その必要は。

「帰りは特別に、私の傘に入れて あ・げ・る」


 下校時間。


 景冬君は、隣を歩いていた明夏さんから背中を叩かれました。


「地味に痛いから、その癖は止めろ。」


「ほら私の傘、さくらんぼ模様だし!」


「一緒に登校する時に見た」


 廊下に立ち止まる景冬君


「因みに朝、俺も 傘差してなかったか?」


「まあ、雨が降ってたからねぇ」


「じゃあ別に…お前の傘に入れてもらう必要、ないよな?」


 数歩先まで進んでいた明夏さんが、振り返ります。


「私の傘の、どこがいけないの!?」


「誰も、そんな事は言ってない」


「─ じゃあ、仕方ないから、私が あんたの傘に 入ってあげる」


「自分の傘があるんだから、その必要は──」


 明夏さんは、景冬君の鼻先に指を突き付けました。


「どうして あんたは、私との相合傘を嫌がる訳!?」


「何でお前は、そこまでして一緒の傘に入りたいんだ?」


----------


「今日私は どうしても、相合傘をする必要があるの!」


 歯を剥いた明夏さんに、景冬君が顔を顰めます。


「その癖も、止めろっていってるよな?」


「本日のラッキーアクションなのよ!!」


「─ は?!」


 ぽかんする景冬君。


 目を血走らせた明夏さんが、距離を詰めます。


「もし相合傘をしなかったせいで…私の運勢が悪くなったら、責任取れる?」


「─ 朝は やってないけど、何にも起きてないじゃないか。」


「昼休みに、スマホで知ったの!」


「迂闊に、占いなんか見るなよ…」


「悪運は蛍も殺すんだからね!?」


 低く雷鳴でも発しかねないオーラを纏って、明夏さんは微笑みました。


「あんたが相合傘してくれないなら…こちらにも考えがあるから」


「ちょっと待て。」


「人通りが多い所で大泣きするから。帰り道、あんたの横でしゃがみこんで!」


 <泣くテロ> 宣言が出たら、もう何を言っても無駄。


 経験上 そう身に沁みている景冬君は、心中に渦巻く感情を抑え込んで呟きます。


「…帰り 俺の傘に入っていくか?」


「し、仕方ないわね。」


----------


 日付が替わって数分が過ぎた頃。


 ベットの中で明夏さんは、満面の笑みを浮かべました。


「ついに景冬と、念願の相合傘をしちゃった♪ きゃ♡」

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