降水確率は100%

「何で降ってるんだ。」


 放課後の教室。


 窓の外で かなり本格的に降っている雨に、繁晴君は抗議しました。


「今日は降らないってテレビが断言してたから 傘なんか持ってきてないぞ!」


 隣に立っていた一子さんが苦笑します。


「それ、何処の天気予報よ」


「お前も観てる筈の あの番組」


「確か…今日の午後の降水確率は100%だって言ってたけど? 私が観た予報では」


「そんな筈は ない!」


「朝は 半分ボケてる繁晴君が…」


 一子さんは、意味ありげに耳打ちしました。


「全国の天気予報のコーナーで見た、他の地方の天気と勘違いしたに、1票」


「…あ。」


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「で…どうするのかな? か・え・り」


 すまし顔で首を傾げる一子さんに、繁晴君が答えます。


「お前は、持ってきてるのか? 傘」


「当然」


「もしかして、俺の分も…」


「何で私が お馬鹿さんの分まで、傘を準備しないといけない訳?」


 繁晴君は、顔を顰めました。


「誰が、お馬鹿さんなんだよ。」


「降水確率100%の日に 傘を持ってこない輩が、お馬鹿さんじゃないとでも?」


「─ 勘違いしたんだから、仕方ないだろ。」


「予報云々以前の問題に、今日の朝の空模様を見れば、普通の人は傘が午後から傘が必要かもと思うものなんでちゅよ? 僕ちゃん」


「僕ちゃん、言うな」


「はいはい」


 ぞんざいな返事をしながら 自分の席に戻り、鞄を持ってくる一子さん。


 空いている手を、繁晴君の鞄に伸ばします。


「じゃあ、これを持つ」


「?」


「ほら、ちゃっちゃと帰るわよ」


「い…?!」


----------


「はい、まずは教室を出る」


 腕を引いて、歩き出そうする一子さん。


 動こうとしない繁晴君に気が付き、振り返りました。


「─ 何?」


「傘持ってないんだけど」


「それは聞いた」


「俺に、お前の横を濡れて歩けと?」


 繁晴君の鼻を、一子さんが指で捻ります。


「あんた…私をどういう人間だと思ってる訳?」


「痛い!」


「私の傘に、入れてあげるわよ」


「え? 良いのか!?」


「仕方ないし」


「悪いな」


「─ いずれ この借りは、返して貰うけどね」


「う。」


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「結構、強い降りよねぇ──」


 校舎の出口。


 一子さんの、傘を開く手が止まります。


「…あんたの方が、背 高いわよね?」


「まあ、そうだな」


「じゃあ、傘はあんたが差して」


「何で?」


「─ そう言う所が、僕ちゃんだって言うの」


 ふたりが収まる様に、傘を開いて差し掛ける繁晴君。


 その肘を、一子さんが引っ張ります。


「肩が濡れたら、傘の意味がないでしょ? もっと私に身体をよ・せ・る」


「お、おう」


「そこ水が溜まって沼みたいになってるから気をつけて。僕ちゃん」


「僕ちゃん、言うな」


 無言で歩く様になった繁晴君に、一子さんはポツリと言いました。


「そう言えば、あんたと相合傘するの初めてかも」


「…え?!」


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「確か小学校の時に、一緒の傘で…」


 繁晴君の言葉を、一子さんが遮ります。


「そう言うのは、相合傘とは言わないの」


「?」


「─ それなりの関係の男女が、一緒の傘に入るのが あ・い・あ・い・が・さ」


 横目で、様子を伺う一子さん。


「まあ…ちゃんと言われた覚えが ないんだけどね。私は」


「何を?」


「釘で刺すよ。」


「今…ここで……い、言わないと………だ、駄目か?」


 パニクる繁晴君を目の当たりにして、一子さんはため息をつきます。


「今日の所は、許してあげよう」


「…」


「近日中に、ちゃんと告白する様に。」


「……」


「じゃないと、また私に借りが増えちゃうわよ?」


「お、おぅ──」

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