第16話 ありがとう

 ドン!ドン!

 拳が振り下ろされてくるのを間一髪で交わし続けるシロウ


「ホラ!ホラ!ホラ!どうした少年!そんなものか!」


 やっば…流石に相性悪すぎるだろ…

 このままじゃレンさんたちに顔向け出来ない…でも…


 でも…


「やるしかない!!」

 シロウはそう叫ぶと剣を再び強く握りしめた


「覚悟が決まったらようだな!さぁ来い!少年よ!」

 大男は手を広げて構えている!


 俺は出来る!何故なら大剣豪の一番弟子だから…!

「うぉぉぉぉお!!!」

 シロウは急に逆方向に走り出した!


 大男は首をかしげて不思議そうにゆっくりとシロウを追いかけていった

「所詮はこの程度か…ガッカリだな…」


 逆方向に走っていく内にとうとうシロウは端の壁の方に追い詰められていた。


 壁に追いやられたシロウを前にその拳を大きく振り上げた!

「残念だよ少年…もっと楽しくしてくれると思ったんだがな…」


 シロウの顔はうつむいていた

「じゃあな、少年…!」


 男が拳を振り下ろそうとした瞬間だった!

 シロウが顔を上げ自信満々に言い放った!

「残念なのはアンタの方だよ」


「何?」


「カレンちゃぁぁぁぁん!!今がチャンスでぇぇぇぇす!!」


「しまッッ!」

 そう男はシロウを追い詰めている内に見失っていたのだ…もう一人いたという事を…!


「紅蓮の火よ…光纏いて汝に示せ

 一切の慈悲を与えんとしその者の

 魂を地に返さんとする…」

 男の頭上には今までで見たことの無いような何重にも重なった巨大な魔方陣が現れた!


「完全詠唱だとッ!?」


「詠唱何てしてるとこ見たことないけど

 いけぇぇぇぇえ!カレンちゃぁぁん!!」


「炎熱地獄」


 魔方陣からは巨大な炎の竜巻が現れ男の体を焼き尽くす!!!

「そんな…バカな…ッッ!こ、」


「こ…ッ!」


「クソがァァァァ!!」

 ドゴーン!!!


 巨大な音と共に地面に大きな穴が空き辺りには煙が蔓延した!!


 ゴホッ!ゴホッ!

「どうだ見たか!うちのカレンちゃんの魔法の威力を!ハッハッハッハッハッハヴぉぇゴホッゴホッ」


 煙が晴れてきた、、、

「アンタが誇ってどーすんのよ…?」

 カレンは疲れたようにため息をついた


「カレンちゃん…今回は俺のお陰だよね!?ねぇ!?ねぇ!?」

 シロウが顔を近付けて勢い良く訪ねてきた


 ハァ…

「まぁでも…今回ばかりはアンタのおかげでもあるわね…ありがと…」


「えっ!?何!?めっちゃ素直じゃん!?どうしたの!?そこはツッコムとこでしょ!?」


「うるさいわね。褒められたいの?けなされたいの?」


 トン、トン、トン…

 誰かの足音がまだ晴れていない煙の方から聞こえてくる…

「カレンちゃん!」


「分かってるわ…誰か来る…!」


 シロウは再び剣を強く握りしめた…!


「2人とも大丈夫だった…?」


 霧が晴れてそこにいたのは…

「ナーガさんじゃ無いですか!そっちこそ大丈夫だったんですか!?怪我とか無いんですか!?」


 シロウやカレンの緊張が溶けここではじめて少し心に余裕が持てた

 ナーガは苦笑いでシロウの相手をしていた


 少しうつむいていた状態からスッと顔をあげてナーガは喋りだした

「まだ、ラスボスが残ってるだろ?」

 そういうとナーガはレンたちのいるフロアに指先で示した


「本当だ!レンさんも戦っていたんだった!!」


「アンタねぇ…」


 ナーガは笑顔で

「どうせラスボスは死んでるし!さぁ!さっさとレンさんと合流してルーク様の元へ帰ろう!」


「ちょ、ナーガさんそれフラグじゃ…」


 皆はレンの強さを知っていた。だから安心していた。

 レンやキャンディが居るのだから負けることは無いだろうと…


 シロウが両手で扉を押して開けた

 キィィィ


「レンさーん!こっちは終わりましたよー!さっさと帰りましょ…う…!?レンさん?」


 そこにはボロボロになって倒れているレンと立て膝をついてるキャンディの姿があった…!


「大丈夫ですか!?レンさん…!?」


 シロウやカレンが倒れたレンの体を揺らして一生懸命に声をかけている…!

 ナーガはキャンディの元へ行き状況を聞いていた


「キャンディ!何があったんだ!?S級魔道士2人がこんなにもボロボロになるなんて…!」


 ゴホッゴホッ

「俺は…元…だけどな…」

 少し意識が飛んでいたっぽい…

 コイツらには伝えないと…ここは一旦逃げた方がいいって事を…


「レンさん!」

「レン!」


 カレンやシロウは少し安堵の表情を浮かべた

 レンはゆっくり座り込み口を開けた、、


「ここは…一旦…にげ…」


「逃げて下さい…!」

 とっさにキャンディが口を割った、!


「姉さん…?」


 キャンディは涙ながらに立ち上がり喋りだした…

「逃げて下さい…皆…お願い…」


「キャンディさん?…何を言ってるの…?」


 全員の頭が混乱しているようだった。

 予期もしない言葉に困惑している様子だった。。。

「あれは、まだ…私たちじゃ勝てないです…」


「だから姉さんも一緒に逃げようって…!」


 キャンディは泣きそして声を荒げた。

 それは今まで見たことのない表情だった。

「そりゃ私だって逃げたいですよ…!でも全員逃げるためには…誰か1人が囮にならないとダメじゃないですか…!あんな怪物から全員が無事に逃げられるとでも…!?」


 レンも必死に抵抗した…

「じ、じゃあ俺も残る…!何で姉さんが犠牲にならないといけないの…!?だって…」


 キャンディは座り込んでいるレンの顔の頬に両手をつけて涙ながらに語りだした…

「レン…生きてさえいれば必ず…

 だから…今は…生きて…お願い…お願い…」


「姉さん…」


 キャンディはそのままレンを抱き締めた、


「笑ってくれてありがとう


 怒ってくれてありがとう


 泣いてくれてありがとう


 姉の私を好きになってくれてありがとう」


「うぅ…クッ…姉さん…」


 黒い煙が辺りを漂う…

「茶番は終わりでいいか…?逃がさんよ誰も…ハッハッハッハッ」

 スルトは手を広げると大量の悪魔が沸きだした…!


「さぁ…ッ!早く行ってッ!」

 キャンディはレンを突き飛ばした


 レンはキャンディの元へ行こうとするがそれをシロウとカレンが止めている…ッ

「レンさんダメだって…!」


「でも…でも…ッ!」


 キャンディは地面に拳を突き立てた

「バイバイ」

 小さい声でそう呟くとレン達とキャンディの間には巨大なチョコレートのかべが現れた

「さぁ…!悪魔の皆さん!

 ここから先は…私の単独ライブですよ」


「どこまで耐えられるか楽しみじゃな…」


「人間の底力…なめんなよ」


 ………

 ……

 …



「姉さん…ッ!姉さん…!」

 レンは必死に壁を叩いた…だが壁はびくともしなかった…


「レン…」

「レンさん…」


「レンさん…行こう…進むしか…前向くしか無いよ…」


 レンはそのまま崩れ落ちた

「そんな…こんなのって…」


 レン達は走って走って走った…この気持ちを振り払おうと…でも走っても走っても気持ちは無くならなかった…

 そして…


 ーーワープ魔方陣前ーー

 姉さん…絶対に生きてるって信じているから

 俺はS級魔道士で魔法探偵…必ず…姉さんを助けるから…

レン達はそのままワープの中へと消えていった…。



 ーー最上階ーー

 バタッ…


「所詮は人間はこの程度よ…愚かで醜く…そして弱い…どうだキャンディ?悪魔は素晴らしいと思わないか?ハッハッハッハ」


 私…もう死ぬんですね…

 楽しかったなぁ…やっとお母さんに会える…

 ありがとう…レン…皆…

 …


「キャンディ…!」

 これはお母さんの声?

「諦めんなよっ」


 母はにこやかにそういって笑っていた…


 ハッ!…今のは走馬灯?

 そうですよね…諦めちゃダメですよね…


 ポタ…ポタ…

 キャンディは息を吹き替えしたように血が流れ出る体を支えるようにして立ち上がろうとしていた


「ハァハァ…まだ…ハァハァ…諦めない…」

 顔を上げてスルトを睨み付けた


「何故だ!?何故立ち上がろうとする!?気持ちが悪い!」


目にもの見せてあげますよ…

私の思い…

希望のつまった最後のあがきを…

「貴方に…とっておきの魔法を…みせるためですよ…ハァハァ…」


レン…後は…任せましたよ…

私は貴方に何も…


「魔法だと!?ろくに魔力も残っていない貴様が!?何の魔法だ!?ッッ貴様…まさか…!?禁止魔法…スーサイドッッ!?」


でもそれでも…

私は…貴方を…


スルトは驚いたようにとっさに手を伸ばしてきた!

「やめろぉぉぉぉぉぉお!!!!」


 キャンディはとびきりの笑顔で答えた

「信じています!」


 ドゴーン!!

 その爆発音は数十キロ先まで聞こえるほどの高火力だった。

 この世界での禁止魔法、

それは闇魔法と…









 自爆魔法スーサイドだった…









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