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「お前、それを教会で言ったらその場で殺されるぞ?」
「言いません。せっかく五年間も通いつめたのに、また振り出しに戻るじゃないですか」
困ったような、悲しそうな顔をした殿下は弱々しい声で「そうか」と言った。そういえば、王族は人一倍神を信仰していたような気がする。神様が救って下さるから国が発展していく、だから神への感謝を日々忘れないように……という感じかしらね。
「もしかして、私酷いこと言いましたか? 反逆罪か神を冒涜した罪で殺しますか?」
「殺すなんて物騒な言葉を使うんじゃない。いい、お前は真実を語るために言ったのだろう?」
「別に隠すものでもないですし、私はそこまで神に執着していませんもの」
殿下も殺すって言ってたじゃない、という言葉は言わないでおこう。
「今、綺麗なものになって語られているのが嘘の"運命"。元は、今語られている運命の話より残酷でドロドロした汚ない話になっています」
「そ、そうなのか? 自分のように、それ以上に相手を深く愛しなさい。その相手は等しく平等に現れるのです。これが教会の神のお告げ、これが真実ではないのか?」
「褒められ認められるような行いをしなければ、その相手を見つけることができない。そうやって小さい頃から私たちは教えられてきています。私は違いますけど」
騎士の一人がそう言って教会が広めている運命の話を語る。善き行いをしたら運命の相手と結ばれる……というこの世界で生きているのなら皆知っている話。
話すのを殿下が止めないあたり、かなり信頼しているのだろう。仲が良いのかもしれない。普通は、喋った瞬間に殺されるというのが当たり前なのだけれども。
私は騎士の話に首を振り否定する。
「神は、皆さんが思っているより優しくありません。人間に等しく平等に。そんなことは絶対にしません、我が儘ですし」
「じゃあこの話は根本から嘘なのか!?」
「いえ、何から何まで嘘ということではないです。運命は"人間"に等しく平等にとなっていますが、根本の話は"神の子"を対象としたものなのです」
私の言葉に、三人は顔を見合わせる。あまり分かってないのか、首を捻った。
「神にはきちんと運命の相手がいます。人間を創ったのが神ですもの、神にも運命はあります。その相手と結ばれると子供が産まる……その子供が神の子」
「神同士の子か?」
「神同士でも良いのですが、片方だけが神でも十分成り立つので他の種族でも良いんです。運命は、誰か分からないからこそ運命ですもの。種族なんて関係ありません。人間でも悪魔でも魔物でも。そして、神は自分の子をそれはそれは大切にします。その子の初めてのプレゼントが今、殿下達が仰っていた運命のことです」
簡単な話、親バカな神が子供の未来を心配して許嫁を作るみたいなもの。それを人間全員にやるるわけない。だって人間は神の子ではないのだから、人間は神が気紛れに創ったようなもの。神の子だけが特別。私はそうやって教えられている。
「でも、神が創られた初めの人間は運命同士だったのだろう?」
「二人しかいない世界で結ばれるのは自然な流れだと思いません? だって他に結ばれる相手がいないですもの。昔は種族関係なく、という考えがなかったんです」
「昔は人間の運命が居たじゃないか」
「昔は神の子も多くいましたから。人間が運命の相手だった場合、人間視点で見たら確かに運命がいたように思うことが出来ますよ」
神も人間もそんなに変わらない。大人になった神の子は運命を連れてそのまま独り立ちしてしまうのだ。新しい世界を創り、子供と一緒にその世界を見守る。今はそれが当たり前となっているから、運命が減ってきたのも仕方がない。神の子が減ってきているから運命がいない。
「……私には運命がいないのか?」
「殿下のお父様かお母様は神様なんですか?」
その言葉がトドメになったのか、殿下はがっくりと項垂れる。そりゃそうだ、あんなに必死になって探した運命はそもそもいない。親を振り切って必死になって見つけ出そうとしたのに結局何も見つからなかった。いつからこの話を考えていたのか分からないけれど、かなりショックが大きいはずだ。騎士も殿下ほどではないけれど、それなりにショックを受けている。まぁ、運命がいるって昔から教えてこられているからね。その教えが根本から否定されたようなものだし。
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