ドレスをエルフ達に出した三日後の雪がちらつく朝、私はメリアと机を挟んで向き合って椅子に座っていた。


「さて、おじょーさま! 今日はわたしとおべんきょーのお時間です!」

「つ、ついに……」



 ついにきてしまった。勉強の時間が。

 貴族とのお茶会に向けて、話を振られても困らないようにするためのお勉強会をしようとメリアが言ったのが三日前。そんなもの必要ないと言ったのだが「おじょーさま、知らず知らずのうちに貴族様にけんかうりそうです! こわいのです!」と言い返された。正直、唸ることしか出来なかった。

 言い訳ではないけれど、私は別に学ぶことが嫌いなわけではない。寧ろ好きな方だ。知らなかったことを知れるのは純粋に嬉しいし、楽しい。しかも、記憶力もかなり良い方だから本当に学ぶことだけに関しては特に問題はない。昔のことに関しては私と同じ歳の女性を比べたら私の方が詳しく知っているはず。だから、学ぶことは本当になにも問題がない。学ぶことは。


 ドサッと机の上に分厚い本が五冊ほど置かれる。貴族の常識、リデルアル王国について、リドゥーレス語について、王族について、歴史……本のタイトルをざっと見たところ今、私に足りない知識が詰まった本のようだ。


「さて、ここからはリドゥーレス語を使いながらお勉強をしましょう。ついでに私はお嬢様を貴族の令嬢を相手にするように接するので、しっかりと対応してください」

「あ、え、はい、分かりました。よろしくお願いします、メリア先生」 

 リドゥーレス語で急に話しかけられ、一瞬驚いたが私もなんとかリドゥーレス語で返す。最近はあまり使ってなかったから少したどたどしい。リデルアル王国は主にリドゥーレス語を使う国だった。


「さて、リデルアル王国ですが、建国したのはおよそ五百年前。元は傀儡国だったミュンテスという国が独立し、今は民主主義の考えを中心とした国になっています。人口は少ないですけれど、一つ一つの領地が大きいので大きさだけなら他国に負けてません。産業に関しては海が近いので漁業を主として、畜産もかなり行ってるそうです」

「他国との関係性は?」

「ディリューデ帝国、テレン皇国とは可もなく不可もなく。サランチア共和国とは友好的な関係です。同盟も五十年前に結んでいますし、貿易も盛んに行っています。仲が悪いのはハーンテリット王国です。しかし、軍事に関しての技術はこちらの方が上なので開戦しようとは思っていないそうですよ」

「……平和なのですね」

「えぇ。それぞれの国のトップの性格が臆病だったり平和主義だったり、戦争を起こそうという者は一人もいないそうです。革命が起こらない限りこのままの状態でしょう」


流石と言うべきか。確実に本に載っていない情報が次から次へとメリアの口から出てくる。風の妖精から情報を運んでもらっているのかしら。私でも流石にそれぞれの国が考えていることなんて分からないわ。


「現在はハンバック国王がリデルアル王国を引っ張っていらっしゃいます。スティル第一王子、ティスト第二王子、ハンメル姫がハンバック陛下のお子様になります。王妃のメーリン様とは恋愛結婚です」

「れ、れんあいけっこん……それはまた珍しいですね。現在の貴族は政略結婚が当たり前だと仰る方が増えてきていますよね? 反発などなかったのですか?」

「もちろんありました。しかし、国王が王妃様のことはそれはもう深く愛していらっしゃいます。お二人を見た周りの貴族は皆、微笑ましく見守ってらっしゃったそうですよ」


 あぁ、王様が王妃様を周りの口うるさい貴族が黙るくらい愛しているのね。

 そう考えると、スティル王子が運命のためだけに領地を巡っていたのも納得するわ。王妃様と陛下に憧れがあるのかもしれない。運命のような二人だもの。




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