第9話
「では、これより5番・力剛 馬翔と天羽 幸光の手合わせを始める。両者、礼!」
雪花が執り行い、試合という形式で馬翔と幸光の手合わせが始まった。試合は片方が膝をついた時点で勝負が決まる。試合では真剣は禁止されており、使用できるのは木製の武器のみとなっている。そして、この試合において馬翔は雪花以外から膝をつかされたことがない。これは馬翔の身体的な強さが他の番付きよりも抜き出ているからだと思われる。
「始めっ!」
開始と同時に動いたのは馬翔だった。その巨駆からは信じれないほど素早かったため幸光は動揺し瞬時に回避行動をとった。
その選択が良かったのか、木刀から放たれる一撃とは思えないほどの破壊力でついさっきまで幸光がいた場所の床に穴を開けた。破壊力のある一撃と、その隙をなくす素早い動き。これが馬翔の最大の長所だ。
「今のは避けられると思っていませんでしたぞ」
「なんの! 自分も多少素早さには自信がありまして」
幸光はまだ木刀を構えたままだ。
馬翔はもう一度床を蹴り、幸光に急接近し、速度を殺さずに木刀を振り下ろした。しかし、それは空を切った。
幸光は、馬翔の移動速度を超える速さで回避したのだ。毎日足場の悪く、いたる所に罠が仕掛けられた山を走っていたためか、その脚力は異常なまでに発達していた。しかし、それを読んでいたのか馬翔は斬り返しの際に、体が沈むように大きく踏み込み、体を捻った。
「剛の
馬翔が完成させた回転斬りだ。
力剛家の剣術は1対多数を想定されたものが多く、崩落斬もその1つだ。剛の型は必ず大きく踏み込むため隙が大きい。しかし、その分の破壊力は大きくまさに肉を切らせて骨を断つ戦い方と言えるだろう。
普通の剣術と違う天羽流は型を必要としない。
型を必要としないというのはどんな体勢からでも斬り込むことができることを意味している。それがどれほど戦闘において事を有利に運ぶのかは言うまでもないだろう。
「天羽流・炎絶一刀」
幸光の木刀から炎が噴いた。炎を噴射することで爆発的に斬る速度を上げる天羽流独自の技だ。
もちろんその反動は凄まじい。しかし、まだ片脚しか床についていない状態で幸光はそれを繰り出した。それは想像もつかないほど厳しい鍛錬を積んできた幸光だからこそできた技だった。
幸村の炎絶一刀は馬翔の木刀をへし折ったため、崩落斬が幸村に到達することはなかった。
「そこまで! 武器破壊により戦闘不能とする!」
戦う意思のない者を攻撃するのは禁止されているため、手合わせは終了となった。
「見事な一撃でしたな幸村殿。まさか、雪花様と同じ万象力を持っておられるとは思いもしませんでしたぞ」
「ありがとうございました! ところで万象力とはなんでしょう?」
「雪花様のように自然を味方として戦う力を万象力と呼んでいるのですが、その力を持つ者はごく少数。まさかその1人と手合わせ出来るとは……いい経験になりましたぞ」
「お力になれたようで良かったです!」
幸光はその力を振るうことは何も特別なことだとは思っていなかった。ただ、戦いにおいて有利になる、という認識ぐらいにしか考えていなかった。
霧鳴は闇討ち刀の力もあり炎を操っていたが、幸光の場合は雪花と同じく生来のものだった。
炎によって闇を燃やし、炎によって闇を照らす。炎は雪花の扱う氷雪と同様に強力な力だ。
いつの時代も強力な力の前には犠牲が付き物。雪花が感情を抑制されているように何かしらの犠牲がある。
幸光もいずれ犠牲を払うことになるのだろう。それがいつになるのか。どんな犠牲なのかは誰も知らない。しかしーー
犠牲は必ず必要だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます