第10話

「幸光。まずは闇祓いとしての知識を蓄えなければいけない。これは鍛錬よりも1番最初に覚えなければいけないことだ」


 幸光は雪花の部屋で講義を受けていた。

 闇祓いにとって鍛錬は欠かせないものだが、それ以上に闇祓いの知識、闇憑きの知識もまた同様に欠かせないものだ。無論、幸光は大雑把にしか理解できていない。


「まず闇祓いについてだ。なぜ闇祓いと呼ばれているか知っているか?」


「……闇を祓うためですか?」


「うむ、今は皆そういう認識だ。しかし実際は違う。闇祓いの本来の務め。それは闇に憑かれた者を救済することにある。闇憑きになった者とて好きでなった者はそういない。望まずして闇憑きになった者を闇から救済する。これが本来の務めだ」


 今や闇憑きは敵という認識で元々は人であった、そんな考えを持つ者はほとんどいない。

 闇を祓い、人を救う。それが安寧の光だ。闇憑きを殺すことが闇祓いではない。人であろうとなかろうと救うのが闇祓い。そして安寧の光の在り方なのだ。


「仲間を殺され、肉親を殺されればそれは憎しみの感情が強くなる。しかし、そこで感情に任せて力を振るってはならない。どんな時も相手が元々は人であったことを忘れてはいけない。闇憑きを殺すことを目的として己の力を振るっているのなら、それはもはや闇祓いではなく、ただの人殺しに過ぎない。これは妾の持論だがな」


「闇憑きになった者を救うには殺さなければいけない。守るために殺す……難しいですね。闇に憑かれた者はもう人に戻れないのですか?」


「それは難しいな。闇憑きになる条件は、傷口などから体内に闇憑きの血を流し込まれること。もしくは直接体内に闇を流し込まれるかの2つだ。これらを分離させるのは不可能に近い」


 闇憑きになってしまえば、今までの負の感情を制御できなくなると言われている。人ならば誰もが負の感情を抱くことがある。それらを制御するのが人だが、闇憑きになれば理性は失われ制御が効かなくなる。そして徐々に人であった事を忘れ、完全に闇憑きとなってしまう。


 闇憑きによって傷を受け、理性が効かなくなり、人であった記憶を失っていく。これが闇憑きになる段階だと言われている。

 そして今もなお、闇憑きを人に戻す手立てはない。


「救う手立てがない今、妾たちは闇憑きを殺して救う以外方法がない。妾が昨日倒した闇憑きもまた人だったのだ。妾は怖い。憑かれた者を救うとは言うが、実際には殺している自分が。妾に殺された者たちが妾を恨んでいるのではないかと考えると夜も眠れぬ」


 多くの人は三ツ花 雪花という人が強く完全な人だと思っている。しかし、その内面は人と同じく脆い。それでもなお、彼女は己のなすべき事のために挫けることはしない。屈することはしない。それが自らの使命であると信じているから。


 それでも彼女は1人の少女に過ぎない。いくら闇憑きを祓おうと、いくら人を救おうと、彼女は1人の少女に過ぎないのだ。


「妾は……怖ーー」


「大丈夫です。自分が付いていますから。安心してください。怖くなったらいつでも逃げてください。それは雪花様1人が抱え込まなければいけないことではありませんから。もしそれが雪花様の重荷となっているのなら、自分がそれを背負いましょう。雪花様は1人ではありません。俺・がそうはさせません」


 幸光は雪花を安心させるように優しく抱きしめた。雪花は優しいぬくもりを感じながら再度、確信した。


 妾は幸光のことを好いているのか……。


 温かさを感じる優しく心地よい感覚が雪花を包み、凍った心を溶かしていった。

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