が受付として立っていた。


「スミマセン!

怪獣マーケットにはまだ入れますか?」


「ウェルカ~ム

ようこそ怪獣マーケットへ~。

勿論入れますよ~。」


妙~に間延びしたもの言いだな~。

早速マーケット内へと駆け込み入ると、僕の目の前を…。

僕の目の前を…。

僕の目の前をっ!!!!!

シビルジャッジメンターギャラクトロンが、歩いて横切っていった!!!!


「カッコいい~~ーーーーー!!」


目が釘付けになる。

シビルジャッジメンターギャラクトロンっていう怪獣はね。

そうだな~。

先ず日本や中国のヘビのようなドラゴンの姿を想像して欲しい。

そのドラゴンは鋼で出来たロボ怪獣で色は美しい白銀の姿なんだ。

そのロボドラゴンの顔の下に、更に白銀の二足歩行ロボットの体がくっついている。


両手の武装もギミックが凝っていて、見ているだけで楽しめる!!

必殺技のギャラクトロンスパークなんて、見た目のハデさも威力もハンパないぞ!!


ロボットドラゴン+二足歩行ロボット!!

カッコ良い!!

武装と必殺技カッコ良い!!

それはそれはめちゃくちゃカッコ良い所しか無いロボ怪獣なんだ!!


今、生で見て一目でホレたよ。


「欲しいい~~~~!!

買いた~~~~い!!

良しっ!!オークションでギャラクトロンを買おう!!」


そう僕が決心した直後だ。

ギャラクトロンを導いてていたケムール星人に…。


「ギャラクトロンのオークションは既に締め切られてますよ~。」


そう言われた。

僕は慌てて時計を見たら、11時50分で…。

まだ12時にはなってはいない?


「えっ!?

まだ12時に…は……………Σっ!?

そうだッた~~!!

限定マーケットで出品される怪獣って、希少だったり新しく出現したりした怪獣で、お客も多いから…。

普通のより10分早く締め切られるんだ!!」


うっかりしていた。

僕はまたケムール星人に質問してみた。


「ギャラクトロンは明日も出品されますか?」


「残念ですが、本日が最終日となってま~す。」


ⅢⅢⅢⅢガクッ

川orz川


僕はその場で崩れ落ちた…。

限定マーケットに出品される怪獣はコレがあるんだ…。

その希少さ故に出品数と期日は決められていて、期日を過ぎてしまうと、また出品されるまで待つしかないんだ…。

僕はなくなくギャラクトロンを見送った。



落ち込んでいる僕にナビィが話しかけてきた。


「そもそも幾らウルトラストーンを持ってるんです?

エイジさん?」


「お小遣いと…。

お年玉からコツコツと換金して貯めて…。

900個…。」


「今、タブレットで調べましたが。

今回の最低落札価格でも三倍程足りませんよ。

キッパリ諦めて下さい。」


「………………ー✴️〰️っ!?」


ナビィは結構辛辣だな…。

僕は改めて一般マーケットへと入る事にしたが…。

このやり取りでかなり時間を喰ってしまった。

締め切りまで残り五分。

もはや複数のオークションに参加は無理だ。

一体の怪獣に的を絞って参加するしか出来そうにない。

どの怪獣のオークションにしよう…?

どの怪獣が良い?

グドン?ジャミラ?ツインテール?

悩む~~~~!!

僕が廊下でおたおたと迷っていると…。


「エイジ様。

インペライザーなどはいかがですか?

価格的にも購入出来る範囲内かと…。」


とトン爺がアドバイスしてくれた。


「無双鉄人インペライザーっ!?」


無双鉄人インペライザー!!

この怪獣も二足歩行のロボット怪獣だ。

戦略はシンプル。

近づいて殴る。

かと思ったら必殺技の三連装ガトリングガンで遠方から攻撃も出来る優れ者だ。

黒鉄の武骨で重厚な体に、似合わない移動距離。

平均的な怪獣の1.5倍長く移動出来る。

その見た目と行動から、僕にはSLの蒸気機関車を想起させた。


「渋いカッコ良い!!

ヨシッ!それにしよう!!

ドコっ?

インペライザーのオークション会場は?」


「あちらですエイジ様。」


僕はトン爺に導かれながら、急ぎインペライザーのオークション会場へと入った。


「怪しい獣と書いて怪獣…。

けれど私の店は全く怪しくはありません!

清廉潔白、良心的なマーケットで~す。」


司会のケムール星人がそう叫ぶ。

変な口上だな…。

悪心的なマーケットなんて無いだろうに…。


その会場の空気は不思議と暑かった。

会場内はまるで映画館かのような作りで、観客席にはおそらくブリーダーだろう人が多く座って、成り行きを見守っている。

舞台上にはインペライザーが複数体並んでいて…。

舞台端のパネルには、何体出品されているか、入札価格帯、即決価格と表示れていた。

入札価格帯に書かれている、今の最低入札額は890ウルトラストーンだ。

ヨシッこれなら僕にも買えるぞ。


空いている座席へと座り。

取り付けられているタッチパネルに、900ウルトラストーンと入力しようとしたその時だっ!!

慌てる僕をトン爺が制した。


「エイジ様。

オークションでは焦った者から泣く事になります。

残り30秒になるまで待たれるのが賢明かと…。」


と、トン爺は語る。


「なるほど…そういうモノか…。」


残り3分…。

タッチパネルに、900ウルトラストーンと入力し後は入札ボタンを押す状態で僕は待った。


残り2分。

オークションに動きがあった。

いきなり901ウルトラストーンにまで最低落札価格が吊り上がったのだ。

会場がざわつく。


「\(^o^)/オワタっ!!」


オークションでは焦った者から泣く事になるとトン爺は言ったが、オークションに参加する事なく泣く事になった。


「せめて入札ボタンだけでも押してオークションを楽しめば良かった~!!」


ⅢⅢⅢⅢガっクし…

川orz川


又してもその場で崩れ落ちる僕。

そんな僕にナビィがある事を教えてくれる。


「エイジさん。

オークションでは今手元にウルトラストーンが無くても入札は出来るんですよ。

落札後3日以内に支払いすれば良いんです。

3日以内に手に入るウルトラストーンの見込みは無いんですか?」


「そう…なの…?

トン爺……。

僕の今月の残りのお小遣いとお年玉、来月のお小遣いを合わせて、幾らウルトラストーンに換えられる?」


「現在のレートで換金しますと、20ウルトラストーンという所ですね。」


「本当にっ!?やった!!

今すぐ換金お願いっ!!」


「承知。」


トン爺は僕からサイフを預かると、直ぐにウルトラストーンを換金しに会場外へと出ていった。


僕は慌てながらタッチパネルに920ウルトラストーンと入力し終え、入札ボタンを押す事に成功。

残り45秒だった。

ギリギリだ。


そして入札終了のブザーが鳴る!!

やったねっ!!

僕とナビィは共に喜ぶ。


はずだった…。


その日の…。

インペライザーの最低落札額は…。

921ウルトラストーン…。


残り5秒前…。

また値段を吊り上げられ…。

僕は落札出来なかった…。


来月の小遣い無しの無一文に僕はなり…。

手元には920ウルトラストーンだけが虚しく残った………。


午後からのオークションに参加する気にもなれず…。

僕達はそのまま、ホテルへと帰った。

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