第11話
「幸光、もうよい。ありがとう。その……もう離してくれないか……恥ずかしい」
「忘れないでくださいね! いつでも自分が助けに行くので!」
「わ、分かったから妾を離してくれー!」
幸光から逃れ乱れた服装を直していると、雪花はあることに気がついた。
「そういえば幸光、まだ闇討ち刀を持っていないのではないか? 今から時間があるのなら刀をもらいに行こう」
闇憑きを祓うために作られた刀、それが闇討ち刀だ。闇憑きの血を刀に塗り込み、それを鍛えることで出来上がる。闇討ち刀は打って終わりではなく、刀に持ち主の血を吸わせる必要がある。そうすることによって刀に魂が宿り、持ち主の本質によって刀もまた変化するのだ。
幸光と雪花は刀を打ってくれる刀鍛冶のところに向かった。
闇討ち刀はいくつか準備されていて、その中から自分で選ぶ。
「刀左とうざはいるか?」
刀鍛冶の家を開けると中から熱風が外へ漏れた。
「おぉ!! 雪花様じゃないですか!! 本日はどういったご用件で!!」
万士藍ばんしあい 刀左とうざは刀鍛冶の中でも雪花が最も信頼する刀鍛冶だ。というのも刀左の打つ刀は軽さ、強度、どれをとっても完璧なのだ。刀鍛冶として40年以上も刀を鍛え続けてきた男の打つ刀は誰が打つ刀よりも質がいい。
「初めまして!! 天羽 幸光と申します!! 本日は闇討ち刀をいただきたく参上いたしました!!」
「彼は私の祓い子でな。少々元気すぎるところがあるが、いい子だ」
「そのようですね!! 大きな声で挨拶のできる人に悪い人はおりませんから!! それでは早速、闇討ち刀を選びましょう!! どうぞこちらへ!!」
案内される通りに、部屋の中に入っていった。部屋といっても、そこは作業場であたりには折れた刀や不思議な形状の刀などが散乱していた。
少し奥まで行くと、机の上に刀が並べられていた。
「この中から好きな形のものを選んでくだされ!! 闇討ち刀は自分の命を守るための武器でもある!! しっかりと考えてから選ぶんだ!!」
幸光は1つ1つ手にとって、1番手に馴染むものを探した。
「刀というのは木刀のような形をしているものばかりだと思っていましたが、こんなに種類があるのですね!!」
「それは俺の思いつきで作った刀だ!! 奇殺刀といって、普通の刀とは形が全然違う!! しかし、君は通常の刀の方がいいだろう!! その手のたこは何年も刀を握った証!! そこから感覚の違う奇殺刀を持つのはやめるべきだ!!」
奇殺刀。奇妙な形をした刀ではあるが、殺傷能力の高さからその名前を付けられた。番付きの中にも奇殺刀を好んで使うものがいることから、その出来の良さは窺えよう。
幸光は1つの刀を手に取った。
闇討ち刀として完成するのは、所有者の血をその刀に吸わせた時だ。まだ血を吸わせていないその刀はただの刀だ。
しかし、その刀を握った時懐かしさを感じた。今まで握ったどんな刀よりも手に馴染み、違和感がない。
「刀左殿!! こちらの刀をもらってもよろしいですか!!」
「……己の最高の刀を見つけれたようでよかった!! その刀で人々を救ってくれ!!」
幸光は刀と鞘をもらい、それから解刀屋に向かった。解刀屋でその刀を真の姿にするためだった。
幸光と雪花が去った後、刀左は泣いていた。嘆いた。
自分の打った刀は全て覚えている。幸光に託した刀の名は《灼淵・闇鳴》。
闇を燃やし、祓い、人を救い、救い、救い。自らが闇に呑まれた1人の闇祓いが使っていた刀だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます