準備期間
7
『やぁレリアル嬢。これを読んでいるということは無事に手紙と招待状は届いているようだ。君に堅苦しい貴族の言い回しは通じないだろうから率直にいうと、君は私の婚約者候補になった。もちろん、父にも承認してもらっているから拒否することはできない。あぁ、破り捨ててなかったことにしようとしても駄目だ。すぐに城までの世話をしてくれる侍女をそちらに行かせる。着替えと茶会用のドレス、その他必要なものを持って二ヶ月後に城へちゃんと来るんだ。いいな? では、また二ヶ月後。会えるのを楽しみにしている』
「スティル・フォンド・リデルアル……」
「あわー! これ、これは王都、いや! 城への誘いですね!? 流石ですおじょーさま! おじょーさまの美しさは、じき国王まで虜になさるのですね!」
メリアはただ純粋に褒めて喜んでくれているのは分かる。分かるのに、どうしてか絶望の谷底へと叩きつけられたような気持ちになる。きっと、現実を突きつけてきたからだろう。
二ヶ月前、王子と別れたとき何か含みのある別れ方だなと思っていたけれどまさかこうなるとは思わなかった。今考えると最後の笑顔は可愛いものではなく、罠をかけようとしている悪魔のそれだ。なんで気づかない。
「おかしい、あのときの話し合いでは遠回しに関わるなと言ったはず。いえ、言った。なら何故こんな目に私はあっているの?」
手紙をぐしゃりと握りしめる。気づいたときには遅かった、完全に握りしめたのは無意識。あの時何がいけなかったのか。
「ドレス新しいの作らないとですね! まかせてください! りゅーこーを取り入れたおじょーさまに似合うドレスを用意します! サイズは知ってるので測らなくて良いですよ!」
初めての城に受かれているメリアを見て私はため息をつく。どうしてサイズを知ってるのなんて怖くて聞けない。最後に測ったの、三年前なのに。招待状に浮かれているのはメリアだけで、基本的に屋敷の人間は反対している。だって、人に関わることをよしとしている種族がこの屋敷には少ないもの。
「リスティアナ」
「はい、お嬢様」
名前を呼ぶと、誰も居なかった空間から長袖の白いワンピースを着た銀髪の少女が立っていた。少女と言っても十代後半くらいの見た目でそれなりに出るところはしっかり出ていて、綺麗な銀髪は肩のところで切り揃えられている。
これが二ヶ月前私が大変な目にあっている間に里帰りしていた精霊、リスティアナだ。
「今回の城への招待、貴女も連れていくからね。十人までならお世話係連れてきても良いらしいから、私は貴女とメリアを連れてくから」
「……分かりました。私とメリアが抜けた部分はエルフの子にやってもらうようにします。滞在期間は?」
「分からない、書いてないもの。一ヶ月は確実にかかる」
「それはまた……」
言いたいことは分かる。なんでそんなに急なのだと、何で今更人間と必要以上に関わろうとするのと言いたいのだろう。私だって殿下に問い詰めたい。それに、妖精と同じように精霊も進んで人と関わることはしない。なんなら欲深い人間のことを精霊は嫌っている、だから尚更不満があるのだろう。それを完璧に隠しているのは流石リスティアナと言ったところか。
「決まったことは仕方ない。王子からの正式な招待、ここで逃げたらきっと力ずくで連れていこうとする。諦めて準備を始めよう!」
泣きながら逃げ出したいという気持ちに蓋をして私はそう大きな声で言った。
そうして城へ行くための準備を私は始めたのだった。
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