第21・22話 雷鳴轟く

 デカ過ぎる――

 ナーガはハッと息を飲んだ。

 スルトを討伐するため協会本部へとワープした魔道士達だったが禍々しいオーラを放つその巨大な建造物は人工物とは思えない程の奇妙な姿形をしておりまさに異質だった。


「気持ち悪っ!何ですかこの建物!?絶対魔

 王とかいますって!ドラ○エのラスボスの所じゃ無いですか!?」


「アンタうるさいわよ…まぁでも、気持ち悪いのは同感するわ…」


 ザワザワザワ


 建物の入り口にワープされていた魔道士達は困惑を隠せなかった。


「おまんら!!」

 辺りにリンリンの声が響く。

 周辺は静まり返った


「怖ければ帰れ!嫌ならば逃げ出せ!何が正解で何が不正解かわしには分からんが、自分には嘘をつくな!

 迷うな!決断しろ!その優柔不断さは死に直結するだけじゃ!

 帰りたい奴は手をあげろ!」


 ……


 シロウがゆっくりと手を上げた。

「あ、あの…俺帰りたいんですけ」


 リンリンは拳を突き立てた!

「おらんようじゃな!行くぞ!我らは人類の希望!!太陽の為に!!」


 太陽の為に!!

 その場に居た全魔道士が拳を突き立てそう叫んだ。


「もう無駄よ、さぁ今から入るわよ」


 カレンがシロウの肩をトンッと叩いた。

「あぁ!もう!分かったよ!やればいいんでしょやれば!!」


 ――同時刻 ベルフェベット客室――

「俺がクローン…」

 レンが少し困惑していた様子だった。

 とゆうよりどこか気付いていた気がする。

 ビックリしたとゆうよりもやっぱりかと言った方が大きかった。


「そうだ、お前はリサの偽物。だから協会から追い出されたんだよ。」


「でも、昔の記憶…もある…」


「それはリサの記憶だ。11歳まではリサの記憶、それ以降はお前が築き上げた記憶。」


「でもじゃあ何で俺はリサじゃ、なくてレン何だ…?」


「長く話すのはめんどくさいから簡単にはするとだな、

 リサは6歳から魔法を使えた天才魔道士だったんだ。

 でもアイツが凄かったのはその事じゃない。」


「何が凄かったんだ…?」


「未来予知が出来たんだよ」


「それって…」


「そう、つまり自分が死ぬと言う事を察していたんだよ。明確じゃないにしろな。

 だから、自分という存在を2つに分けた。

 どちらかが死んでもどちらかが生きれるように。」


「それが俺…」


「リサは新しく生まれたもう1つの自分の事をレンって名付けたんだ。

 だからお前は自分の事をレンと名乗りレンとして記憶があり生きているんだよ。」


「それで…」


「んでお前は自分の父に値するアーサーを10年前の事件で失い、今に至るんだよ」


「まだ、色々と引っ掛かる所はあるけどとりあえず納得したよ…」


「随分と冷静だな?どうした?」


「ゴメン、ちょっと1人にしてくれ無いか…」


「分かったよ、とりあえず話すことは話したし。

 また何かあったら呼んでくれよ。

 あんまり無理すんなよ…」


「あぁ…ありがとう…」


 ルークはそう言うと立ち上がり客室から出ていった。

 自分が偽物だと何処かで分かっていた。

 リサが俺をお兄ちゃんと読んでいたのは、リサが俺を生み出した時に俺の事をお兄ちゃんと呼んでいたからだろう…


 本体のリサが死んだ今、俺はいつ消えるか分からない…

 だからずっと事実から逃げてきた…

 俺は本当にこのままでいいのだろうか…

 逃げて逃げて逃げて…


 シロウ…カレン…みんな…

 もう1度…俺を…助けてくれ無いか…?

 仲間の顔が思い浮かぶ…


「あなたはこんな所で負けるはず無いでしょ…私の自慢の弟何だから…」


 お姉ちゃんッッ…

 窓の方に顔をやると

 外から風が入り込んでいた…


 ……

 …


 ――協会 本部――

 魔道士達はひたすら廊下を進んでいた。


 おかしい…

 敵が1体も出て来ない…

 それに静か過ぎる…

 そう思いながらもしばらく進んでいると

 大きな扉が見えてきた。


「おいシロウ、あそこの中見てきてはくれんか?」


 ……


「おいシロウ…確かに無視したのはわしが悪かった、だからわしの事は無視をせんでくれんか?」


「リンリンさん…」


「なんじゃ…」


「シロウとカレンと半数の魔道士が居ない」


「ッッ!!」

 大きな扉を前にしてリンリンが後ろを振り向くとそこには半分にまで減った魔道士とナーガしか居なかった。


 チッ!やられた!

 もう少し早くに気付いていれば…

 いつからじゃ…!


 トンッ

 ナーガが肩を叩く

「とりあえず俺達は進みましょう、ここで立ち往生してても仕方がないです…」


「そうじゃな…すまんかった…」


「あぁ…」


「所でナーガ…」


「何ですか…」


「おまんはいつから」

 リンリンはもの凄いスピードでナーガの背後に回り首に腕を回し血走った目で頭に銃口を突き付けた!

「わしに礼儀正しくなったんじゃ」


 ……


「カレンちゃぁぁん!!ここどこー!?皆さん居ないんですけど!?」


「知らないわよ!!皆で突入とか言って扉ぶち壊して進んでて気が付いたらはぐれちゃうなんて!!」


「何で俺にキレるのさぁ!?!?」


「別にキレてないわよ!!」


 カレンとシロウは進んで行くうちに巨大な扉を見つけた。

「カレンちゃん…」


「えぇ…この扉…大当たりね…」


「俺達2人で大丈夫…?」


「大丈夫じゃないでしょうね…」


「ここは逃げるのもアリなんじゃない?俺、扉越しから分かるけど多分死ぬよ」


「でも…」

 カレンは唾を飲んだ。


「でも…逃げる何て…私の生き方に泥を塗る事になるもの…!」


「分かったよ…やれるだけやってやるよ…自信無いけど俺に任せて…!」


 ギィィィィ

 大きな扉を力いっぱいに押し開けた!

 中はとても暗く暗闇だった。

 シロウとカレンが扉から数歩歩くと扉が急にバタンッ!と閉まった!


「ようこそ。ワシの城へ。」

 そう老人の声が聞こえると辺りが薄暗く照らされた。

「ワシはスルト。万物の王にしてこの世界の覇者だ。」

 口調は老人だが姿はもはや悪魔だった。

 椅子に座り、全身が影のように真っ黒に染まっており黒い顔には目や耳、鼻は無く口が微かに開いているようだった。


「カレンちゃん…セリフだけ厨二病だ…」


「そんな事言ってられる余裕…よくあるわね…」


「どうじゃ?貴様らも悪魔の力を手に入れたくは無い…」


 瞬間的にシロウが動き出した!

 とても目で追える程のスピードでは無かった!


 光速で振り下ろされたシロウの剣はスルトの指二本で止められた!

「話は最後まで聞くもんじゃよ…?」


「シロウッ!!」


 シロウは力いっぱい剣を握って振り下ろそうとしている!

「お前は…キャンディさんと一緒に…死んだんじゃ無かったのか…!」


「ほう…貴様はあの小娘の知り合いか?」

 スルトは急に声のトーンが高くなった!

「残念だったなッ!無様だったぞ?自爆してワシに致命傷を追わせたのだけは褒めてやる!だがワシは悪魔!万物の王!人間ごときに殺せる訳無いんだよ!」

 そう言うとスルトは剣を掴んでいた指二本でそのままシロウを吹き飛ばした!

 バンッ!!


 壁に叩きつけられガレキが落ち煙が広がった。

「シロウ!!大丈夫!?何で急に突っ込んだの!?」


「ごめん…カレンちゃん…アイツの名前聞いて…キャンディさんの事思い出してそれで…」


「アンタ死ぬかも知れないのよ!?分かってるの!?」


 額からは血が垂れ流れていた。

「カレンちゃん…ちょっと待っててね…

 直ぐに終わらせるから…」


「何で…そんなに焦ってるの…?」


 シロウは立ち上がり刀をさやに戻し構えた。

「レンさんの…苦しむ姿はもう見たく無いから…ッ」


【超神速】


 さっきよりも速く目にも止まらぬスピードで再びスルトへと向かった。

 それは一粒の雨が落ちるよりも速く、鋭かった。


「この技…どこかで…」

 スルトがそう、ふと思った時にはシロウはスルトの目の前に来ていた!

 刀はまださやに入ったままだった。


【新月】


 スルトとシロウの辺りが何も見えない常闇に包まれた


【三日月】


 その一閃は何も見えない暗闇の中で唯一見えた刀の反射模様

 刀が描いたそれはまるで三日月だった。


 そしてその暗闇は何やら刀のさやに吸い込まれていくようにして暗闇が解けた


 その時にはシロウが刀を振り下ろしており

 スルトの首は宙を舞っていた!


 しかしスルトの首上は体からまた再生して来ていた!

 完全再生しようとした瞬間


【新月】


 再び暗闇に包まれ、三日月模様が描かれ暗闇が晴れた時にはシロウが別角度で刀を振り下ろしていた。


 それが物凄いスピードで何十回何百回と行われていた。


「何がおきてるのよ…一体…」

 その時点でカレンは座り込み1歩も動けなくなってしまっていた。

 私が何も出来ない何て…

 こんな屈辱…

 私だって…!


 何かがカレンの顔の真横に凄まじいスピードで飛んできた。


 バンッ!


 そっとカレンは飛んできた何かに顔をやると、それは血だらけになっていたシロウだった。

 辺りには血の臭いとシロウから流れ出る赤い液で充満していた。


 カレンは腰が全く上がらなかった

 全身の震えが止まらなかった。

「シ、シロウ…?」


 返事が帰ってこない。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い


 はぁ…はぁ…はぁ…

 はぁはぁ

 息が上がってきた。


「そこの小娘…?どうした?お仲間がピンチだぞ?助けてやらんのか?

 それにもう少しすれば、そこの扉から貴様の仲間の死体の山が届けられるはずだ

 どんな表情をするか楽しみじゃのう…ククク…」


「アンタ何かに…」


「なんじゃ…?聞こえんぞ…?」


「アンタ何かに!絶対に負けないんだから!!」

 カレンは涙ながらもそう叫んだ。


「見苦しいぞ…小娘…クククククク…」


 ギィィィィ

 扉の開く音が聞こえ光が射し込んだ。


「見ろ!これがお前達の仲間死体だ」


 カレンはゆっくりと扉の方に振り向いた。


 スタッ


 ――ベルフェベット 玉座――


「ルーク様ぁぁぁぁ!!」


「何どうした?」


「それがッッ!」


「チッ!アイツ!無茶しやがって!」


 ――協会 本部――

「光で顔が良く見えん!貴様は誰だッ!死体はどうした!」


「うう…私達を助けて…!」

 カレンは安堵の表情を浮かべ歯を噛みしめながら泣き出した。


 開いた扉が完全に閉まった!


「貴様ッ!!」

 スルトが叫んだその先には

 1人の男が立っていた。


「俺は元S級魔道士の魔法探偵レン マケドニクス。この依頼、俺が解決してやろう!!」
























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