第17話 悲しみ

 俺は…

 俺は……

 何も出来なかった、、、

 妹も…

 姉も…

 母も…

 父も…


「…レンさん!」


 みんな…みんな俺の責任だ…俺さえ居なければ…お姉ちゃんは…きっと…きっと…


「レンさんってば!」


 目が虚ろになり狭い部屋の隅っこで布団にくるまって座っている

 ――俺さえ居なければ

 こんなレンさんは見たくなかった…


 俺たちの戦闘終了後、空は青い色に戻り、

 スルトはキャンディさんと共に消えた。

 そしてルークさんの国へと帰還した。

 魔法大戦の方はルシファー側がスルトとキャンディがぶつかったタイミングで撤退していた。

 どこか不思議だった。まるで元からキャンディとスルトが死ぬと分かっていて撤退したかのような、

 それが狙いだったのかは分からない。

 ルーク側も逃げる敵を追うような事も無く大勢の負傷者を抱えながらも撃退に成功。

 ミネルバやルークはそれぞれの国へと帰った

 大戦後の後始末もあるのだろう。

 ここに魔法大戦は幕を閉じた。


 ――ベルフェベット国 玉座――


「それで…?レンの様子はどーよ?」


 ルークが帰還したナーガにおもむろに尋ねた

「ダメです…かなり精神的なショックが大きいかと…

 今はシロウ君とカレンさんが側に付いていますが…」


 無理もない、唯一生き残った家族を目の前で失ってしまったからだ。

 当然、本人は自分を責める。

 力不足だと。

 自分の責任だと。

 事実を飲み込んで前を向けとそう直接言ってやりたい

 でも今は…

 心の整理がついてないだろう…


「…ルーク様、それとお客人が…今は別室で待たせております…。」


「客?」



 ――ガチャ

「久しぶりじゃなルーク」


「おぉ!リンリン!」


 この短髪茶髪のお姉さんはリンリン

 大盗賊カンダタの娘

 その才を有名魔道士に買われ今では裏社会随一の情報屋

 金さえ払えばどんな情報でも持ってくる事で

 有名。

「貴様の欲しい情報を持ってきとる」


「ルシファーのね…で…いくら?」


「300万じゃ。これ以上は値下げは出来ん」


「高ッ」


「仕方ないじゃろ。今回はワシもかなりのリスクを背負ったからのう…」


「分かったよ…300万だな…後で持ってくいくわ…。」


「まいど。それじゃあワシはこれで失礼する…後程、城門裏で話す。」

 リンリンは立ち上がりドアノブに手をかけた。


「あぁ!ちょっと待ってくれ!」


「なんじゃ。まだ用か?」


「あぁ、少し、頼みがある…」


 ………


「レンさん!」


「やめなさい…今は何も言わない方がいいわよ…」


「で、でも…」


「目の前で姉を失ったのよ…ショックも受けるでしょ…」


 そっか…

 レンさん…

 そうだよな今はレンさんが落ち着くまで側に居ることが最善だよな…

 カレンちゃんも心配してるもんな…


「レンさん…俺もカレンちゃんも待ってますよ。レンさんなら…きっと…乗り越えてくれるから…」


 ――ガチャ

 扉が開いた。

 扉の前には短髪の女の人が立っていた。

「ルークさん…?」


「どうみても違うでしょ」


 はぁ…

 女はため息をつき

「レン、久しぶりじゃな。ワシじゃ。リンリンじゃ」


「リンリン…?クスクスクスへ、変な名前クスクスクス」

 シロウは口を抑えて声を圧し殺している


「失礼でしょリンリンさんに…」


 リンリンは続けた

「何じゃ。その腑抜けた面は。所詮はこの程度の男か!ワシの知ってる貴様はもっとマシなんじゃがな。思い違いか?空っぽじゃな。今の貴様の中には何にも入っとらん。元S級魔道士だと?笑わせるな。目の前の家族すら守れない男に何が守れる?何が出来…」


 ――ッッ!

 シロウは瞬間的にリンリンの背後へと回り

 喉元にその刀をかけた。

 風が辺りを舞った。

「言葉に気をつけろよ」


「ち、ちょっと!待ちなさいよシロウッ」


「アンタがレンさんとどんな関係か知らないけど。それ以上俺の恩人を傷付けると…切るぞ。」


「何じゃ。ワシを殺すか。やれるもんならやってみろよ。貴様がワシより強いとでも?」


 互いに睨みあう。

 ピリピリとした雰囲気がほとばしる。


 ――はーい!ストップ!


「ルークさん…でも…この変な名前の人が…!」


「何じゃ?ワシの事か?」


「お前しかいないだろ。ブンブン。」


「貴様喧嘩を売っとるのか?」


 はぁ…やっぱりこうなるか…

「2人ともお休みね…」

 そう言うとルークは2人のおでこに人差し指をつけた。

 2人はみるみると目が落ちていき眠りに落ちた。


「ごめんね、カレンちゃん…こんな所見せちゃって」


「いいわよ別に…それよりこの人は誰なの?」


「この人は…」


 ………


「なるほどね…このリンリンさんは情報屋でレンの先輩って事ね。」


「まぁ簡単に言うとそゆこと。はぁ…まさかカレンちゃんよりシロウ君が食いついて来るなんて…」


「何よ…私がこんな訳の分からない人に食いつくとでも思ってたの?私のイメージどうなってるのよ?」



 ――ルーク様ッッ!

 1人の魔道士が慌てたようにルークの元へ駆けつけた!


「何?」


「そ、空をご覧くださいッ!」


 ルークとカレンは部屋から急いで出て城の屋上へと登った


「そんな…嘘だろ、、、」

 空を見たルークは絶句していた。

 途端にカレンに荒げた声で尋ねた。

「ス、スルトはキャンディと一緒に死んだんだよなッ!?」


「え、ええ。塔の後は大爆発の跡で何も残ってないって聞いてるわよ…。」


「じゃああれは何だと思う…?」


「あれは…」


 それは…

 空中に浮かぶ巨大な建造物。

 キャンディの自爆魔法で消し飛んだはずの塔がさらに上へと延び雲を突き抜けるようだった。

 辺りの空は再び紫に染まり、突風が吹き荒れている。


「…スルトは死んでない…」


「そ、そんな…でも目の前でキャンディさんが…!あの魔法で生き残れる訳ないじゃない!」


「そうだよ、あの魔法で生き残れる訳ない」


「じ、じゃあどうして…!」



「いや、違う…簡単だ」

「スルトなんて居なかった」


「――どうゆうことなの!?」





 キャンディの死は



 ――無駄だった








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